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円卓の少女達  作者: 山梨明石
第二章・No.03
36/97

2-9

 ゴーレム達に掘らせた大穴の中に、刺さった枝などを抜いて綺麗にしたレッドアイゼンの死体を横たえる。


「職員さん。これをどうぞ」


 作業中にふと思いついてレッドアイゼンから抜いた物を職員に手渡す。


「これは……レッドアイゼンの牙ですか」

「ええ、形見になればと思い抜かせていただきました」

「……お気遣い、痛み入ります」


 牙を受け取った職員はそれを大事そうに胸に当てて黙祷を捧げた。

 私もそれに習い暫し瞑する。

 祈りを捧げ終わった後、ゴーレム達が掘り返した土を戻して大穴を埋めていく。職員はレッドアイゼンの姿が全て隠れてしまうまで、その光景をずっと見つめ続けていた。


 最後に盛り土を設けて、そこに大きな岩を突き立てて墓標とする。

 あまりにも無骨すぎる出来だが、今はこれで我慢してもらうしかない。せめてもの手向けに、森の中で見つかった草花を根元に添えた。


「すみません、今はこれぐらいしか出来なくて」

「……いえ、本当なら樹上で朽ちていくしかなかった筈のあいつをこれだけ手厚く葬って頂けたのです、きっとエミル神の御許に満足して向かえる筈でしょう。本当にありがとうございます、ヤマブキさん」


 職員が涙ながらに頭を下げて感謝の言葉を述べる。


「……いいえ、本当に大した事ではありませんから。さあ、行きましょう」

「はい。……レッドアイゼン、絶対また来るからな」


 レッドアイゼンの墓に再会を誓う職員の姿を見ていると、罪悪感が湧いてくる。

 本来なら私が『教団』なんぞに目を付けられてなければ、彼は死なずに済んだのだから。


「……はぁ」


 私は降りかかる火の粉を払う為になんら躊躇はしない。しかしその煽りで赤の他人が被害に遭うなんてのは真っ平御免だ。

 私のせいで不幸な人間が増えるというのは、実に我慢がならない。

 だから私は今までなるべく世間との接触は抑えて来た。

 せいぜい腕の立つ薬屋程度の認識さえされていれば、出会うトラブルなんて高が知れているし。

 しかし『教団』なんて危険な集団に面が割れている今、そのスタンスはもう変えるべきだろう。


 私の平穏を乱す輩は野放しには出来ぬ。

 簡単な想像だ。もし今回被害に遭った相手がレッドアイゼンでなくラミーであったとしたら―――きっと私は冷静を保てなかった。

 そんな未来は断固として迎えてはならない。一分の可能性も残してはおけない。

 だからこれからは、積極的に打って出るべきだ。御剣やルドネス、会長のように名前が世に知れ渡ってしまっても構わない。

 ラミーに怖い思いをさせるのと比べれば……その程度のリスクは他愛ない。


「全く、いい加減に引きこもりは止めろって事なのかな。長いようで短かった静かな暮らしも、これで終わりかぁ……」

「……? ヤマブキさん、何か言いましたか?」

「―――ああいえ、ただちょっとそのあたりを離れていて欲しいかな、と」

「は、はぁ」


 半年近い隠遁生活に別れを告げて覚悟を決めると、妙に気持ちがすっきりした。

 おかげで恥ずかしい詠唱も、まぁ仕方ないから唱えてやろうか、という気持ちになるってものである。


「ん、んん! ……仮初めの脆き命よ、我が胎に還れ《従者の回帰》」


 魔法を発動させると、残っていたゴーレム達の体は崩れ落ちて土くれと化した。その残骸から彼らの動力源だった私の魔力が、常人には見えない経路(パス)を通って私の体に戻ってくる。

 《従者の回帰》は召喚魔法で呼び出した物体に宿る魔力をある程度回収する魔法だ。

 減ったMPを一瞬で回復できるため緊急時の手段としてはそれなりに使えるが、代わりに召喚した物体はどれだけ効果時間が残っていても破壊されてしまう為使い所を見誤ると窮地に陥ったりする。

 なので大抵は「召喚したは良いが数が多くて邪魔」だったり「マジック・ポーション節約の為」くらいにしか使われない優先度の低い魔法となっている。

 だからこんな魔法さっさと忘却してしまってもいいのだが―――まあ、こういう時はそれなりに役に立つニクい奴なので覚えたままにしている。

 ……ポーションが勿体無いと考えている貧乏性と言うわけではない、けして。


「あんまりやりたくないんだけどなぁ……おほん。――――――意思なき土くれども。我が呼びかけに応じるならば、その身に偽りの命をくれてやろう。しかして、そは一日一夜の命。明晩を持たずして崩れ去る。されど命を欲するならば、されどこの地を歩みたければ、さあ、我が手を取り頭を垂れ、忠誠を示すのだ。《サモン・アイアンメタルゴーレム》」


 詠唱を重ね強靭なイメージを乗せた八体のゴーレムを召喚する。


「……くっ……んっ……流石に八体ともなると、結構な重圧……!」


 私の体からMPがごっそりと引き抜かれていく。その喪失感に気分が悪くなり少し立ちくらみかける。

 恐らく残りのMPは総量の二割程度しか無い筈だ。自分でやった事とはいえ気分のいいものではない。

 だがそれだけの代価を支払えば、呼び出す彼らはそれ相応の務めを果たしてくれる。


「な、なんだ。この揺れは!?」

「ヤマブキさん!?」


 局所的な揺れと共に、あちこちの地面が不自然に盛り上がっていく。動揺する皆を他所に、彼らは無感情にそこから這い上がってきた。


「……COOOOOOO」


 全身を鈍く光らせる、高さ三メートルはありそうな鋼鉄の巨人が地中から次々とその姿を現していく。

 のっぺらぼう―――ではない。頭部には不気味に発光する瞳が追加され、胸元には複雑怪奇な紋様の魔法陣が浮かび上がっていた。

 彼らこそアイアン・メタルゴーレム。私が普段適当に呼び出す使い捨てのゴーレムとは一線を画す、本気で運用する事を前提とした極めて高い能力を持つ、アイアン・メタルゴーレムの本来の姿である。

 出てきたゴーレムのうち一体が、私の元に傅く。


「ふぅ……状況は説明したほうがいい?」

「COO……。NON。すでニ、あるじさまカラまりょくヲつうジテ、おおかたノじょうきょうハはあくシテオリマス」

「うん。じゃあよろしくね?」

「YES.MOM」

「…………うん」


 口も無いのに喋ったゴーレムは頷いて了解の意を示すと、各自がそれぞれの役割を果たす為に縄で縛られた襲撃者達の下へ歩み始めた。

 ちなみにこれは私の一人芝居ではない。ゴーレムは今、確固とした自我を持って私に接触している。

 どうにも召喚するゴーレムに込める魔力が一定ラインを超えると自我を持つらしいのだが、どういう原理が働いて自我が生まれるのかはまったくもって分からないし知らない。


「しゃ、喋った……」

「―――し、信じられん、馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なッ!! 絶対にありえん!! こんな事があってなるものか!! ゴーレムの八体多重召喚だけでも正気の沙汰では無いのに、ゴーレムが意思を持つだと!? そ、それは最早……し、神話の領域ではないか……!!! ふざけるなっ! インチキも大概にしろっ!!」


 《ミドル・ヒールポーション》の力で足が元通りに復元した襲撃者の隊長が、まるで発狂したかのように喚きたてる。……もう治すの止めようかな。


「はいそこうるさい」


 それになーにが神話の領域か。これぐらいならルドネスが朝飯前にやってのけてみせる。仮に私が神話レベルなら彼女は神そのものだ。


「だまレ、にんげん。フザケタくちヲきクナ」

「がっ!? ん、んむーっ! むむぅーっ!」

「隊長っ!? もがっ、もがががっ」


 先ほどのゴーレムが隊長の口にロープの猿轡をかませる。それを見た他のゴーレム達は彼に習い同じようにして襲撃者達を黙らせていった。

 自我がある、とはこういう事だ。いちいち指示をせずとも自らで考え、そして学習して行動してくれる。

 私の思考もある程度察してくれているので便利な事この上ない。


「しょちヲかんりょうシマシタ」

「ん。それじゃあ七人は襲撃者達を担いで、残りの一人は私と職員さんね」

「YES,MOM」

「…………うん」


 ……なのだが、私はあまりこのゴーレム達が好きではない。

 なぜかって?


「……あのさ、その、MOM(おかあさん)っての、止めない?」


 自我を持った彼らは必ず、何故か私の事を母と呼ぶからである。

 あながち間違いというわけでもないが、だからといって母呼ばわりはどうかと思う。正直恥ずかしい。

 大体私を母と呼ぶなら、お前たちは息子なのか娘なのかハッキリさせてからそう言ってみてはどうだろうか。性別なんて物があればの話だが。

 それにもっと言えば私は本当は父と呼ばれるべきであって……いや、止めよう。脱線する。


「やメマセン。あるじさまハ、われわれノMOM。われわれノMOMは、あるじさまデスノデ」

「いやそれ意味一緒だしわけわかんないから……」


 何度注意しても、次そう呼んだら破壊するぞと脅しても、彼らは決してその呼び方を止めてくれない。

 自我がある、とはこういう事だ。私が下した命令に異を唱えてその通りに実行してくれない事もある。

 しかも私の思考を察した上でそうしているのだから性質が悪い事この上ない。

 だからあまり呼びたくないのだが……手抜きバージョンだと簡単な命令しか理解してくれないので、彼らを呼んだというわけである。


「……トモアレ、MOM。こうどうヲかいしシテモよろシイデショウカ?」

「しかもさらっと流したし……。まぁいいけどさ、どうせ幾ら言ったってMOM(お母さん)って呼ぶんだろうし。―――ああ、やっちゃっていいよ?」

「……YES,MOM!」


 どこと無く嬉しそうに見えるゴーレム達がえっちらほっちらと襲撃者達を担ぎあげていく。

 縛られた彼らは数人が芋虫がのたうつように抵抗したが、ゴーレム達の手加減された腹パンチで苦悶のうめき声と共に大人しくなった。


「さて。では職員さんは私と一緒に乗りましょうか」

「は、はい……それにしても、なんと言いますか……もう、何が何やら。色々と凄過ぎて言葉が出てきません」

「……ほ、本当にたいした事ではありませんから」

「ご謙遜を! お客様の中には王都マジシャンギルド所属の方もいらっしゃいますが、こんなにも凄い魔法は始めて見ましたよ!」

「さ、さいですか、えへへ…………くっ!」


 心の底から湧き出てくる褒められた喜びを無理やり抑えつつ、ゴーレムが差し出した手に乗る。

 職員も手に乗せたゴーレムは実に丁寧に私達を肩まで運び、肩に乗った事を確認すると先陣を切って歩き始めた。


「おほん……忘れ物はなし、と」


 一応後ろを振り返って見て確認する。

 残されたのは焚き火の後と血の跡、それにレッドアイゼンの墓くらいだった。


「……短い間でしたが、楽しかったですよ」


 彼に別れを告げると、どこかで竜の嘶きが聞こえたような気がした。



 森の中を巨大な鋼鉄のゴーレム達が一列になって進んでいく。

 襲撃者達が樹皮に刻んだ目印は分かりやすい位置にあり、その跡を辿っていくのは簡単だった。


「……そろそろ二時間。未だ街道は見えず、か」


 しかしその足は遅々として進まない。

 ゴーレム達の体が大きすぎる為だ。進行ルートが狭くて通れない場面が多発した為、何度か迂回をくり返さねばならず時間がかかってしまったのだ。

 ちら、と視線を襲撃者達に向ける。


「……!」


 ゴーレムに抱えられる彼らはぶんぶんと首を振った。

 どうやら別に嘘のルートを教えているというわけではないらしい。


「あんまり時間はかけたくないんだけど、仕方ないか」


 食料と水が心許ないためさっさと人里に向かいたいのだが、焦っても良い事は無いだろう。

 溜息をつきつつゴーレムの頭を撫でる。

 

「……ん?」


 その時、ゴーレムの左肩に座る職員が声を上げた。


「どうかしましたか?」

「いえ、今何か、白い何かが木々の合間に見えたような気がして……」

「本当ですか? ……一号君は何か見た?」


 ゴーレムの頭をぺちぺちと叩いて聞く。一号というのは便宜上つけたゴーレムの名前だ。


「NON。シカシ、なんラカノけはいヲかんジマス」

「ふぅーむ……」


 感覚を集中させてみるが、私が持つパッシブスキルに反応する対象は見当たらない。

 その時点で少なくともモンスターと言う線は無いのだろうが……野生の獣か何かだろうか。


「にごうヨリれんらく。にごういか、はちごうマデ、いちごうトおなジいけんデス」

「そっか。……まぁ、大事なさそうだし先に進もう。一応警戒だけはしておいて」

「YES,MOM」


 きっと兎か何かが様子を見に来ただけなのかもしれないし、こちらに敵意がないのならあえて構いに行く必要も無い。

 最低限の警戒だけ命じて先に進む。そうして再び進む事暫くして。


「……ううん?」


 次の目印にたどり着いた時、少し違和感を覚える。


「ちょっと止まって。……よっと」


 ゴーレムの肩から飛び降りて、樹に刻まれた目印をよく観察する。

 それは一目見てすぐ分かる×(ペケ)マークで、東西南北に一画だけ追加された棒線の方向が次の行き先を示している。今まで私達はそれを辿って森の中を進んできた。

 そう、ただの目印だ。ただの目印なのだが……。


「……ん~?」


 ほんの少し、今まで見てきた目印とは少し形が歪なのだ。

 今まで見てきた×(ペケ)は跡がくっきりとしていて線も真っ直ぐ引かれていたが、今私が見ている目印は傷跡が浅く線も歪んでいる。

 襲撃者達が横着して適当に刻んだだけなのだろうか。


「二号君、ちょっとこっち来て」

「YES」


 ゴーレムの二号に襲撃者達を連れて来てもらい、一応質問してみる。


「すみません、これは貴方達がつけた目印に間違いありませんか?」

「むー、むー!」


 両脇に抱えられる襲撃者達は呻きながら首を何度も上下に振る。


「そうですか……」


 彼らを百%信用しているわけではないが、彼らがそう言うならそうなのだろう。

 大体こんな簡単な目印を見間違える筈もないし。


「どうしましたか? 何か問題でも?」

「いえ、私の気のせいだったみたいです、何でもありませんよ」


 再び一号の肩に乗せて貰い、進行を再開する。次の方向は北だ。


「ふぅ……」


 森の中を進む。視界の端に一瞬だけ白い何かが横切った。


「次も北、ね」


 次の方向は北だ。森が段々と鬱蒼としてきて、緑の匂いが濃くなっていく。


「……次も北」


 次も北だ。高い木々から生える大量の葉っぱに太陽の光が遮られているのか、少し周りが薄暗い。


「…………北」


 次も北だった。どう考えても森の奥に進んでいるような気がしてならない。


「……ちょっと。本当に合っているんですよね?」

「むーうーむむー! むーむー!」


 三号に襲撃者達を絞らせてみるものの、やはり彼らの答えは先ほどと変わらなかった。

 釈然としないが北に進む。


「………………」


 そして次も北だった。


「…………は?」


 そして北に進んだ先で、私達の視界は急に開けた。

 進行方向にはまるでお膳立てしたかのようにゴーレムが通れる横幅の太い道が続いており、道の脇には綺麗に咲き誇る花々が芳香を放っている。

 道の終着点には大きな広場があり、その中心に白い何かが複数体座していた。

 考えるまでも無い異常事態だ。しかしパッシブスキル《ホスティリティ・センス》には反応がない。


「こ、これは一体どうした事でしょう……?」

「わかりません。わかりませんが、しかし……それはそれとして彼らは一応シメておきます」

「YES。にごういか、はちごうマデ、『しおき』ヲしっこうシマス」


 背後に並ぶゴーレム達が一斉に動く。


「むううううううううううう!!」

「うううむうううむううう!!」


 十三人からなる苦悶の大合唱だが、猿轡をしているのであまり騒がしくなくていい。

 状況からして、少し前から辿ってきたあの目印は私達を誘いこむ為に偽装された目印だと思われる。それを見抜けなかった役立たずの彼らには当然の仕打ちである。深く反省して欲しい。

 私? 私はおかしいな、と思ったからセーフだ。うん。


「どうしよう……あれどう見てもボスモンスターだよね…………でも敵意が無い? どうして……?」


 逃げるか立ち向かうかの判断を決めるにしても、それ以前に私の目を引くのは広場に座している白い何か達だ。

 一体だけ居る大きな奴がボスモンスターである事には疑いようが無い。なにしろこれだけ離れている距離からでも、その個体から放たれる重圧感は少なくともレベル100近辺のそれなのだから。

 周りに居るのはボスモンスターお馴染みの取り巻きであろう。少なく見積もってもレベル70ぐらいはありそうだ。

 だが、分かるのはそれだけだった。


「……ちっ、認識耐性かな。近づかなきゃわからないか」


 必死に目を凝らしてみるものの、広場の彼らから読み取れる情報はおおよその力と、その姿が白一色である事だけ。全体像はぼやけており輪郭線ぐらいしか見えない。

 ―――認識耐性。

 一部のモンスターは認識への耐性を有している。それは弱点や能力、現在HP等を隠す為、あると地味に嫌な耐性の一つだ。

 そして認識耐性を持つ輩は大抵、戦うと面倒くさい能力を持っている場合が多い。


「……うん、わかった。これ戦う必要ないよね。逃げよう!」


 戦力差的に私が全力で戦えば恐らく勝てはするだろうが、その場合職員さんは間違いなく戦いの余波で死ぬだろうし、襲撃者達は何人か逃してしまうだろう。ならばここは逃げの一手である。

 それに理由は分からないが彼らは私に敵意を抱いていない。ならば何故私達を誘い込んだのか、という疑問が残るがそんなのはどうでもいい。

 もしかして強者と戦いたいから私達を誘った? ……知らん知らん。そんなモンスターの都合なぞどうでもいい。もしそうならそのうち御剣あたりがひょっこりお邪魔するから待っていれば宜しいのさ!

 ―――というわけで逃げを決断した私はゴーレム一号に踵を返させる。


「ヤ、ヤマブキさん!? 道が!」


 のだが。


「はちごうヨリでんたつ。たいろヲたタレマシタ」


 そこにはものすごい勢いで地面から生えてきた無数の樹木が道を塞ぐ光景があった。それらはまるで城壁を築き上げるかのように、恐ろしい速度で横に生え並んで行く。樹と樹の合い間には隙間が無く、びっちりと樹の幹や蔓が絡み合っている。

 呆気に取られて見ていると、その城壁は左右の地平線まで続く大城壁となって私達の前に立ち塞がってしまった。

 …………ああ、遅かった。


「……………………試しに一発殴ってみて」


 あまり期待していないが打開を試みる。


「YES,MOM………………SORRY、はちごうノうでガおレマシタ」

「…………そ。わかった」


 はははは。曲りなりにもレベル152の私が召喚したゴーレムの腕が折れる程の防御力でありますか。


 ……ホワイ。


 なんでだ。どうして私を大人しく帰させてくれないんだ。

 今はこんな事してる場合じゃないんだよ! さっさと王都に行って霧と合流してラミーちゃんを探したいんだよ!

 どうして、こうも、面倒くさい、イベントばっかり、続くんだ!

 私が一体何をしたっていうのさ!


「――――――っ」


 ……眉間を揉み解して一息つく。

 落ち着け私。騒いだ所でどうにもならないのは自分でも良く分かっているだろうに。

 深呼吸を数回して心を落ち着かせ、これからどうすべきか自分なりに結論を出していく。


「……とりあえず、先に進みましょう。場合によっては戦闘になるかもしれません。その時は一号から絶対に離れないようにして下さい。命の保障が出来ませんので」

「わ、わかりました。絶対に離れません」


 こうなれば腹を括るほかなし。ゴーレム達に命令を出して広場へと足を進める。


「……話が通じるような相手だといいけど」


 この状況は相手が私に敵意を抱いていない、というのがミソだ。

 今までそんなモンスターには遭遇した事がないので、もしかしたら彼らはボスモンスターではなくクエストやイベントで遭遇するような、モンスターの皮を被った(ノン)(プレイヤー)(キャラクター)なのかもしれないのだ。

 もしそうなら良くはないが良い。

 良い点は戦わずに済むかも知れないという点。

 良くないという点は、NPCならイベントに巻き込まれるという点だ。

 世界の命運だの昼ドラだのお使いクエストだの、そういうのはゲーム時代だけで十分であるからして。出来ればキャンセルの効くクエストだとありがたい。


「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」


 一歩一歩進む度に、認識耐性でぼやけていた白い何者か達の姿が顕になっていく。

 それは至近距離―――つまり広場にたどり着いた瞬間に完全に解けるだろう。

 まるで焦らされているようだ。向こう側はまるで動く気配がない。

 地を歩むゴーレムの音と風の音、そして鳥の鳴き声だけが聞こえる中、私達はついに広場へとたどり着く。

 そこには―――。


「――――――よくぞ参られた。穢れ無き美しい少女よ。我らはそなたの来訪を心より歓迎する」

「……驚いた。意思疎通の出来るモンスターがいるとは思いもよりませんでした」


 清らかな瞳でこちらを見据える、純白の肉体と翼を持った一角の馬。


「モンスターなどと汚らわしい呼び名で呼んでくれるな、強き乙女よ。我らは誇り高き一角神獣、ユニコーンである」


 人語を解す、コミュニケーションが始めて取れたモンスター。

 ユニコーンがいた。


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