No.16:伊三郎の教え
刀を新しく作ってもらったアーサーは兼続とともに焼けた城跡に戻ってきた。
「将軍様、貴重な金属のご提供ありがとうございます。この恩一生忘れません」
「うむ、大事に使いなさい」
アーサーは将軍に礼を言い後にした。向かった先は焼けた城の中だ。何か残ってないかと思いゆっくり入った。一階部分を歩いていると妙な扉が見つかった。今まで見たことがなかった扉だ。アーサーは気になり扉を開けた。開けると肌寒い空気が流れておりなんとなくおぞましい何かを感じた。息を呑みゆっくり入ろうとしたが後ろから腕を掴まれた。
「ここに入るのはやめておけ。出られなくなる」
腕を掴んだのは翔鶴だ。気怠るげな翔鶴だがこの時は違った。
「しかし敵が潜んでいる可能性もあります」
「ここはそんな場所じゃねぇよ。この国が抱える問題がここにはある。だからお前さんが関わる必要なんてのはねぇ」
アーサーは入るのをやめ扉を閉めた。その後アーサーは城の中歩いた。二階部分は足場が不安定だがなんとか歩けた。二階を歩いていると見覚えのものをみつけた。それは燃え尽きたと思っていた刀だ。柄の部分は焼けて無くなっているが刀身の部分は残っていた。
「あの火事でよく残っていたな」
アーサーはその刀を触ったがあまりの暑さに手を離した。アーサーはダイダラを呼び出しダイダラに持たせ冷めるのを待った。
アーサーが焼け焦げた城から出ると少し離れた所にオフィーリアがいた。アーサーは彼女の元へ行った。
「リア、手伝ってくれてありがとう。助かったよ」
「いえ、魔術が使えるので何か手伝えたらと思った次第ですよ。それに私がやりたかったからやっただけです。礼は不要です」
オフィーリアには毎回頭が上がらないアーサー。彼女は微笑み言った。
「では私は家族の所に戻ります。みんな心配してるでしょうから早く無事を知らせます」
「わかったよ。何があるかわからないから道中は気をつけて」
アーサーは手を振りオフィーリアを見送った。
その後どう対応するか将軍と皇帝により話されることになった。まずは国民の避難を優先させるべきだとされた。この先このようなことが起こらないとも限らない。よって少しの間南の方角に大和国洛陰という都市に移動させることにしその道中は騎士団員と雷皇数名の警護のもと避難された。残りは避難そびれた人がいないか確認作業にまわされた。確認を終える頃には夕方になろうとしていた。アーサーも確認を終え帰ってきた。
「よぉ、アーサー。どうじゃった」
「伊三郎さん。問題ありませでしった!」
伊三郎はいきなりアーサーに向けて剣で突いてきた。アーサーは危機一髪避けたが頬に軽く切った。
「何のマネですか、伊三郎さん」
「なに、ちゃんと気ぃ回してるから確認しただけじゃよ。そんな怖い目せんでも」
「……」
「ふぅ、突然じゃがアーサーよ。お前さんの剣について言いたいことがあるんじゃ」
伊三郎はいつになく真剣な目でアーサーを見た。アーサーもそれに応えようと伊三郎の目を見た。
「アーサーよ。お前さんの剣は逃げている」
「どういうことですか」
「そのまんまじゃよ。ほれ剣を構えるといい。聞くより習えじゃ」
伊三郎は少し離れ剣を二刀構えた。アーサーはダイダラを呼び剣を出そうとするが
「遠慮は不要じゃ。腰に下げている剣を使うといい」
「斬れば一生残りますよ」
「お前さんの刀がわしに当たるとでも?」
「わかりました。では遠慮なく使わせてもらいます」
「それと神速はなしじゃ。ただ魔法とかはどんどん使ってもよいぞ」
アーサーも刀を構えた。夕日が沈もうとするなか先に動いたのはアーサーだった。アーサーはエンチャントのスピード上昇と風の魔法を掛け合わせ伊三郎めがけて斬りに行った。斬ろうと刀を振りかざした。しかし斬ったのは伊三郎の残像。アーサーはすぐに後ろにいることがわかり距離をとり伊三郎の攻撃圏内から離れた。すると伊三郎は剣をしまった。
「何のために距離を詰めたんじゃ。離れては意味がなかろう。だからアーサー、お前さんの剣は逃げているのじゃよ。よいかアーサー、お前さんはまだ若いし実力もある。しかし逃げてばかりじゃ兼続にも勝てん。兼続だけじゃない。いつか現れるかもしれない強敵にも勝てんよ。答えが見つかったらまた声をかけろ。その時を楽しみにしておるよ」
伊三郎は日が沈むなかアーサーに背を向けてゆっくりと歩いて行った。アーサーは何がなんだか分からずその場で立ち尽くした。




