第2話『刑事発砲』-1
マップから赤尾キバの名前が消えて二十分ほど。
追いかけてくる気配はない。さすがにあの大ケガだ。しばらく動けないだろう。
あのまま大量出血でくたばってくれたら一番ラクだが、おとなしく自滅するような男じゃない。
やはり油断はできない。次のバトルのために別のアプリを検索する。
いつものデバイス右側。
そこにはインストール可能アプリ百二十、と表示されていた。
おかしい。さっきまで検索アプリは八十だったはず。
「ひゃくにじゅう……デバイスのアプリ増えてるぞ」
「あ、あたしも増えてる」
これもあの銀色悪魔、シルバーエンカウントのしわざか。
すべてのデバイサーにとって、どんどん戦略の幅が増えていく。生き残っている奴ほどヤバイアプリを隠し持っているかもしれない。
でも俺のデバイスは安定の一ブロックのみ。全部一ブロック。どんな嫌がらせだよ。
それでも一応、中身を確認しておく。
<飲料水>アプリ効果。おいしい水、五百ミリリットルが出せます。
あー、使える。
いや、使えねえだろ。落ち着け俺。
<奥義>一回だけ攻撃力が三倍になります。
こっちは役に立つな。ただしリキャスト一時間……。本当に必殺技か。たった一発しか使えない。命中しなかったら途端にゴミアプリへ成り果てる。
「そっちは、なんかあったか?」
ヨルコのデバイスを覗く。何かのアプリをじっと見ている。
<速乾>洗濯物が一瞬で乾きます。
「便利ね、これ……」
ふと、たわわな胸を見る。
「あー、お前のブラ、デカイもんなー。乾かねえよな」
「こっち見んな、ヘンタイ」
普通に怒られた。
にしても、なんだこの日常お得シリーズ。
そろそろフードショップの割引クーポンアプリとか出てきそうな雰囲気だな。
「んー、ちょっと待って」
デバイスに指を当てていたヨルコが何かに気がついた。
「あ、これ、削除できるみたい。さっきの火薬ってアプリ、デリートできたわ」
「マジか!」
「たとえばこれね」
ヨルコが身体を寄せてきた。
「この<探索>をいったんデリートするには……」
デバイスの画面中央にあるインストール済みのアイコンに指を当て続ける。数秒後、アプリの下にメッセージが表示された。
『アプリをデリートしますか?』
「ここで『イエス』って選択すると削除されて、デバイスの右側に移動するの」
中央部分には二ブロックの<ガード>だけが残って、上に三ブロックと表示された。
これで新たに三ブロックのインストールができるわけだ。
「消したアプリは消滅しないのか?」
「大丈夫、右側に移動するだけ。また一分でインストールできるみたい」
色々と応用はできるわけだ。
「レンガ、これこれ。一ブロックの<ヒール>発見」
「回復タイプは助かるな、さすがサポート職人」
「でも一ブロックだから……死にそうな大ケガの回復とか、たぶん無理よ。ちょっとした軽傷レベルの治癒効果だと思う」
かろうじて戦力が整ってきた気がする。
「ヒールとガードは必須ね。レンガ絶対ケガするでしょ?」
「かたじけない」
「これで三ブロック使って、アサヒとユウト探しがあるから<探索>でさらに一使うから……隙間は残り一ブロックか、どうしようかな……」
俺のすぐ後ろをついて来るもう一人の相棒を振り返る。
「で、メクリってどんなアプリなんだ? 能力は?」
真っ白な少女アプリは表情ひとつ変えずに答えた。
「ワタシはいつでも最後のコマになることができます」
「コマってなんだよ……?」




