第1話『戦場学園』-2
胸元に両手を添えて、薄いピンク色の唇が小刻みに震えていた。足下の本が勝手に開き、次々とページをめくる。室内に風は吹いていない。誰も本に触っていないのに、とあるページを示してそれは停止した。
自然と文字を追う。
見えたのは、ほんの数行だけ。
悪魔召喚。
異界へのいざない。
全身の体温が急激に下がった気がした。答えのない寒気が背すじを這い回る。身体がこわばる。動けない。何かが起きようとしている。
不安だけがアクセルを踏んだ。
「レンガ君」
アサヒが泣いていた。
そして。
「私ね……」
目の前にいた幼なじみが飛び散った。
何を言いかけていたのか、いったい何が起きたのか。
考えるより先に現実が俺を打ちのめした。見開いた世界に映り込むのは、赤、赤、赤。
ただ呆然と。
言葉を失って立ち尽くす。
突然の肉体爆発。
床に、壁に、本棚に。見境なく飛び散った肉と血液。俺の足下に転がってきたどこかの骨。混乱と動揺で視界が揺らぐ。まともに立っていられない。
なにが……。
なにが起きた?
いったい何がどうした?
どうやったらこんなことが起きるんだ。
「アサヒ……?」
呼びかけても応えはない。
当然だ。アサヒは今、目の前で砕け散った。
数秒経っても答えは出ない。意味が分からない。
「アサヒ?」
返事はない。自分の制服にこびりついた肉と血。幼なじみの身体の破片。
「うわあああっ!」
理解より先に溢れ出した圧倒的な恐怖。内側から噴き出した自分の声。
気がつけば走り出していた。
ここにいてはいけない。本能的な導き。
まとわりつく感情を振りほどいて、慌てて出口を目指す。
ドアが見えた。
図書館の外に飛び出そうとした瞬間、目の前を人影が横切った。
よける余裕なんてない。勢いそのまま、あえなくぶつかる。
「ちょ、どうしたの、レンガ?」
声が降ってきた。
情けなく尻もちをついた俺を見下ろす長身の少女。
「ヨ、ヨルコ……」
意志の強い眉。鋭く直線的な視線。ピンと伸びた背すじ。落ち着いた雰囲気。そこにいるだけで空気が鎮まる。
金髪がかった栗色の髪。長いストレートヘアがふわりと揺れる。ロシア人の母と日本人の父をもつハーフ少女。もっとも目立つのは攻撃的に突き出ているたわわな胸。俗に言うロケットおっぱい。動くたび揺れる。彼女の呼吸に合わせてプルンプルン揺れる。俺の視線も上下に揺れる。
「いや、そうじゃなくて」
「なんの話?」
「それどころじゃないんだ」
俺と同じクラスのプルンプルン委員長。地祀・ミラ・ヨルコ。
目前のおっぱいに話しかける。いや、観察してる場合じゃない。
「ヨルコ。俺、さっき……」
尻もちをついたまま、震える手で委員長の短いスカートを握り締める。
「だから落ち着きなさいって」
落ち着けるかよ。さっき見たあの映像がしっかりと脳裏に焼きついている。常識ではありえない光景。
「さっき、アサヒが……」
飛び散ったアサヒと俺たちは同じクラスだ。名前を聞いただけでヨルコの表情が変わった。
「いきなり、あいつが爆発して……」




