よりみち:椛の人生〜師との出会い〜
椛出生から5年後、この国では病が流行した。それは国民だけでなく将軍の弟梅行とその妻も例外ではなかった。そして2人は椛を置いて流行り病で死んでしまうこととなった。死んでしまったその日亡骸を前に椛は泣いて泣いて泣き続けた。
「椛、父上と母上は死んでしまったがこれからは私のことを頼るといい。梅行たちのようにはいかないが私たちが新しい家族だ」
「父上と母上はもう……いないかしら。誰ももみじの父上と母上の代わりになんて……ならない。もみじを置いて……どこかに行ってしまったのよ」
「そんなことない、2人ともずっと椛を見守っている。どこにも行ってないんだよ」
「じゃあ! 父上と母上を連れて帰ってきてよ! もみじを置いてどこかいったのよ! もうどこにも、どこにもいないのよ!」
椛はその場を飛び出した。そして城を出て、城下町を走り城壁の外へと出た。そのまま泣きながら走り道に生えている一本の木にたどり着いた。椛はその木の根元に座り静かに泣き続けた。
その日の夕方、1人の男が座り込む椛に気づいた。そして男は椛に近づいた。
「よう若いの。こんなところでどうした。近頃の夜は冷え込むから家帰んねぇと風邪ひくぜ」
「もみじには帰る家がないのよ。父上も母上も死んでしまったかしら」
「そうかい、そうかい。そんなことよりおめぇ、すげぇ格好だな、こりゃなんだ? 龍かなんかか?」
「知らんのよ」
「冷てぇなおめぇ。受け答えはしっかりしねぇとな。そんで龍の子でおそらく4、5歳。名前はもみじ。それにその豪華な着物はまさか将軍家のとこか?」
「……」
「なら家まで連れてってやるよ。といっても簡単には帰さねぇけど」
男は椛を担ぎあげた。椛はジタバタと嫌がるが男の力が強くて身動きが取れなかった。
そして男は城の門の前までやってきた。椛も暴れ疲れて大人しくしている。男は門番に話しかけた。
「こいつ帰しにきたんで将軍様出してくんねぇか」
「椛様じゃないか! 話せ椛様をどうする気だ」
「どうもしねぇよ。とりあえず将軍様出せ。話はそれからだ」
門番は承諾し将軍を呼びに行った。そしてすぐに将軍は駆けつけた。
「椛を返なさい。抵抗すればお前を斬る」
「まぁまぁそう焦んなさんな、将軍様。俺の名前は日向しし丸。忍者を生業にしている。そんでここで提案がある。聞いてくれるか?」
「聞くだけなら聞こう」
「提案は2つ。1つ、もみじを俺に預け育てること。2つ、こいつを忍者に仕立て上げること。どうだ?」
「どうだ、じゃない。却下に決まっている。ふざけるのもたいがいにしろ!」
「いやいや、ふざけてねぇよ。それに忍者は約束は破らねぇ。それにこいつの中にいる龍を取り出せると言ったらどうする」
「……本当なのかその話は」
「本当だ。しっかしなぁ、これが修行して制御できねぇと取り出すのが難しい。だから忍者にして、制御できるようにする。んで上手くいけばお宅らの『雷皇』ってやつにも入れさせることもできるぜ」
「なら血判状に自分の血で判を押し契約しろ、それが条件だ」
「へいよ、そんくらいならやってやるよ」
血判状を用意させお互いの血で判を押し契約した。内容は椛をしっかり育てること、忍者になるかどうかは本人が決めること、4年後に必ず帰還させること、そして龍を体内から取り出すことを条件とした。
「んじゃ、早速行かせてもらいますわ」
「椛、達者でな」
「……」
こうして椛はしし丸によって連れて行かれるのであった。その後判断が椛の人生を大きく変えることとなった。知らない人と知らない場所でよわい5にして椛は大きな壁にぶつかろうとしていた。




