第1話『戦場学園』-3
「アサヒが……爆発?」
ヨルコが首をかしげる。
「それで俺……返り血、浴びて……」
自分の制服を見直して、気がつく。
「あ」
白い制服。俺の制服。
「浴びてない……?」
なぜかキレイなままだった。血痕は一切、付着していない。
そのヨルコの背後から声が上がった。
「ん? 私? 呼んだ?」
ヨルコと対照的な小さな身長。
委員長の後ろにいたので死角になって見えていなかった。
同じ制服。見慣れた顔。
いる。
アサヒがいる。
さきほど飛び散った幼なじみが、そこにいる。
「アサヒ!」
思わず飛びついてアサヒを抱き締める。
「え、ちょっとレンガ君!」
「生きてるか? 大丈夫か? 本物か?」
爆発してちぎれ飛んだはずなのに。
ペタペタと全身を触る。触りまくる。
頭、顔、ペッタンコの貧乳、ほそいウエスト、股間、念のためスカートもめくる。白だった。そしてつま先まで調べる。
いる。ちゃんといる。ここにいる。間違いなく俺のよく知るアサヒだ。
「良かった。無事みたいだな」
安心して胸をなで下ろす。さっき見たのは幻覚だったのか。とにかくアサヒがここにいる。
「よし、問題なし」
隣のヨルコが動いた。
「問題だらけじゃあああー!」
「ふごうっ」
委員長に顔面を蹴り飛ばされた。
吹っ飛んで床を転がりバウンドし、壁に激突して止まった。
「レンガ君!」
思わず出たアサヒの声。だから俺は言ってやった。
「心配するな、俺の心は折れない」
「へし折れろ、ヘンタイ!」
叫ぶ委員長。揺れる国宝おっぱい。世界遺産かもしれない。さぞ柔らかいに違いない。
てか、鼻、いてえ……。
全力で痴漢被害にあったアサヒは目が点になって硬直している。
「いやー、実はさっきアサヒが……」
あの幻を説明しようと口を開く。幻覚にしてはかなりリアルな映像だった。あとであの場所を調べたほうがいいかもしれない。
「ひゃ!」
激震。アサヒが委員長にしがみつく。
不意に視界がブレた。下から突き上げる激しい揺れにバランスを崩し膝をつく。
「なんだ?」
学校全体が揺れていた。あっちこっちで何かが崩れる音がする。普通の地震じゃない。
「どうなってるの?」
ヨルコの不安そうなつぶやき。
図書館の天井が殴り飛ばされた。
目の錯覚か、さらなる幻か。鋭い腕のような何かにたった今、天井がもぎ取られた。
崩壊する壁、消えた天井。どこかで聞こえた悲鳴と衝撃音。
まるで現実味のないリアルが目の前で起こっている。
「レンガ!」
ヨルコが指さす視線の先。それはいた。
図書館を覗き込んできた赤い眼。赤いウロコ。尖った牙。
まるで怪獣映画だった。
赤き竜。レッドドラゴン。見上げると、ざっと二十メートルはあるだろう。天井をぶち壊したドラゴンが俺たちを見下ろしている。
小さなクラスメイトの手を引いて駆け出すヨルコ。
「逃げるわよ!」
理屈ではない。直感だった。