第5話『他校遭遇』-2
まだ車の中に一人いるのが気になったが、一瞬マップに視線を送る。
よく知っている名前だった。
デバイスに表示されている、迷わずここに突っ込んで来るあいつの名前。
「レンガ、血だらけじゃない!」
いきなり怒られた。
到着した途端、これである。ヨルコ怖い。
「返り血だよ。心配すんな」
さきほどまで一緒だった刑事さんがいない。キバとシャッコウもいない。
「なんとしても病院に行って、トザンの娘さんも助け出す」
ヨルコの表情が一変した。
「そんな、まさか刑事さん……」
言いかけた言葉を飲み込む。
「……あたしがいないあいだに、重いもの……背負ってきたわね」
「引き返す道もない。行くしかないだろ」
「なんかあったら背中、貸すわよ」
「オトコ前だなー、お前」
ヨルコがちらっとデバイスを見た。
「さっき<探索>かけた時、近くにアサヒの名前があったの。それを知らせようと思ってレンガの所に戻ってきたら、もう他のデバイサーに絡まれてるし」
「なんか意図的な悪意を感じるよな」
とはいえ、かなり近くにアサヒがいるらしい。
「このタイミングか……空気、読めるかなー。あいつ」
「確かに、この状況で合流すると危ないわね」
まだまだ戦闘中だ。巻き込まれて大ケガされても困る。
まずはアプリ確認だ。
現在、俺のデバイスはメクリ、フロート、高速、カウンター。
先に<閉じる>アプリもインストール。ただ本を閉じるだけでも、奇襲程度には効果があるはず。どうせ一ブロックだ。それほど期待はしていない。
これで五ブロックしっかりセット。
最初シャッコウに使ったフロートとホールドもリキャストが終了し、いつでも使用可能になっている。
「今、なにセットしてある?」
「あたしは火薬、ヒール。それとさっき<クッション>っていう衝撃を吸収できるアプリいれたわ。二ブロックだから大きめの出せると思う」
たぶん人命救助のレスキューで使うような大型クッションだろう。
ヨルコのデバイスを覗く。
<火薬>で二、<ヒール>で一、<クッション>で二、合計五ブロック。
「さっきの氷結もリキャスト中だから、武器は出せないわよ。他に使えそうなアプリは全部リキャスト中。探したけど、残りは微妙なのばっかりね」
こっちも飲料水アプリはリキャストかかって使えない。
待ち構えているゴウラ教師と、刀使いのゼン。
最後に制服少女が車から降りてきた。
「近くの中学校の制服ね」
それどころではない。
注目すべきデカイ目標があった。
最後に出てきた少女。
揺れていた。歩くだけで揺れていた。
なにより目立つスイカおっぱい。あと数年もすれば、それはそれは見事な巨乳少女に成長するだろう。
素晴らしき、たわわな世界。
「どこ見てんの、あんた」
「気にするな。スイカのサイズを判別するのに少し時間がかかる。ちなみに、ここで必要なのは勇気だ」
「捨ててきなさい、その勇気」
……仕方ない。
戦闘が激化する前に一応、あいつらに声をかける。
「あんたたち、車があるならこの街を脱出すればいいだろう」
ゴウラ先生が意外そうな顔をした。
「なんだキミたち、知らないのか。最初、我々もこの街から脱出しようと外に向かったんだが結界みたいな見えない壁が張られて出られないんだ」
結界……だと?
眉をひそめていると、ゼンが説明を続けた。
「銀色悪魔シルバーエンカウント、あいつはボクたちを逃がすつもりなんてない。デバイサー全員をこの五本市に閉じ込めている」
「じゃあ誰も逃げられないってことかよ」
予想が甘かった。
なんとしてもあの銀色悪魔は大量の血を流したいらしい。




