第5話『他校遭遇』-3
「すまないが、そのデバイスを破壊してくれ」
「そうもいかない。こっちも色々とわけありでね」
「ならば仕方ないな、諦めてもらおうか」
上から目線かい。教師のこういう態度はよろしくない。
「マンガ好きにそういうセリフ吐くなよ」
だから言ってやった。
「諦めねえよ。……だてに少年マンガばっか読んでたわけじゃないんだ。俺の背中にはよう、何十、何百ってヒーローたちがいる。彼らはどんな状況でも、どんな相手でも諦めなかった!」
「あなたの決意は勇猛だが、ボクたちも引くわけにはいかない」
やけに冷静な中学生。
「いるよなー、こういう冷めたキャラ」
「煽っちゃダメでしょ」
とは言いつつ、こっちも内心かなり冷や汗モンだ。
三対二……プラス、メクリ付き。
各個撃破は難しい。
まともにやったら先にこっちがアプリ切れだ。速攻でケリをつけるしかない。
どう攻めるか考えていると、ナナカというスイカおっぱいがデバイスを構えた。
「お願い、あの人たちをやっつけて!」
その場から動かない。遠距離タイプか?
「<マーベラスなんとかー>!」
なんだ今の。
とにかく発動した。
ナナカのそばにニメートルほどの巨大なぬいぐるみ……。なんというか、ゆるキャラっぽい奴が現れた。
全身が黄色のライオン。二本足で、歩くとポテポテ音がする。短い手足。手の先端は丸い肉球。
「完全にゆるキャラじゃねーか」
「レンガ、あれ、やばいわ」
「どうした」
デバイスのマップには、あのライオンが四ブロックと表示されている。
「マジですか……」
シャッコウと大して変わんねーぞ……。
まともに戦えるレベルじゃない。正面からやり合うのは無理だ。
「フレイムほにゃららー」
「スキルか、今の? スキル発動したのか?」
「わたしのアプリ、名前、長いんですよう」
省略した。でも発動した。
デバイスにも名前が表示されているが、とにかく長すぎて画面からはみ出している。
そんな名前なんてまったく気にしない様子で、ライオンの肉球は燃えさかり、メクリを狙って地面を叩く。ゆるキャラのアクションにそれほどスピードはなかった。難なくメクリはバク転してかわす。
が、その一撃でアスファルトがへこみ、地面に小さなクレーターができた。
「頑張って! エンブレイズなんとかーっ!」
メクリを追っかけてライオンが肉球を振り回す。空振りした一撃でジュースの自動販売機が粉砕された。
空振りした肉球でコンビニが吹き飛んだ。
空振りした肉球でビルが倒壊した。
暴れ回る巨大ぬいぐるみ。しかも四ブロック。こいつが一番強い。
ゆるキャラが暴走している。この街を破壊してる犯人、こいつじゃねーの……。
「ひでーな、スイカおっぱい」
「ナナカですうー!」
そのままメクリを追っかけて離れていくライオン。どんどん離れていく。
「えー、あのライオンさん、どこ行っちゃうのーっ!」
そういう性能のアプリか……。
まあ、いい。
とりあえず落ち着いて相手メンバーの能力を計算する。
「先輩が刀を使う前衛キャラ。先生が防御タイプ。後輩が最強の攪乱。冷静に考えたら、バランス良いパーティーだよなー。こいつら主人公チームじゃねえの?」
「あんたが言うな」
「いやー。だって俺のアプリ、出落ちアプリばっかりだろ。なんか正統派ってカッコイイよな!」
呆れ顔のヨルコ。俺もできれば剣アプリとか欲しかった。




