No.3:神速の騎士王
次の日、アーサーはいつも通りの時間に起きた。アーサーは寝相が悪いため寝癖が派手になっているのが日常だ。アーサーが起きる頃にはオフィーリアは起きていて身だしも完璧に終わっている。
「おはようございます、オフィーリア様」
「おはようございます、アーサー。......できればなのですが『様』をつけないでほしいのですが」
「と言われましても私は6等爵位なので」
「ではこうします。『様』をつけず敬語も使わないでください。これは命令です」
いきなりの命令宣言によりアーサーは少々驚いた。なんせ6等が1等に友達のように話せというのだから。
「何て呼べばいい?」
「あなたが考えてください」
「じゃあ、リアで」
アーサーの即決にオフィーリアは驚いたが初めてのあだ名だった。自然と頬が緩んだ。
「これからはリアでいきましょう、よろしくお願いしますねアーサー」
「こっちこそよろしくリア」
2人は握手をし仲を深めていった。
学院の中央広場でその出来事が起きた。そこにいたのはオーガスト・スタンフォード。オフィーリアの父親だった。オフィーリアの顔が少しこわばりオーガスト・スタンフォードの前に行った。
「お父様、なぜこんなところにいらっしゃるのですか。ここは基本保護者は干渉してはいけないはずです」
「なぜ干渉してはならないのに、私がここにいるかは自分が1番よくわかっているはずではないのか?」
「なんのことか見当がつきません」
辛辣な空気が中央広場全体に広がった。
「ふざけているのかこのバカ娘が! なんのことかわからないだと? そんなはずないだろう、6等爵位など選びおって! 我々は由緒正しい1等爵位スタンフォード家だということを忘れたとは言わせん! それにお前はギルバート殿と婚姻を結んでいるのだぞ、わかっているのか!」
「6等爵位かどうかは関係ありません! それに婚姻など結んだ覚えはありません。お父様達が勝手に私の許可なく承諾しただけです。私は婚姻など認めません」
「これは両当主が決めること。お前の意思など関係ない!」
オフィーリアは絶句した。本人の意思が関係ないと言われたら言葉が見つからない。それでも無理やりにでも言葉を絞り出した。
「なら父様はブラッドレイ家と関係を結ぶためだけに私を利用したのですか?」
「そうだ、ブラッドレイ家は国とも繋がっている。お前が嫁げはスタンフォード家も王家と繋がることができる。これほどいい話はないだろう」
「そんなことのために私を……」
オフィーリアは涙を垂らし膝が折れ地面に崩れた。
「わかっただろ。そこにいる6等爵位とは別れてギルバート殿と組み直せ、今なら許してやろう」
もう言葉が出ない。絞っても絞っても言葉が出てこない。沈黙状態の中アーサーは一言口を挟んだ。
「お言葉ですがオーガスト殿。それは少々やり過ぎではないでしょうか」
「6等爵位の貴様には関係ない。これはこちらの問題だ」
「それがそうでもないんですよ。パートナー解消になると色々不都合になるので。ここで1つ提案があります。聞いていただいてもよろしいですか」
「聞くだけならよかろう」
「単純な提案です。オーガスト殿と私が戦い勝てばオフィーリアとはパートナー解消しても構いません。ですが私が勝てばパートナー続行ということでどうでしょう」
「ハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
オーガストは大声で笑った。それもそのはず。この前まで最弱が熟練の剣士に挑もうと言うのだから。
「本気で言っているのがまた滑稽だ。私に勝てるとでも?」
「やってみないと分からないこともありますよ」
「いいだろう、その勝負に乗ろう」
オーガストは剣を抜刀したがアーサーは鞘ごと腰から抜いた。アーサーは納刀されている剣の先を地面に二回叩いた。
「来い、ダイダラ」
そう言うと地面に陣が描かれそこから奇妙なものが出て来た。全身オレンジ色で顔や手はあるが目と腰あたりからはない。
「なんだその珍妙なものは」
「中級悪魔のダイダラです。死にかけているところを契約を結び魔力供給して息を吹き返しました。武器の収納、魔力を好きなだけ封印できる万能悪魔ですよ」
そう言うと剣をダイダラの口から収納し別の剣が出て来た。
「また妙なものを出しおってふざけてるのか」
「まさか、私の全力を出すためにはこの剣が必要なだけです。これは東洋の国では一般的に売られてる剣、『刀』です。切れ味はこっちの剣よりも優秀で軽いのが特徴です」
「そんなことはどうでもいい早く剣を構えろ」
オーガストが言うとアーサーは半身姿勢で剣を構えた。しばらく静かな空気が流れた。
「では、行くぞ!」
オーガストが足を運んだ時、目の前にはもうアーサーがいなかった。オーガストは直感で防御した。
「よく反応できましたね。次行きますよ」
オーガストはアーサーのいる後ろを向くともういない。アーサーはオーガストの後ろ、横、前、上、至る所にものすごいスピードで攻撃をする。それに耐えられず尻もちをついた。手を見ると剣戟の重さで痺れていた。
「お前何者だ。その実力で最下位のはずないだろう」
「アーサー・アルカディアだ。それだけでもうわかるだろ」
「アーサー……アルカディア……。おまっ、お前まさか帝国の!」
「そうだ、俺はアルナイル帝国騎士団所属、No.30アーサー・アルカディアだ!」
帝国騎士団とは帝国王家の身辺警護、国の治安維持、外道魔術師の排除を主にしており、1等爵位よりも権限が高いのが特徴だ。その中でもNo.30はその速さから『神速の騎士王』とも呼ばれ騎士団でも屈指の実力者である。
「なぜだ帝国騎士団がこんなところに」
「目的は2つだ。1つは未来の騎士団候補の見定めともう1つは陛下の命令により他言禁止だ。と言うわけで勝ったからオフィーリアの待遇はそのままってことで」
アーサーは納刀しオフィーリアを連れ校舎の中へと入っていった。




