No.2:花の魔術師
試験開始の合図と共に生徒全員は羽根ペンを必死に動かした。剣術科と魔術・魔法科のテストはそれぞれに求められる基準があり、それにより問題も変わってくる。
『無価値な剣士』ことアーサーは筆記は得意だ。なぜみんなはそんなに必死になるかわからない、と疑問に思う。そんなこと考えながら試験時間60分はあっという間に過ぎていった。
アーサーにとって簡単なテストの次は実技試験だ。これは生徒全員が最も気合いが入る。両科の首席は最初にパートナーとして選ばれやすい。つまり両科トップ同士の組はその後の授業にとても楽に高単位が取れたりメリットは大きい。この日のためだけに修練してきたと言っても過言ではない。
組み分けが終わった。人数は32人ずつの64名。つまり6回勝てばトップになれる。アーサーは第1試合に当たり相手は2等爵位のベルベット家の跡取りだ。
試合開始の合図でベルベットは猛スピードで剣をアーサーに向け突進してきた。アーサーは軽々とよけ背中に斬りかかったがキィーンと金属音がなりアーサーの剣は跳ね返された。
「残念だなぁ無価値な剣士。悪いが全身至る所に仕込んである。お前に勝ち目はない」
「それ反則なんじゃないか」
「そんなルールは試合要項時に明言されなかった。ならなんでもありだろう?」
「まぁ、どうでもいいけど、その仕込み鎧に欠点あるの知ってるか?」
「欠点などない、完璧な装甲だ」
「これだから初心者はダメなんだよ。それなら今からその欠点を見せてやるよ」
自信満々に言い剣を構えた。ベルベットも剣を構えまた同じように突進してきた。
「これで終わりだ、無価値な剣士!」
そう言い放ちった。両者の剣が交わろうとした。ーーその瞬間だった。
「痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い、うぁぁぁぁぁぁぁ!」
ベルベットからは大量の血が流れ出ている。その痛みに耐えきれずに叫び涙も流していた。
「確かに鎧は全身を覆うが膝肘の関節は絶対に鎧では覆わない。それこそが欠点だ。本来なら何かでできた服を着るが鎧のことも知らない奴が着るわけないと思った。ならそこを狙えばいとも簡単に戦闘不要にできる。覚えておいたらどうだ」
会場が騒めき始める。確かに剣と剣が交わるところを大勢の人が見た。しかしほんの一瞬のまばたきが全てを変えた。
何が起こったのかわからないまま、審判はジャッジを下しアーサーの勝利を宣言する。
こうしてアーサーは第1試合を勝ち抜き初の白星をあげた。
第2試合は1等爵位レイフォード家。特徴は一振りの剣の重みからくる屈強な剣士だ。何回も剣と剣が交わり火花が散る。
「さぁ、どうした無価値な剣士! さっきの生意気さどこにいった!」
「悪いけどここで勝って目立つわけにはいかないからね。ここらで終いにするよ」
そう言うとアーサーは距離を取り降参した。
「なんの真似だ。負けるなら剣で負けるべきだろう」
「切られるのは嫌なんで。負けるなら無傷で負けたいだけさ」
そう言うとアーサーはコートの白線を超え、そのまま闘技場を出た。
次の日に結果通知が届いた。結果アーサーは16位と中間だ。
そしてその日の昼頃、剣術科と魔術・魔法科のパートナーを決める日がやってきた。学院長がまた長々と演説し主席の魔術・魔法科の主席が発表された。
「オフィーリア・スタンフォード前へ」
「はい」
そう言うと壇上に上がり軽く咳込んだ。
「この度の試験皆さんお疲れ様でした。魔術・魔法科主席として先に指名させていただきます」
丁寧な言葉の後に1泊し言った。
「私はアーサー・ルイス殿をパートナーとして指名したいと思います」
そう言った瞬間全員の視線はアーサーに向き驚愕のなかギルバート・ブラッドレイが大声で怒鳴り上げた。
「まっ、待てオフィーリア・スタンフォード! なぜアーサー・ルイスなのだ、なぜ私ではない! 実力を考えても私の方が上だろう!」
ギルバートは焦り口調で言った。これまで黒星なく勝ち続けた剣士はギルバートのみ。主席は主席を選ぶのが当たり前だったからだ。
「必ず剣術科の主席を選ばなければならないという規則はありません。私は純粋に剣を見極め彼がいいと思ったからです」
「そうではない、実力は私の方が上だ。なら普通は強い剣士を選ぶだろう」
「そうですか? 私は彼の剣の方が上だと思います。何者にも囚われない自由な剣です」
ギルバートは言葉が出なかった。オフィーリア・スタンフォードは平然と席に戻った。
こうしてパートナーは無事決まり明日から新しい日々を迎える。
この学院は全寮制で1年時の寮を離れパートナーと共に一緒の寮の、一緒の部屋に住むことになる。全ての荷物の運搬は魔法アイテムにより簡単に終わった。場所は学院の北側に位置おり名前は『アルデバラン寮』に移住することになった。
学院の講師が対話鏡で男と話していた。男はスタンフォード家現当主のオーガスト・スタンフォード。今回のパートナー決めについて話している。
「その話は本当なのか? オフィーリアはこの前まで学院最下位の奴を選んだと」
「はい、理由は何者にも囚われない自由な剣だそうです」
「ふざけよってあのバカ娘が。あんたら講師も強く言ったんだろうな?」
「ですが『嫌です』の一点張りで……」
「わかった。明日私が直接行き、なんとしてでも話をつける」
「ありがとうございす。面目無い」
オーガストはそう言い次の朝に備えた。
移住した夜のこと。風呂から出るとオフィーリアがいなかった。部屋の窓を見ると寮の花畑にしゃがみ込みながら花を見ている。アーサーは彼女の元へ行き話しかけた。
「花を愛でるのがお好きなのですか?」
「似合わないのはわかっているのですが好きですね」
似合わないと言うのも彼女の異名に理由がある。『氷結の魔女』と彼女は呼ばれてる。氷属性の魔術、魔法を得意としている。派手で高威力であるため魔女と呼ばれるまでになった。
「私はあまり爵位は好きじゃないんです。無かったらいいのにと何度考えたかわかりません。花は自由に咲き自由に笑う、そう言う自由が私にもほしいのです」
言葉が出ない。目には涙も浮かべていた。魔女と呼ばれる彼女は魔女なんかじゃ無い。そこにいる人なんら変わらない花が好きな少女だった。そう彼女はーー
「花の魔術師……」
「えっ?」
「いえ、なんでもありません」
「花の魔術師……、いいですねそれ」
微笑みながら彼女は言った。
「もう遅いですし、部屋に戻りましょう。明日も早いですよ」
そう言うと彼女は部屋に戻りアーサーは彼女の後ろをついて行った。