第1話『戦場学園』-11
「頼むぜ、ホールド!」
アイコンにタッチ。デバイスにメッセージが流れた。
『ターゲットを指定してください』
迷わず画面左に表示されているシャッコウの名前をタッチ。インストールしたばかりの<ホールド>が瞬時に発動した。
シャッコウの足下から数メートルの植物が湧き出した。長い蔦が伸び、ドラゴンの足を絡め取ろうとした瞬間。
「蹴散らせ、シャッコウ」
また踏まれた。抵抗むなしく潰される植物。
<アプリ/ブレイク>
また銀色悪魔の声がした。
「うっせーよ、見りゃ分かるよ!」
どうやらホールドできる相手にサイズ限界があるらしい。
発動しても巨大なターゲットには効果なし。おそらく人間サイズにしか対応していないアプリだ。
冷や汗が頬を伝う。
なんの役にも立たないが、とりあえず時間稼ぎはできた。
ブレイクから六十秒。
「メクリ!」
再発動。アイコンをタッチ。あの初期発動と違ってすぐに光が集約され人型になった。
メクリさん登場。
「なんだよ、さっきの!」
「ワタシたちアプリは、ブロックの大きさが『強さ』と比例します。あのシャッコウは五ブロック。最強です」
「おう」
「ワタシは一ブロック。最弱です」
「おおう……」
「最弱ですよ?」
「最弱ですか」
「最弱です」
「マジっすか、メクリさん……」
「マジっすよ、マイトリガー」
絶望の足音が聞こえた。
闇雲にデバイスのアプリを検索する。
やはり五ブロックなし。四なし、三も二もなし。当然のように俺のデバイスには一ブロックアプリしかない。
最悪の顔色で、遥か上のデバイサーを見上げる。
「そこのザコ。お前、さっきから一ブロックアプリしか出してこねえなァ。もしかしてそのデバイス、一ブロックしかインストールされない大ハズレか?」
気づかれた。
「ククッ……。よわよわ弱すぎィィィーッ! まさに最弱の一ブロックデバイサーじゃねえかァ!」
「最弱の、一ブロックデバイサー……」
容赦ない現実。
まったく否定できない。
今の俺には戦う武器もアイテムも能力もない。
見事に何もない。
その時。
図書館の方向からサッカーボールが飛んできた。
続いて複数の野球ボールがシャッコウに当たる。
他のデバイサーの攻撃か。
いや、デバイス画面には俺たちの名前しかない。
今のはデバイサーじゃない。さっきグラウンドから逃げた運動部の生徒たちだ。
「邪魔なんだよ、ザコがァ!」
ドラゴンの首が動く。狙いを定める。
「待て、やめろ!」
シャッコウの炎が逃げ遅れた生徒たちを焼き尽くす。
断末魔の叫び。簡単に、たやすく誰かが犠牲になる。
無力だった。助けてやれない。
「なんで……。なんで簡単に殺すんだよ。あいつらはデバイサーじゃなかった!」
「なぜだと? 簡単なことだ。銃があったら誰かを撃ちたくなるだろう? 刀があったら誰かを斬りたくなるだろう? オレ様はこうして力を手に入れた。当然、すげー力を使いたくもなるだろうッ!」
「狂ってるよ、あんた……」
「違うね。オレ様の虐殺衝動が開花しちまったのさァァァーッ!」