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第三話

永田は、部屋の隅からあのPCが消えた事で、なんとなく気が楽になっている事に気付いた。

彼にとって、あのPCは取り返しの着かない過ちの象徴であり、またハッキングの後ろ暗い面白さを思い出させる物だったのである。

今でも時々、PRIMEへの侵入に成功した時の興奮を夢に見る。

彼は侵入に成功すると、一目散に合衆国国防総省ペンタゴンへ向かった。

そこはIT世界では要塞化の象徴であり、PRIME以前のハッカー達は、一度はハッキングを仕掛けた場所である。

勿論、そのドアをくぐった所でPRIMEとは異なるオリジナルのセキュリティに阻まれたが、それでもいくらかは見て回る事が出来た。

『機密』レベルの情報はさすがに難しそうなので後回しとし、『部外秘』レベルの情報を覗いてみた。

それはPRIMEへの侵入と比べれば児戯に等しい物であった。

彼が覗いた先にあったのは大部分が様々な分野の研究論文で、その専門用語の羅列は彼の英語力では全く歯が立たない物だったが、その中に辛うじて日本人が書いた人工知能に関するの論文である事が理解できる物も含まれていた。

彼は少しだけ興味を覚えたので、戦利品としてそれらの論文をダウンロードし、自分専用の秘密ストレージに格納しておいた。

それは、本当にワクワクする体験だった。

ただし、問題の論文はその後何回か暇を見て開いては見たが結局はそのまま放り出した。

ハッキングをやっていれば、もっと愉しい事がいくらでもあるのだ。

あの頃のハッキングの愉しさは、言わば麻薬の様な物であった。

もうあの世界には戻りたくない、そう思いつつも、部屋の隅に放置されたそのPCを見ると、あの感覚が蘇って来る。

そうして日々その誘惑と戦って来たのだが、もうその必要は無くなった。

一応貸すという体裁にはしたが、もうこの部屋に持ち帰る事は無いだろうと思っていた。

もっと早くこうすれば良かった、と感じた。

『棄てる』という選択は出来なかった。

それは、自分の罪を積極的に否定する事になるからである。

しかし、外に出す理由(追いやる口実)があれば、それは『彼自身の選択』ではない。

永田は、未だに自分自身の罪に直面できていない事に気付かないふりをしていた。

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