第1話『戦場学園』-13
これが俺の答えだ。
「フロートォォォーっ!」
発動、同時に駆け出す。
ターゲットはシャッコウに設定。
「燃え尽きろ、ザコがーッ!」
これまでのバトルでシャッコウの行動パターンは分かっている。
まずキバの命令があり、ターゲットを狙い、息を吸い込むモーションがあり、ようやく炎が吐き出される。
どれだけ攻撃、防御ともに強大でも、それらの行動をキャンセルできない。
攻撃までのタイムラグは必ず発生する。
先に俺のフロートが効果を発揮した。
レッドドラゴンの全身が一メートルほど浮かび上がる。
制限時間は五秒。
アプリ効果は『あらゆる』ターゲットを浮かせる。つまりそこには大きさも重量も制限はない。相手のブロック数も無視して浮遊させる。
「なん、だとッ!」
ドラゴンの頭上にいたキバが不意を突かれバランスを崩した。
安全なシートベルトも何もない。身体を支えることは不可能。
その条件はシャッコウも同じ。
「普通の人間、なめんなあああーっ!」
シャッコウへ全力の体当たりをかます。
ほんのわずかなプチ無重力なら、小さな力で相手のバランスを崩すことができる。
あとはすべてが自動的だった。
支えを失ったレッドドラゴンが空中で転倒する。
たった五秒。
すぐに自らの重さを取り戻し地上に叩きつけられる。
ドラゴンがぶっ倒れた衝撃で周辺に土煙と轟音が響き渡る。
そしてあいつが落ちてきた。
たとえ強力なアプリを持っていても、デバイサーは俺と同じ人間。高さ二十メートルの高高度から落下して無事に済むわけがない。
キバが落下して数秒。
動いた。容赦なく地面に叩きつけられても、あいつはまだ生きている。
「チャンスだ。トドメを刺す。あいつを止めなきゃ、もっと被害が広がる!」
近づこうとした俺の腕を、強烈な握力でヨルコが掴んだ。
「待って、レンガ。落ち着いて。あたしたちにとって今、勝つことが目的じゃないの。生き残ることが大事なの」
目前にある最大のチャンス。
「このチャンスを逃すのか? あいつを生かしておいたら、これからさらに命を落とす人だって……」
「命がけなのは、こっちも一緒でしょ!」
一瞬の沈黙。ぶつかる視線。
シャッコウは転倒しただけ。じきに起き上がる。
キバにトドメを刺したくても、この状況で確実に人間を殺せる武器が……。
武器が。
武器。
…………ない!
「お願い。これからのバトル、あたし一人じゃ無理かもしれない。力を貸して」
ヨルコの言葉を自分自身に言い聞かせる。熱くなりすぎている。
「忘れないで。これは生き残るための戦いなのよ」
分かっている。分かっているつもりだった。
「ねえ、レンガ!」
頭を冷やせ、冷静になれ、俺。
「……ああ、分かってる……」
言い争っている場合じゃない。
ヨルコの手をとって走り出す。
学園の外を目指し、校門へ向かって疾走する。無言でメクリも並走してきた。