第1話『戦場学園』-12
誰かがこいつを止めなきゃいけない。
メクリじゃ無理だ。認めたくないが弱すぎる。
ヨルコのサポート系アプリでも無理だ。
力押しでは勝てない。
俺のデバイス。俺のアプリ。
メクリ、ホールド、フロート。
幻覚のハルシネ、導火線、本を閉じる、かけ算、サーモグラフィー。
どれを使えばあいつを止められる?
どうすればあいつに一撃決められる?
考えろ、考えろ、考えろ。
このままじゃ二人とも殺されて終わりだ。
最悪の状況を脱出するために。
なんとか使えそうなもの。
……フロートか?
わずか五秒の浮遊時間。
メクリを浮かせて不意打ちをかけるか。
ダメだ。致命的に攻撃力が足りない。
シャッコウを狙わずにキバ本人を狙うか。ただしあいつは遥か上。地上二十メートルまでフロートで移動して……。性能の低い一ブロックアプリにそんな曲芸が可能なのか。
ダメだ。この賭けには乗れない。
だとしたら俺を直接浮かせるか?
自分で直接ドラゴンに突っ込む。
ダメだ。完全に死亡フラグだ。
デバイスに表示されているフロート。ターゲットの文字。
……ターゲット?
「おいおい手詰まりかァ? じゃあついでにキレイさっぱり、お掃除してやろうかァ!」
シャッコウが息を吸い込む。狙われたターゲットはスタート地点の図書館。
「焼き尽くせ、シャッコウ!」
吹き荒れる炎。目の前で燃やされ、完全に焼け落ちる図書館。
「お前、なんてことを……」
トドメ刺しやがった。
逃げ遅れた誰かが、まだいたかもしれない。
怯え隠れていた誰かが、まだいたかもしれない。
すべてが燃え尽きた。命が燃え尽きた。
「許さねえ、許さねえ、許さねえ。なにもかも許さねえ!」
沸騰した怒り。
「学園を壊し、人を殺し、俺が大事にしていた場所まで奪った……」
「だったら、ぜーんぶ諦めて一緒に死んどけよ、一ブロックデバイサー」
「言ってくれるな、イカレが。……知ってるか? あの図書館にはたくさんの本と一緒にたくさんのマンガがあった」
「くだらねえ、たかがマンガだろう?」
レッドドラゴンの頭が俺を見下ろす。
「分かってねえな」
拳を振り上げる。
「どれだけ敵が強くても、俺が信じたマンガの主人公たちは最終回まで勇敢に戦って、最後の一ページまでファンを導いてくれた」
「それなら、くだらねえ思い出に溢れて死ねよッ!」
「ああ、溢れてるんだよ、マンガには! 勇気だけなら存分に充電済みだ!」
「勇気だけで現実に勝てるわけねえだろ、ザコがァ!」
「決めた、決めた、今、決めた。俺がお前をぶちのめす。マンガの面白さも知らねえ奴に、俺が負けるわけがねえ!」
「コンビニに並んでいる雑誌ごときで、なあに熱くなってやがるッ!」
「俺は忘れない。ページをめくるあの興奮を忘れない。あの熱量を忘れない。マンガに込められた情熱を、今もこの指が覚えている!」
「だから、どうしたァ!」
頭上のキバに怒りを込めて指先を突きつける。
「そこにあるのが圧倒的な絶望でも、それでも俺は次のページをめくる!」