No.1:『無価値な剣士』
アルナイル帝国アウストラリス学院剣術科にはいつも負けている剣士がいる。今まで白星はなく彼と戦った剣士は口を揃えてこう言う。『無価値な剣士』とーー
無価値な剣士ことアーサー・ルイスはいつも負けている。負けているのにもかかわらずなぜか「ハハッ」と笑う。それを見て他の剣士は“無価値”と名付けた。
「貴様は負けているのになぜ笑っていられる! なぜ努力しない!」
と一等爵位で剣術科主席が言い放った。
「いやー俺、才能とかないですし。それに1等爵位の方に6等爵位の剣技が敵うはずないじゃないですか」
軽くからかったようにアーサーは言う。
「それだから貴様は気に入らない。やる気が無いならこの学院から出て行け」
「……俺だって好きでここにいるわけじゃないんだけどな」
小声で呟きながら一等爵位ギルバート・ブラッドレイの背後を見ながら言った。
この世界には1~6からなる爵位が存在する。アーサーはその最下級爵位の次男に席を置く。6等爵位は1等爵位に歯向かってはならないという法律がある。ただしある者たち以外はーー
そして今日もアーサーは負ける。毎日がそうであるように。無価値な剣士は何かを嘲笑うかのように。
一週間後には試験を控えている。ただの試験ではない。残り2年間のパートナーを決める試験。この学院には剣術科ともう1つ魔術・魔法科がある。ここでは剣士、魔術士・魔法士を組ませ連携を固める教育方針だ。どこの剣練場も人で溢れている。あの1等爵位かつ主席のギルバート・ブラッドレイも他の剣士と剣を交えている。ギルバートと剣を交えてる2人がアーサーの方を見た。
「『無価値な剣士』殿、こんなところで何をやられていらっしゃるのですか? あなたにこんな余裕がお有りで?」
わざと『殿』をつけ嫌味ったらしくからかうように笑いながら言った。
「様々な剣士の剣技を見て自分も学ぼうかと思っているだけでございます。決してサボっているわけではございません」
「見て学び強くなれるなら楽なことこの上ないな『無価値な剣士』殿。それだから貴様は万年最下位なのだ」
「そう言われると返す言葉がありません」
「やめておけ、こんな無意味な会話していると品格が疑われるぞ」
「それもそうでありますな」
ギルバートは話を止め他の2人も剣の修練を再開した。
ついにその一週間が過ぎ試験当日。剣士は一級品の剣を、魔術士・魔法士は杖を携え試験の要項が話される会場に入って行く。全員が着席し、会場が静かになると学院長が教団へと登り要項を演説する。
「おはよう、諸君。ついに試験の日はやってきた。逃げることはできない。今までの修練を全てぶつけなさい。それでは、試験の要項を2つ説明する。まずは各教室に行き筆記試験を受けてもらう。いつもの教室でないので注意すること。2つ目は実技試験。これは正真正銘の実力で決まる。2つの試験の総合で両科の主席を決め、今年は魔術・魔法科が剣術科の生徒を主席から順にパートナーを決めてもらう。以上だ、何か質問の者はいるか?」
学院長が長々と説明をする。質問者がいないことを確認した。
「これで試験要項の説明を終わりにする、ご静聴感謝する」
拍手と共に学院長は舞台裏へと消えていった。そして残り2年間を決める試験が開始した。