第3話『メイドもどき』-1
<ノイズ>大音量で騒音が五秒間、流れます。
<ノータッチ>音声認識アプリ、タッチせずに声だけで他のアプリが発動できます。
微妙だな。触らずにアプリ発動ってのは使う機会があるかもしれないが、そのためだけに一ブロック使うのか……。デメリットが大きい、今はやめておこう。
「そういえば」
バトル開始前にメクリへ確認しておく。
「ダメージ計算のことなんだが、アプリ同士のバトルの場合『削り』って状態は発生するのか?」
格闘ゲームでよくある現象だ。弱いキャラでも削り勝ちってプレイがある。
「たとえば敵に対して、メクリが気合いれて百発オラオラしてもダメなのか?」
「ダメです」
「千発オラオラしてもダメなのか?」
「ダメです」
あの一族のような連打系パワー能力は発揮できないってことか……。
「一ブロックは一ブロック。五ブロックは五ブロック。数値の差は小さくてもルールは絶対です」
ダメージが通らないシステム……。
「ワタシがお役に立てるのは、相手も一ブロックの時だけです」
「この攻撃力三倍の<奥義>アプリを使ったら?」
「その時だけ三ブロックアプリにダメージを与えることができます」
メクリでは三ブロックが限界。いくら不意打ち、奇襲を利用しても、シャッコウ相手に力押しではダメージなし、か……。
「下位ブロックと上位ブロックの差は絶対か……」
なんとか五ブロックアプリにダメージを与える方法を探さないと生き残れない。
つくづくあいつのシャッコウはデタラメな設定だな。勝つ方法がないサバイバルって、バトルとして成立してないだろう。
「……いや、そうだとしても」
たとえ弱くても同じアプリを複数インストールできれば……。
ためしに右側の検索ページで他の<メクリ>を探してみる。が、やはりない。
メクリを五体インストールして攪乱戦法とか考えたが、この一体しかインストールできないようだ。
戦略に幅ができると思ったんだが……。
「ん、ずれてきた」
「なにしてるの、レンガ」
自分の制服の中に手を突っ込む。
「図書館で走り回っている時に拾ってさ」
いつも週刊発売している分厚い少年マンガだ。
「これがないと生きていけないわけよ、少年たちの聖書だぜい」
いれる場所がなかったので制服の腹に挟んでいた。なんとかベルトで固定している。
「あの状況でよく見つけてきたわね……」
「使命感、みたいなモンだよ。マンガに人生預けてるしな」
「そんなあんたに命を預けているあたしの不安も考慮してほしいわね」
「大丈夫、なんだかんだ生きてる」
「死亡フラグ全部へし折るスタイルでしょ?」
「よく無事だったなー、俺」
たった一時間でとんでもない大冒険をくぐり抜けた印象がある。
「にしても、ずいぶんと慎重だな、向こうのデバイサー」
さきほどからマップに名前は表示されているが、ある程度の距離から相手が近づいてこない。五十メートルギリギリを付かず離れず移動している。
デバイサー、白花カリン。
タイミングを計っているのか?
攻撃をしかけてこないってことは、使えるアプリは近距離タイプ。しかもリキャストに時間が必要になるから連発できない能力だろう。
おそらく最初に必殺の一撃をしかけてくるはず。
「仕方ない、こっちから牽制するか。……メクリ」
メクリを少し先行させる。
俺たちも早くアサヒとユウトを見つけなくちゃいけない。ここで時間の無駄づかいをしている余裕はない。
「まだ突撃しなくていい、様子を見る」
「イエス、マイトリガー」
遠距離ではお互いに手を出せない。
向こうがこのまま様子を見るつもりなら先にこちらが出るしかないが……。