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円卓の少女達  作者: 山梨明石
第二章・No.03
54/97

2-ep

*活動報告を更新しました(2017/07/29)



「―――ではこれより、特別定例会を開催いたします」


 何時に無く厳粛な雰囲気の円卓の領域。

 机に両肘を立てて寄りかかり、口元を両手で隠した非常に威圧感のある姿勢をした会長によって、定例会の火蓋が切って落とされた。


「山吹さん」

「はい」


 名指しされた私は席を立ち、手元の書類に目を落とす。


「皆さんも知っての通りですが、昨今における『教団』の被害は私達にとって最早看過できない状態にあります。初めはナライ法国の粉砕に始まり、私の暗殺未遂。そして御剣、ルドネス、タタコさんへの直接的暴行及び近親者の殺人未遂。……加えて、ラミーの拉致監禁」


 ぐしゃ、という音が聞こえ咄嗟に手の力を抜く。

 どうやら説明がラミーの件に及んだ瞬間、思わず力んでしまったようだ。

 軽く息を吐き、話を続ける。


「―――許しがたい事です。手段を選ばず、相手の最も嫌がる選択を取る。これ自体は私達と似通った点ではありますが、だからといって私達はここまで落ちぶれて(・・・・・)はいません。愛する者、罪無き人々、そんなただの一般人を相手取りあまつさえ脅迫の材料にするなど、人として最も唾棄すべき行為です」


 これは私個人の意見だ、故に賛同も否定の声も無い。皆はただじっと、私の話の続きを待っている。


「今回は、奇跡的に被害は殆どありませんでした。王都在住の皆さんにおいては、怪我人は居ても死者は出なかったと聞いています。『教団』にも手痛い反撃を加え、厳戒態勢が敷かれた王都においては暫くの間奴らの活動は鈍る事でしょう」


 あの事件から一週間以上経過し、グラン・アトルガム王国は首都たる王都を散々にして荒らしまわったゴーレムの主……つまり『教団』に対して国敵認定を下した。

 『教団』は正式にグラン・アトルガム王国の知るところとなったのだ。

 現在は国を挙げて『教団』の情報収集と、残党への厳しい拷問追求が行われているらしい。


「ですが、果たして奴らはそれで大人しく活動を自粛するでしょうか? ―――否、答えは否です。我々が本気(・・)で物事に当たる場合、中途半端に物事を終えたり諦めたりしないように、奴らもまた闇に潜み隠れ、虎視眈々と反撃の時を待っているに違いありません」


 私と御剣とえちごやさんで法国の問題を解決しても、一ヶ月としない間に奴らに襲われたのが良い例だ。


「私達は、その反撃の機会を許してはならない。奴らをこのまま放置すれば、いつの日か再び『教団』の牙が私達の親しい人々を襲わぬとも限りません。少なくとも私は愛する人の為に、奴らを野放しには出来ない。……故に、ここに提案します」


 ポケットの中から取り出したねじくれた貧相な鍵を円卓にそっと置く。


「―――私達は本気で『教団』を潰すべきです。賛同頂ける方は意思表示をお願いします」


 暫し静寂が場を支配する。

 一番初めに動いたのは、セラフ会長だった。


「全身全霊で賛成いたします」


 首から外したロザリオが、金属のこすれる音を立てながら差し出された。


「私も賛成ですわ」


 ルドネスが右手の中指に嵌められた指輪を差し出した。


「賛成する」


 御剣が小ぶりな宝石の輝くネックレスを差し出す。


「おう、さんせー」


 タタコさんが殆ど存在感を感じさせない、限りなく透明に近い小石を差し出した。


「賛成、ですかねえ」


 えちごやさんが一枚のコインをおずおずと差し出す。


「………………どっちでも、いいよ」


 霧は、それだけ呟いた。


「……結構です。賛成六、両方一、反対ゼロで、私達の総意は決定しました。現時刻を持って、『教団』は私達の明確な敵対組織となりました。『教団』撲滅へ向けて、皆さんの多大なる協力と貢献を期待します」


 私は頭を下げ着席する。採決を終えての拍手など無い。

 当然だ、何せこれは殆ど出来レースのようなものだからだ。あくまで皆の意見の再確認という儀式めいた採決でしかない。

 実際のところ、こうして採決を取る以前から対『教団』に向けての活動は本格化している。


「では続けて私から。……例のイルドロンの死体に関してです」


 その証拠を示すように、会長は姿勢を微動だにせず重い口を開く。

 私を襲ったイルドロン、もとい"みーちゃん"の死体は事情聴取のため、秘密裏に法国の手によって持ち去られていた。

 イルドロンの蘇生は危険だという皆の反対意見を押し切った会長の行動だったのだが、果たしてそれは実を結んだのだろうか。


「結論から申し上げまして、彼女はイルドロンではありません。みーちゃんさんです」


 ある意味想像通りの、そしてある意味納得のいかない答えだった。


「それは一体、どういう事でしょうか」


 私の当然の疑問に、会長は頷いて答え始める。


「蘇生した彼女の記憶は一~二週間程前まで失われていました。他の記憶……自分が『ヴォーパル(首狩り)』の案内人である事、普段はウェイトレスとして働いている事等の記憶は問題なく残っていましたけれど、自らがラミーちゃんを助け、善意を持って自宅で保護していた、という記憶にはまったく身に覚えがなかったようです」


 自宅に帰ってからラミーに聞いた話を思い出す。


 彼女の言では手紙に書いてあった通り王都で姉と出会い数日共に過ごした後、用事を済ませ故郷に帰る姉を見送り私の家に帰ろうとした頃に『教団』の手の者に襲われたらしい。

 必死に逃げられたのも少しの間だけで、奴らに捕まり気を失ったラミーは気がつけばみーちゃんと名乗る女性に保護されていたとの事。

 みーちゃんは私の名や外見的特徴を知っていた(・・・・・)為、ラミーは安心してその庇護下に入ったのだそうだ。


 それが果たしてみーちゃん本人の意思によるものなのか、イルドロンの演技によるものなのかは、私達には分からない。

 だが恐らく、後者だろう。


「イルドロンと名乗る人物に覚えは?」

「やるだけの事はやりましたが、ありませんでした」


 辛そうな表情で会長が首を振る。

 つまり、会長はみーちゃんにその手の事をした、という事だ。

 決して口を割らなかったイルドロン本人の演技という可能性も捨てきれない、しかし。


「………………」


 暗く淀んだ会長の瞳を見てしまっては、その可能性を指摘する事は憚られた。


「三番は、後でうちが回収する、から。そのへんの、話は、つけておいてね」

「……わかっています」


 淡々と言う霧に、苦々しげに会長が同意する。


 『ヴォーパル(首狩り)』の敵対組織に数々の拷問を受けたみーちゃんは、後に『ヴォーパル(首狩り)』頭領自らの手で救い出される手筈となっているからだ。


 ……聞いていて胸糞悪い話には間違いない。

 だが、法国の民を傷つけ、エミル=アークライト二十七世とその両親を殺害した組織の親玉。それが手の届くところまで来ているのに待っていられるなど、法国の絶望的な悲惨さを見続けていた会長には耐えられるものではなかったのだ。

 その選択の結果、自分がどれだけ愚かな行為に及んでしまったとしても。


「私とルドネスからは、件の特殊アイテム及びスキルへの調査は芳しくないと言う事を伝えておこう」


 御剣が円卓の中央に丸い水晶を転がしながら言った。

 『教団』が所有していた飛翔迎撃晶(ひしょうげいげきしょう)の一つだ。


「初見だ。私の知識にこんなアイテムは無い。ルドネスの鑑定魔法も弾き、材料も不明。笑えるぐらい謎だらけだ、解明の暁には是非量産したいものだな」

「《魔封闘陣円(まふうとうじんえん)》でしたか。あれも最低人数、効果範囲、スキル発動の条件等不明で、尋問にかけられている彼らのうち数人引っ張ってこられれば解明も楽なのでしょうけど……」


 『悠久の大地』への理解が最も深い両名がお手上げとなると、私達にはどうしようもない。

 いつか『教団』の構成員が口を割るのを待つか、それまでは各自で気をつけるしかないだろう。


「……あの短剣、だけど。めっちゃ強い、ね。ラッキー」


 霧が手で弄ぶのは、イルドロンが私に刺した柄に目玉が掘り込まれた不気味な短剣だ。

 固有名詞も無く、あえて言えばイルドロンの短剣、と呼ぶべきそれはいつの間にか戦利品として霧が持っていってしまったが、誰もそれに文句は言わなかった。

 私達の間で短剣が得意装備なのは霧だけだし、ルドネスの魔法鑑定でも危険な反応は出なかったからだ。


「簡単に、調べた程度でも。沈黙。毒。スタン。スロウ。ライフドレイン。マジックドレイン。全ステータス低下。レジスト能力低下。回復能力低下。被ダメージ増加。etc、etc。……チート武器、すぎ」


 霧が羅列した効果はまさしく、バッドステータスとデバフのてんこ盛りよくばりセット一式だ。

 『悠久の大地』にこんな武器があったら、運営に対する抗議メールでサーバーがパンクするまである。


「……まったく、ふざけた武器だ。私が仮にイレイサーなら幾らでも金を積むぞ、そんな代物」

「私が手に入れてましたら、まさしくその金額でお売りしましたけれどねー……」


 珍しく苦虫を噛み潰したような表情をした御剣と、同様の表情で物欲に塗れた視線を隠そうともしないえちごやさん。

 苦労してボスモンスターを討伐し、その果てに手に入れた愛刀"凶刃アメノハバキリ"とイルドロンの短剣を比べてしまうと明らかに後者に軍配が上がる。

 より強さを求める御剣からすれば、装備しても碌に扱えない事を理解しても尚、強いレアな武器にはどうしても魅せられてしまうのだろう。

 えちごやさんは言うまでも無く、高い値段で売れるお宝として。


「……こら、嫉妬するな。別にお前の事を嫌いになったわけではないんだからな」


 御剣がぼそぼそと呟きながら腰のベルト―――ウェポンスタッカー―――を慌てて撫でる。

 私の見間違いか、なんか今ベルトがかたかた震えていたような気がするのだが……。


「ちょっと御剣」

「なんだ?」

「今そのベルト、ぶるぶるって震えなかった?」

「…………」

「御剣?」

「―――気のせいだろう、うむ」

「嘘付け御剣なに今の間はもしかしてまたなにか隠し事でも」

「ああーっと! それよりもだ山吹、お前に大事な事を聞きそびれていたな!」

「誤魔化すんじゃありません!」


 御剣は明らかに目を泳がせていた。

 いかん。こいつまた絶対何かトラブルを持ち込むぞ。

 なんとしても追求すべきとした私だったが、思わぬ横槍が入る。


「ああ、確かに。珍しく真面目な話をしていたからすっかりその件に関して聞きそびれていましたわね」


 ルドネスだ。何故か目をきらきらと光らせているルドネスだった。

 ……ホワイ?


「……何? 何か言ってなかった事でもあった?」

「あるに決まってるだろう」

「そうですわよ。私達円卓の仲間ですのに、水臭い」


 二人の話にまるで合点がいかなくて首を傾げてみる。

 はて……彼女達に伝え忘れた重要事項が果たしてあっただろうか……?


「……ごめん、わかんない。一体何の事?」


 結局分からずじまいで白旗を上げる。すると二人は意地悪そうな笑顔で、こう答えた。


「あの後、ラミーとは」

「どこまでヤッ(・・)たのかしら?」

「―――――――――――――――はっ」


 はっ、なっ、ちょま、ここ、こんなとこでそれを言うか普通!?

 た、確かに、ラミーとは、一言では言い切れないあれやこれやが、ありましたけどぉ!?


「えっ。ちょっと何ですかそれは、聞き捨てなりませんが山吹さん。―――えっ、マジで? 山吹ついにやる事やっちゃったわけ?」


 口調が元に戻った会長が食いついてきちゃったじゃないか!


「うひゃあ、山吹さんおめでとうございます! 今日はお赤飯ですね! お値段はお赤飯だけに出血大サービスで五割引のお値段でご提供しちゃいます!」


 えちごやさんはあれやこれやと夜のアイテムを引っ張り出してきてるし!

 …………ちょっと、何でそんなものまで持ってるんですかねえちごやさん。


「……青春だな」


 タタコさんは何故か達観してるし。


「……ふーん」


 霧が興味なさそうにしているのが唯一の救い―――いかん、これはフリだ。霧は私の話を聞く気マンマンだ!

 短剣を砥石で細かく研ぎつつも、しっかりと耳をそばだてている!


「で、何をどうしてやったんだ? ん? 余すとこなく詳細にその口で是非に聞かせて欲しいものだな、山吹? ん?」


 御剣が意地悪い笑顔で問い詰めてくる。


「や、あの、だっ、だって、今はそんな話をする場面じゃないでしょう!?」


 すると会長が悪乗りし始めた。


「いーや、俺は話をするべき場面だと思うね。さあ! 逃げ場を防げ! ディーフェンス! ディーフェンス!」

「ディーフェンス! ですわー!」


 ルドネスまで一緒になって、唯一この場から逃走できる魔法陣の前に陣取り道を塞いでしまう。


「な、ななな……!」

「酒が無いのが余計に拷問だなこりゃ。しらふで恋バナはきっちぃーぞー?」

「山吹さん大丈夫ですって、オフレコ! オフレコですから! どどーんと包み隠さずお話になっちゃって下さい!」

「…………ふーん」


 他の皆も後に続けといわんばかり。

 何だこれは。ついさっきまで対『教団』特別会議をしていたのに、していたのに!

 何で、私と、ラミーのあれやこれやを、寝掘り葉掘り、白状しなければ、いけないのだ!


「……ど、どうしても言わなきゃいけない感じなんですか、これは」

「どうしてもだ」


 御剣がぴしゃりと言い放った。

 ……そんな。どうしてもといったって。だって、私は、昨日ラミーと、……そのぅ。

 簡単に口にしてはいけないような、間柄になった、っていうか。

 うぅ。


「茹蛸ですわ」

「茹蛸だな」

「まっかっか」

「これである程度察せられる、というものですねえ」


 見るな! 人をそんな分析眼で見るな! ええい畜生人の皮を被った悪魔共め!

 人の恋路を肴に盛り上がるのがそんなに楽しいのか!


「あぅ……ぅぁぁ……」

「ほらほら顔を手で隠すな。恥ずかしさが極点に達すると、口が回らず顔を隠すようになるのはお前の悪い癖だぞ山吹、ほれ」

「やっ、ばかっ、手を取るなっ!」


 必死の抵抗すら容易く剥がされる。

 哀れ両手すら拘束された私は羞恥心に顔を真っ赤に染めた姿を、衆目に晒されたというわけだ! あっはっは!

 ……何もおかしくなんてないよぅ。バカ。皆バカだよ、滅茶苦茶恥ずかしくて頭バカになりそう。


「ぁぅ……ぅぅ~……」

「そら、思い切って吐き出して楽になってみろ? うん?」


 そんな風に茹だった脳みそをしてるからか、御剣の誘導になすすべも無く答えてしまう。


「…………き」

「き?」

「キス……を、一杯、しました……」

「ほほーう」

「ディープですか!?」

「……うん」


 ワーオ。との声が満場一致。

 ……いっそころしてくれ。


「で、それからそれから!?」


 ルドネスが物凄い勢いで食いついてくる。


「ベ、ベッドに行って」

「……ふ、ふーん」

「それ、から」


 それから、私とラミーは。


「それ、から……」


 凄い事、しちゃったんだ。

 ―――あぁ。色々思い出してしまった。

 今でも赤面してしまう。あの事この事凄い事信じられない事を。

 羞恥心が、臨界点を超えた。


「―――――――きゅぅ」

「……は? ちょ、ちょっとまて、ここで気絶する奴があるか! せめて詳細を語ってから悶死しろ山吹!」


 御剣が私を揺さぶって食いかかってくる。

 しかし悲しいかな、私はもうそこに居ない。今や意識は天井の園にて茶をすすっておられる。

 ははは。恨むなら自分達を恨みたまえ円卓勢よ。

 私は恥ずかしすぎるとな、なんと気絶するのだ!

 はははどうだ凄いだろー! 自己防衛機能だぞー!

 だぞー……。だぞー……。


 なんてお間抜けな夢を見つつ、私の意識は闇に沈んでいった。


 ……最近意識失う事多くなったなぁ。大丈夫か本当に。

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