第3話『メイドもどき』-3
「これが私のアプリ。<全自動メイド革命>よ!」
しなやかな指さばきがデバイスを打つ。
瞬時に十メートルほどの馬鹿デカイ洗濯機が現れた。横から投入可能なドラム式だ。
敵は三ブロック。
「刑事さんの車を飲んだの……こいつか!」
食器棚同様にデカイ。とにかくサイズがおかしい。見上げていると手前についているフタがオープン。立ち向かおうとしていたメクリを容赦なく吸い込んだ。
もはや打つ手なし。口は半開きでポカーンである。
「なんて吸引力……」
ヨルコのつぶやき。
洗濯機のフタが閉じ、内部で激しく泡立つ洗剤。洗って脱水。すすぎで脱水。最後に乾燥。フタが開いてペッとメクリが吐き出される。
「大丈夫か、メクリ!」
「マイトリガー、あの洗濯機は……優秀です」
<アプリ/ブレイク>
メクリが消滅。六十秒のブレイクタイムが表示される。
「きれいサッパリやられたーっ!」
「ふふん、これで一分のブレイクね」
こんなアホなアプリに負けた……。だがもし人間が吸い込まれたら呼吸できずに溺死だろう。洗濯機で溺れ死ぬのはごめんだ。
「私のアプリは三ブロック。どうやらあなたのアプリは一ブロックみたいね。このバトルはブロックの大きさが絶対。知ってるでしょ?」
確かに俺の一ブロックじゃ相手にならない。
「あなたたちもさっき見たはず。あのシャッコウのクレイジーな破壊力を」
ずいぶんと離れてしまった学園の方角を指さすカリン。喋りつつデバイスを叩く。
「自分であんなバケモノを倒そうなんて思わないわ。私もさっき襲われて全力で逃げてきたの。おかげでお店が潰れちゃったわ」
すぐ近くで倒れていた食器棚が消えた。ブレイクしたわけではない。意図的にデリートしたようだ。
「あんなバケモノは他のデバイサーに任せて、私は徹底的にザコデバイサーを蹴散らすの。ああ、なんて素敵な大虐殺! このおもてなしこそ、世界レベルにクレイジーッ!」
「ああ、本当にクレイジーだよ……」
「まともな人はいないのかしら……」
ここでも俺はザコあつかい。
だがこれで相手の手持ちアプリは予測できる。シャッコウから逃げてきたってことは、このメイドもどきも五ブロックを持っていない。
「私はね、まだ死ぬつもりはないの」
まるで焦りはない。むしろ優雅な歩み。
デバイスをタッチ。あえてゆっくりと条件を揃えるように、しだいに目が吊り上がり唇が凶悪に不自然な笑みの形をつくる。
「これが<淑女のテーブルクロス>よ!」
カリンの手元に二ブロックアプリが出現した。真っ白な清潔感のある大きな布だった。
こちらも同じタイミングでブレイク終了。メクリを出現させる。
「トリガー、あの洗濯機は危険です」
「あのメイドはもっと危険かもな……」
さっきから定期的にデバイスを叩いていると思ったら、こいつ戦闘中に使わないアプリをデリートして即、別のアプリをインストールしている。
このメイド、ずいぶんと戦い慣れている。
おそらくさきほどまでは食器棚の二ブロック、洗濯機の三ブロックでデバイスが埋まっていたが、転倒中の<淑女のたしなみ>を消して次のアプリをインストールしたようだ。
風にあおられ真っ白な布がふわりと広がる。
「では、参りましょうか」
こちらのデバイスにも敵のアプリ名は表示される。
二ブロックアプリ<淑女のテーブルクロス>。
もう意味が分からない。
この名称だけではアプリ効果まで予測できない。
「はあい、当たり」
風を受けた大きな布が、ただの布に見えたそれが、不意に鋭く伸びてメクリの頭部に突き刺さった。
鋭利な凶器となって完全にメクリの頭を貫通している。きっと人間なら脳ミソを撒き散らしていただろう。
<アプリ/ブレイク>
メクリさん再び消滅。もういい、驚かない。




