第2話『刑事発砲』-4
ヨルコがデバイスのマップを見せながら言った。
「それならバトルをさけてこの街を出て行ったほうがいいと思いますよ」
「そうしたい所なんだが、近くの病院にユナって娘がいるんだ。入院中でな」
「でもデバイスが使えないと生き残れないわ」
刑事さんがひとつ、うなずく。
「ヘタしたらこの騒ぎで病院が破壊されてる可能性だってあるだろ。まず娘の所に行きたいんだが……」
俺たちの学校はあっけなく崩壊した。
「だったら娘さん連れてこの街から逃げてくれ」
このサバイバルに参加するつもりがないなら、この人は街から脱出して早急にリタイアしてもらったほうがいい。
あの銀色悪魔はこの街に固執している。より多くのバトルを発生させ、この五本市でさらに多くの血を流そうとしている。
逃げ出す者は血を流さない。
逃亡者にこだわるメリットはないはずだ。街を出たらサバイバルの権利を失うシステムかもしれない。
「……で、ここに良いアプリがある」
俺はヨルコの肩をポンと叩いた。
「え、ちょっとレンガ、まさか」
ヨルコの言いたいことも分かる。
「あたしたちだっていつバトルに巻き込まれるか分からないのよ? しかもガードのリキャスト一時間もあるのに……」
「ヨルコ、頼む」
「……これがあれば、もっと有利に戦闘を展開できるのに……」
「お前がそばにいれば大丈夫だろ」
「あーもー、あんたはこれだから……」
さらに何か言おうとして、委員長は口をつぐんだ。呆れ顔でアイコンにタッチ。
「トザンさん、このアプリはあらゆる攻撃をガードできます。ただし五分間しか効果がありません。すぐに病院へ向かってください」
「すまねえ、恩に着る」
「ガード発動っと。……気をつけて」
トザンを中心に半透明なドーム状のバリアが展開された。そのまま走り去って行く刑事さんの背中を見送る。
「正義の味方を演じるつもり?」
「少年マンガの基本だろ」
悩みのタネを振り払うように頭を左右に振るヨルコ。
「で、レンガ。目的地が病院ってことは、あの人と向かう方向は同じでしょ? だったら一緒に……」
「そう行きたいところだが、さっきマップに一瞬、名前が映った。知らないデバイサーが近くまで来てるぞ」
「警察より、軍より、デバイサーが一番危険ってことね……」
デバイスのマップ。その左下に数字が浮かんだ。
『残りデバイサー、七十』
すでに三十人も死んでいる。俺たちの知らない所で現在も誰かの血が流れている。
一般の人を含めるとその規模はとんでもない数字に膨れ上がるだろう。
この惨劇を誰かに任せることはできない。
俺たちの手で……。
「このバカげた争いを終わらせる」