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円卓の少女達  作者: 山梨明石
第一章・No.01
8/97

遅れたのはな、COD:IWが悪いんじゃよ

「…………」


 あれから特に何の問題もなく、私達は法国への道を爆走し続けている。

 決して快適とは言いがたい旅路ではあるが、歩みの遅い馬車ほど退屈ではない。

 稀に何かを轢き殺したようなグロテスクな音。岩が砕け散る爆砕音。

 駆け抜けていく風景。気の利いた眠気覚まし効果のある震動。

 それらのバイオレンスかつエキサイティングな演出が、馬車内の「もううんざりだ」という陰鬱な雰囲気に赤い彩を添える。


「…………まだか」


 もう二時間前から片足で貧乏ゆすりをしている御剣が、十五回目となる「まだか」を呟いた。


「まだだよ」


 そして私も十五回目となる答えを返す。


「…………うー」


 薬の効果が切れ気味のえちごやさんは壁に身を寄せてグロッキー気味。

 震動で顔の側面がごつんごつんと当たっているが、それを気にする余裕はなさそうである。


「……恐らくは、あと少しの筈だが」


 モンスターの襲撃後より口数の減っていたミハエルが、ぽつりと呟く。


「はぁ」


 全く。これがただの馬車であるのなら一眠りでもして時間を潰したものを。

 尋常じゃない揺れと騒音のおかげでそれさえも許されない。搭乗者はずっと緊張しっぱなしだ。

 いい加減外の風景を眺めるのにも飽きた頃だ、さっさと法国に着かないものか―――。


「むっ!?」


 そう思った時、突如スレイプニールが速度を落としはじめた。

 ぶつかれば最悪死は免れない程度の速さから、徐々に常識的な速度へと落ち着いていく。

 そしてようやく、普通の馬車らしい"徐行運転"に切り替わる。


「…………もしかして、やっと着きました?」

「そうみたいだね、えちごやさん」

「はぁぁぁぁぁぁぁ~……よかったです、もうへとへとですよ~」


 馬車の窓を開け顔を出す。

 そこから前方を見ると、大陸の一大宗教の本拠地たるナライ法国の姿があった。


 ナライ法国。

 国、と呼んではいるが、その国土の大きさはアトルガム王国における首都に毛が生えた程度の大きさしかない。

 しかしながら法国が持つ影響力は大陸のどの国家よりも強大である。

 その根幹には大陸全土に根を張る宗教、『聖教』の総本山である事や、半年前に姿を現した『聖女』が関わっている事は言うまでもない。


「……うん?」


 久々に目にする法国に懐かしさを覚えていた私は、ふと気にかかるものがあって目を細めた。

 ナライ法国には国土をぐるりと一周する、白亜の大城壁がそびえ立っている。

 とっくの昔に陽が落ちているが、その圧倒的な白の建造物に星と月の光が反射している為、夜でも大城壁の姿はありありと見て取れる。

 その大城壁の下部分。城門らしき箇所から馬に乗った何者かがこちらに駆けてくるのが見えたのだ。


「誰かこちらに来るようですが?」

「む……ああ、あれは恐らく私の部下だろう。出迎えに来たのかもしれん」


 ミハエルが私と同じように窓から顔を出して確認する。

 しかしてその言うとおりだった様子。

 近づくにつれ姿が視認出来るようになると、その人物はミハエルと同じようなデザインの甲冑を着込んでいた。

 頭部には、十字にスリットの入った兜を被っている。

 ミハエルの部下らしき彼はスレイプニールとすれ違うように交差した後、反転してこちらに並走しつつ声を張り上げた。


「聖堂騎士団団員ヨロー=クラモス! 団長殿、ご無事で何よりです!」

「うむ! わざわざ出迎えご苦労! 聖女様は如何しておられるか!?」

「皆様の無事を大変お喜びでありました! つきましては早々にお会いになられたいとの事です!」

「なんと。しかしもう夜も遅いぞ? 聖女様の御体に差しさわりがあっては……」

「はい。畏れ多くも申し上げましたが、何をおいても是非に、と」

「そう、か……」


 まだ時刻は夜の八時を過ぎた頃である。なのだが、ミハエルと部下のヨローはこんなに遅い時間なのに大丈夫なのかな、と心底聖女様を心配されているようだ。

 マジか。今時の小学生だってまだ寝ないぞ。


「聖女様がそう仰られるのであれば仕方あるまい……。ヨロー、先に戻り謁見の準備を仕立てるよう通達を頼む。それとスレイプニールを処理する要員も集めておけ」

「はっ!」


 ヨローが胸の辺りで十字を切り、さっそうと法国へ駆けていく。


「と言う事で申し訳ないがミツルギ殿にヤマブキさん。お二人には到着後速やかに聖女様との謁見に望んでもらう」

「えーと、了解しました」

「……うむ」


 どうやら我等が会長様は一も二もなく私達と会いたいらしい。熱烈なラブコール(SOS)に気が重くなるがしょうがない、何せ『聖女様』との謁見である、精精失礼のないように努めなければ。


「じゃあ私はその辺で宿を取りますんで、お二人は頑張ってください。いやぁ、聖女様にお会いできないのは残念ですが仕方ないですね。ええ、非常に残念ですけど」


 えちごやさんが口では惜しみながらも、その実瞳だけは勝ち誇りながら言う。


「そうですね。ですがえちごやさん、もしかしたら後で素材に関してお手伝いして頂く事があるかもしれませんから、それだけはお忘れないように」

「はい、その時は私も全力を持って当たらせていただきます、何せ『聖女様』の為ですから」


 笑みを浮かべつつ私とえちごやさんは無言で視線の火花を飛ばしあう。

 はっはっは。まさかこの期に及んで逃げられるとでも思っているのですかね。

 ミハエルさんから金を巻き上げた次は法国で適当な金づるを探るつもりだったのかもしれないが、そうはさせない。

 毒を喰らわば皿まで。会長の世話に関わったら最後まで、だ。

 だって私達ズッ友でしょ?


よろしくお願いします(誰が逃がすか)、えちごやさん」

こちらこそ(こちとら願い下げです)、山吹さん」


 きゃっきゃうふふと少女らしく会話に花を咲かせる。

 しかしながら、その花はスズランの如く毒まみれなのであった。



 ナライ法国大聖堂とは、『聖教』における聖地の事だ。

 かつて大陸に法と教えを広めた神様が、始めてこの大陸に天から降り立った時の場所。

 その地を中心地点として、ナライ法国は国土を広げている。

 故に大聖堂はナライ法国の全ての中心である。政治も、法も、権威も、何もかもがだ。


「こちらです」


 ロウソクの暖かい灯が至る所で照らされている大聖堂の中を、ミハエルの先導で進む。

 法国で一番大きい聖堂だけあって、荘厳な雰囲気にやや圧倒される。

 大聖堂内は非常に静かで、ミハエルの甲冑が立てるがちゃがちゃとした音が嫌に耳に響くほどだった。

 私はどこか神聖な雰囲気を汚しているようで少し気になったが、時折すれ違う聖教関係者らしきシスターに咎められるような事はなかった。

 きっとこれがこの場では当たり前なのだろう。そう納得して続く。


「ここでお待ちを」


 幾つかの廊下と階段を通り過ぎた私達はとある一室に通される。

 来客用の個室か何かだろうか。当たり障りのない椅子とテーブルがあるだけの、やや殺風景な部屋だった。

 私達を部屋に入れたミハエルは、早々に部屋を出てどこかに向かって行ってしまう。


「……ふむ」

「ふぅ、やっと一息つけたって感じ」


 はしたない程度にどかっと椅子に腰掛ける。

 長い間スレイプニールに揺さぶられ続けたおかげで、かなりの体力を消耗してしまった。

 油断すると寝入ってしまいそうである。

 というか実を言うともう寝たい。年頃の乙女にとって、その柔肌を維持するため過度の疲労と夜更かしは厳禁なのだ。

 別に女に目覚めたとかそういうあれではない。

 せっかく綺麗なんだから、あえて汚そうとは思わないだけだ。

 しかしながら、果たしてそう簡単に会長様の話が終わるかどうか。


 何をするでもなく時間を潰すこと十数分。

 控えめなノックの後、ミハエルが戻ってきた。


「お二人共、聖女様がお見えになられます。最大の敬意を持ってお迎え下さい」

「むっ」


 おや。ここからどこか別の場所で謁見を行うものと思っていたが、まさか此処なのだろうか。

 少し肩透かしを食らった気分だが、是非もない。

 私はどうしようかと悩んだ挙句、片膝をつき頭を垂れるというファンタジーお決まりのポーズを取る。


「了解した」


 続けて御剣はこの手の事に慣れているのか、特に迷う様子も見せず私と同じように片膝をつく。

 そうしてから更に待つ事数十秒後。


「セラフ様、御入室!」


 扉の向こうから張りのある声が聞こえ、それからゆっくりと扉が開かれる。

 しゃらりと音を立てながら入室したのは、私達も、引いては法国の国民全員が知るあのお人。


「……顔を上げてください」

「はい」「はっ」


 死を超越した神の遣い。


「私の名はセラフ。セラフ=キャット……です。遠路はるばるようこそおいで下さいました、お二人の来訪を歓迎いたします」


 我等が会長様、セラフ=キャットがそこにいた。


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