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円卓の少女達  作者: 山梨明石
第三章
87/97

3-28

この世界の、少しだけ踏み込んだお話(という説明回)

「お、おい! 待ってくれ!」

「……まさか、本当に修理するつもりなの……?」


 ゲンゴロウさんが慌ててタタコさんの後を追う。その背に続く形でタチバナさんも。

 二人を見送った私達は、後を追うでもなく客間に残ったままだ。

 何故居残っているのかには、それなりの理由がある。


「……ついていかなくていいんですか?」


 不安そうなラミーの声。それに答えたのは御剣だ。


「ああ、かまわん。タタコはギャラリーが多すぎると気が散るタイプでな。まぁ、散っていようが散っていまいがタタコの腕前にはまるで関係が無いのだが―――ともあれ、タタコが腕前を見せると言ったんだ。私達の出る幕じゃない。ただそれだけの事だ」


 どっしりとした返答の御剣に続き、私も頷く。


「ラミー、実はね、結構前にタタコさんに鍛治の仕事をお願いした事があったんだけど…。その時の技前を見ているから確信を持って断言出来るけどね、タタコさんの鍛冶スキルは()()()()()()間違いなく世界一だよ。だからタタコさんが鍛冶に関して"どうにもならない"って言ったらそれは本当にどうにもならない事なんだ。そんなタタコさんが"やれる"って言ったなら、必ず出来る。そう私達は信用してるんだ」


 これはタタコさんが友達で、そして恐らく年上だから必要以上にヨイショしているわけではなく、単なる事実として述べた事だ。


 まず、大前提として。


 私達が()()()事に当たった場合、この世界のほぼ全ての人間の追随を許さぬ力を有している事は今更説明するまでも無い事だが―――ここではあえて円卓メンバーを例に出して説明しよう。


 例えば私だが、それは錬金術師としての才。私が本気で製造したポーションは、この世界の人達からすれば伝説に語られるような幻の霊薬の如き超常の力を持つ。ヒールポーションであれば、対象が死んでさえいなければ全快させられる程だし、身体能力強化たるバフ系ポーションであれば赤子が屈強な男性を組み伏せられる程の力を一時的に与える事が出来る。―――アルケミストとは、そうした神秘的なポーションを製造できる職業であるが故に。


 会長は言うに及ばず。死者蘇生はそれこそ神の御業だ。習得している聖属性魔法は勿論一級品だし、奇跡を呼び起こすスキルに至ってはこの世界の聖職者が命を捨ててようやく起こせるような奇跡を、会長は"すまん! ちょっと頼むわ!"くらいのノリでぽこじゃか起こせる。奇跡という言葉の意味はなんなのか、と問いたくなる程に。―――それはなぜなら、会長はアークビショップであり、アークビショップとは数多の奇跡をこの世に呼び起こせられる神聖な職業であるからだ。


 御剣など、ポン刀ひとつで魔人だの古代の怨霊だの大災害を招く厄獣だのをバッサバッサと切り殺している。もし彼女の暗躍がなければ、この世界の国々の一つや二つとうに滅んでいておかしくない。知らぬが仏とはよく言ったものである。―――ブレイドマスターは、そのような栄えある勲と共に在る他に比類なき剣士なのだ。


 ルドネスのデストロイ・ウィッチとしての魔法の才は私なんて足元にも及ばない程で、まったく同じ条件で魔法戦を挑んだ場合私が生き残れる時間は5分あればいい方だ。絶息魔法だの、次元切断魔法だの、原子融解魔法だの、以前の"悠久の大地"では単なる技名に過ぎなかったそれらが言葉通りの意味を有する様になった為、むしろ使える魔法が減ってしまったレベルである。―――故に、破壊の魔女たる異名を持っている。


 霧の暗殺技術は本当に恐ろしい。私がその手にかかって殺された回数は両手指の数を超えるし、何なら心臓が完全に停止していたのに数分活動出来ていた―――つまり私が死んだことを私が認識出来なかった―――という世にも恐ろしい体験をした事もある。以前、イレイサーは人の意識さえも殺してみせると述べた事もあるが、あれもまた言葉通りの真実だ。本当に意識を殺されると、自分がついさっきまで何をしていたのか、何を思っていたのかすら分からなくなる。―――だから、消すもの。と呼ばれるのだ。


 えちごやさんはロイヤルマーチャントだから戦闘能力はとても低い。が、それ以外、特に金の絡む事となると信じられない程に運が良くなる。それは極端に言えば、えちごやさん以外のこの世の全てが滅んだとしても、最終的にはえちごやさんが利するような状況になる、という程に。そうなる事によってどれだけの利をえちごやさんが得られるのか、どういった意味での利になるのか、までは私達には分からない。何せ検証すると必ず私達が酷い目に遭うので、検証出来ていないのだ。―――高貴な商人には、何が有ろうと金がついてまわる黄金律が存在するという訳だ。


 そして。

 最後になるが、タタコさんだ。


 武器防具、アクセサリや指輪等にはそれぞれ定められたスペックというものがある。

 ゲーム時代の頃を例に出すならば、武具が持つ攻撃力・防御力、武器の有効距離、特性、追加効果、マイナス効果、等々だ。

 それら前述した武具の性能だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。―――まぁ、それはこの世界がゲームだった頃なら当然と言えば当然の話だ。武器攻撃力40とされる武器を装備したなら、その攻撃力だけプレイヤーは追加で攻撃力を得る、当たり前の話だ。でなければゲームは成立しない。


 そしてそれは、この世界では当たり前ではない。


 例えば仮にここに一本のハンマーがあったとして、攻撃力は30としよう。この例では攻撃力30は人間に命中した場合骨折する程の威力を持つ事とする。

 あなたはそれを敵に振り下ろす―――命中した。あなたの攻撃力は10あり、武器の攻撃力30を加算して攻撃力40だ。敵は防御力を持たない為、そのまま攻撃力40のダメージが敵に通る。つまりHPが320ある敵ならば8回攻撃を命中させれば、必ず敵を倒せるという訳だ。


 ……果たしてそうだろうか?


 この世界がゲームの通りなら、きっとそうなるだろう。ただの数値で管理された世界であれば、攻撃が命中する限り必ずそうなるだろう。


 だが、この世界は現実なのだ。

 振り下ろしたハンマーの当たり所によっては、結果なぞ如何様にも変わる。もし攻撃が頭に当たったのなら骨折するほどの威力を持つ攻撃だ、ハンマーの衝撃による脳挫傷により即死するかもしれない。そうでなくとも、頭蓋骨が粉々に砕け、脳がまろびでて、やはり即死するかもしれない。いやいや、運が良ければ気絶程度で済むかもしれない。

 つまり、たった一撃で相手を殺せるかもしれないし、8回以上攻撃する必要があるかもしれないのだ。

 現実ではそんな結果の()()()が、必ず起きる。


 ……HPがゼロになる事が死亡を意味していたゲーム時代ではそんなことはあり得なかった。

 システム上設定されたクリティカル判定やミス判定はあるにせよ、"ハンマーが頭に命中し頭蓋骨を粉々に砕いた為相手は即死する"判定はゲーム時代には存在しなかった。ただ無感情に、ゲームは40ダメージという結果を返す。

 一方で"攻撃命中時0.01%で即死の追加効果が発生する"といった風に武器に追加効果が付与されていれば話は別だ。その効果は判定に成功さえすれば必ず発生する。


 ―――現実である事によって起きる揺らぎと、ゲーム時代の頃を踏襲した武具のルール。


 前述したそれら二つの法則はこの世界では混じり合った形で成立している。

 タタコさんはその、"現実である事によって起きる揺らぎ"を意図的に削除出来るのだ。


 これがつまるところ、タタコさんが作った武具は必ずスペック通りになる、という意味を指す。


 ……それはむしろマイナスの要素ではないか? と思う事だろう。実際そのパターンである事は多い。

 例えば刀で首を刈れば普通は首が落ちるが、タタコさんの武器ではそうはいかない。与えたダメージが相手のHP残量を削り切った為その結果として首が落ちる事はあるかもしれないが、そうでないならたとえ首を刀が通り抜けたとしても相手は死なずに、クリティカル判定の有無を経た後その結果をダメージとして相手の肉体に返す。

 ナイフが心臓を貫こうが、弓矢が脳を貫通しようが、同じことだ。これは非常にマイナス要素が強いと言えるだろう。


 では逆にプラスの要素とは何なのか。……それはやはり、スペック通りになる、という事だ。

 例えば刀で小指の先を薄皮一枚切られたところで痛痒を感じる事はないだろうが、タタコさんの武器ではそうはいかない。相手に命中した以上必ずスペック通りに攻撃力と相手の防御力に応じたダメージ計算が行われ、その結果をダメージとして相手の肉体に返す。

 ナイフが頬の薄皮一枚を裂こうが、弓矢が肩の肉に微かに触れようが、同じことだ。これは非常にプラス要素が強いと言えるだろう。攻撃が命中さえすれば、不可避のダメージ判定が待ち受けているのだから。


 そしてスペック通りになる、という事は。

 タタコさんが"神殺しの刀"……ゲーム風に言うなら、"神及び神性を有する相手に特効ないし即死の追加効果"を持つ刀を作ったのなら。

 必ず、そうなるという事だ。


 そして、タタコさんはそれを"擬き"とは言え作れると断言した。


 なら、必ずそうなるのだ。


 鍛聖に打てない武器防具は、殆ど無いのだから。


 ―――鍛聖についての"悠久の大地"のフレーバーテキストがそうであったように。

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