第1話『戦場学園』-10
圧倒的な光量が広がり続け、世界が白く染まる。視界が完全にゼロになるほどの輝きがすべてを支配した。
数秒後。しだいに光が収まり、目を開ける。
グラウンドの中心に出現した人型の発光体。
ゆっくりと光だけが解けて天に昇っていった。
現れた物体。
それは人間の形をしていた。
ほそい腕。ほそい足。くびれたウエスト。膨らんだ胸。
少女だった。
長く真っ白な髪。白い肌。生徒の姿をコピーしたような学園の白い制服。
少女が目を開けた。まっすぐに俺を見る。
「マイトリガー、指示を」
「とりがー……俺が?」
「あなたの選択がワタシを解き放った。ワタシが発動するための引き金を引いた者。あなたです。マイトリガー、指示を」
その前に、ひとつ気になったことがある。
「いや、つーか、アプリ発動のために声に出さなきゃいけないのか。さっきアイコンをタッチしただけじゃ反応しなかったぞ」
「魔法使いの呪文の詠唱と一緒です。発動するための条件、と捉えていただければ」
アプリ発動のために名前を呼ばなきゃいけないのか……。
まあ、そういう設定なら仕方ない。
あの銀色悪魔、見えないトコで色々とやってくれるな……。
気を取り直してレッドドラゴンを見上げる。
「さあて待たせたな、ここから逆転させてもらおうか! キバ!」
「いいだろう。ザコの本気、見届けてやろうッ!」
これだけハデな登場しておいて弱いわけがない。期待を込めて叫ぶ。
「手加減はいらねえ。やっちまえ、メクリ!」
「イエス。マイトリガーッ!」
人間では到底マネできないようなスピードと跳躍でシャッコウに接近。そのままドラゴンのボディに連打連打連打。メクリの連続攻撃。赤いウロコに拳を叩き込む。
チャンスだ。ここで一気にたたみかける。
俺のデバイスにはまだ余裕がある。
すぐに検索をかけ、念のため他のアプリもインストール。
<ホールド>ターゲットを五秒間、縛ります。
「足止め系アプリ……これなら使えるか?」
<フロート>あらゆるターゲットを五秒間、浮かせることができます。
たった五秒……。とりあえず両方ともインストール。どうせ一ブロックだし。
そのあいだ高速の連撃によってシャッコウは動けない。動かない。
「メクリ、トドメだ!」
勢いよく拳を振り上げたメクリ。
渾身の一撃を放つ瞬間。
シャッコウが巨大な片足を上げた。
そして踏んだ。
踏まれた。プチっと。あっけなく。
メクリが踏み潰された。
<アプリ/ブレイク>
銀色悪魔の声がした。
そしてメクリが光の粒子になって消えていった。完全に消えた。
「おおい! どーなってんだよ!」
シャッコウ相手にあっさりメクリが撃破された。こちらがトドメを刺されてしまった。
「俺のアプリ、弱いぞ!」
消滅したメクリ。
デバイスの画面中央にアプリはあるが、アプリアイコンが暗く表示され触っても反応しない。
「おい、メクリ、メクリ、メクリ!」
アイコンの下に六十秒のカウントダウンが表示された。次の発動まで一分かかるのか?
まさかこれがブレイク状態……。
アプリが破壊され一切の反応を示さない。
「まったくの無力、無力、無力ゥゥゥ! いいねえ、見事なザコっぷりだ。余興にしては上出来だなァ!」
メクリの攻撃はまったく通用していなかった。
おそらく、何も。何も、何も、何もダメージを与えていない。
「出落ちアプリかよ……」
さきほどの連撃オラオラは無意味だった……。
落ち込んでいる暇はない。メクリのブレイク回復のあいだにできることがある。