第2話『刑事発砲』-2
まさかマンガのコマのことか?
最後のコマ……。まったく意味が分からない。
とりあえず人間の形はしているが、一応アプリである以上、人ではないのだろう。
じーっとメクリの胸元を見つめる。ほどよい形。ほどよい大きさ。悪くない。でも機械みたいなモンだから何か硬い物で出来ているのか。
「ちなみにワタシの胸は肌ざわりバツグンの柔らか素材で出来ています」
まさにこの出会いは運命。
「よっし、人生なにが起こるか分からない。うっかり死ぬ前に確認せねばならない。そのおっぱいを揉まねばならない! 今、決めた。俺はおっぱいを触ると今、決めたあああーっ!」
「アホがあああーっ!」
ヨルコの強烈なハイキックが顔面にきまった。あえなく倒れる。
「待て、男のロマンだ。さきっちょだけでも!」
「それどころじゃないでしょ!」
「乳輪だけでも……」
顔を踏まれた。
アプリなんだから、いーじゃないすか……。
「鼻、いてえ……」
突然マップに名前が表示された。遊んでいる場合ではない。
敵が来る。
態勢を整え自分のデバイスを確認。現在、俺のアプリはメクリ、フロート、ホールド。さきほどの<奥義>もインストール。いざって時はこれでメクリの攻撃力が三倍にできる。
あまり力押しは当てにならないが無いよりマシだ。
近づいてくる。相手は止まらない。
青山トザン。デバイサーだ。
実際に戦ってみるまで相手の能力が分からない。得意なのは遠距離なのか、近距離なのか。ストレートなパワー系か、それともトリッキーな能力なのか。
最初の接近遭遇がもっとも緊張する。
「ね、ガード使っとく?」
先に手の内を晒すのが果たして得策か?
「待て、相手の姿が見えた」
同時に空気が破裂した。
少し遅れてそれが銃声だと気がつく。俺たちの足下に一発の弾丸がめり込んでいた。
たぶんアプリじゃない。本物の拳銃か?
現れたのは中年の男だった。
ボサボサの髪。ヨレヨレの古ぼけたスーツ。靴まで泥だらけだった。すでに別の戦場を経験してきたのか、俺たち同様に酷く汚れている。
「挨拶がわりに撃ってくるなんて、いきなりプレイヤーキルかよ」
かるく煽ってみるが相手は表情を変えない。危険な環境に慣れた雰囲気がある。
こちらに銃口を向けたまま、男が喋りだした。
「腕に張り付いているそのオモチャを外せ」
「無理だ、あんたもデバイサーなら分かるだろ」
「それが危険なオモチャだってことは分かる。とにかく外せ」
無茶苦茶言ってくれるな、この人。
普通の街にいて、スーツで、拳銃所持。最初の一発は威嚇射撃。
「私服警官ってトコかな、青山トザンさん?」
相手の腕にもデバイスが嚙みついている。画面に表示されているお互いの名前。
「あいにく探り合いをしている余裕がないんだよ、学生さん。こっちも急いでるんだ。全員ぶち殺せってルールだろ? しかも百人。……こんな仕事は早く片付けたいんだ」
男の指が引き金にかかる。
会話で引き延ばせるタイプじゃない。すでにこの人は精神的にかなり追い詰められている。
俺がデバイスに触れた途端。
「恨むなら、あの悪魔を恨んでくれよ」
撃った。
あまりに短い時間。
考える余裕はなかった。
対応できない。
銃口は確実に俺を狙っていた。
銃声が聞こえた気がする。
あっけなく死ぬ。俺は死ぬ。
数回のまばたき。
上がる硝煙。
現実がゆっくりと流れる。