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円卓の少女達  作者: 山梨明石
第二章・No.03
35/97

2-8

暴力表現注意!


「んっ……くぁぁっ……」


 すがすがしい朝だ。

 起き上がり体を伸ばして目元を擦る。耳栓のおかげで快眠できたので、目覚めはばっちりだ。

 さわやかな空気を胸いっぱいに息を吸い込むと、森に宿る生命力が体に満ちていくような気がして気持ちが良い。

 排気ガスとは無縁のこの世界では何処でも空気が美味しいが、それでもやはり森の中は別格だろう。


「―――! ―――!」


 そうやって大自然を満喫していると、何やらボロボロになった者共が何かを喚きたてているらしい姿が視界の隅っこに映った。

 彼らは盛んに何かを叫んでいるが、その声は聞こえてこない。

 一瞬何を馬鹿な真似をしているのだろうと疑問を抱き、すぐに思いなおす。


「ああ、そういえば耳栓をしてたんだった」


 ゆっくりと耳栓を外す。

 そしてまた直ぐに耳栓を付け直した。


「……こりゃまた元気一杯な事で」


 聞こえて来たのは特に意味の無い雑音。私への罵詈雑言だったからだ。


「…………。…………!」


 肩を叩かれる。

 振り返るとそこにはげっそりとした様子の職員が口とジェスチャーを交えて、彼らをどうにかして黙らせて欲しい、という旨の意思表示をしていた。

 もしかして私が起きるまでずっと彼らの暴言に付き合わされていたのだろうか。だとしたらこちらとしても申し訳ないので、速やかに仕事に取り掛かる。


「わかりました」


 効果時間が切れたのか召喚したゴーレムは三体に減っていたが、その残ったゴーレムらに思念を送る。

 襲撃者達が喋った瞬間そいつを叩けと命令したので、余程のバカでなければ二・三発殴られれば嫌でも静かになるはずである。

 ゴーレムがのしのしと襲撃者達に歩んでいくのを見つつ、今後の予定を立てる。

 経験則、というよりは実質勘のようなものだが、彼らには他にも仲間が居る筈だ。

 本当ならそいつらにも今回のツケを支払わせてやりたいところだが、この手の手合いはリスク管理が徹底している。一定期間連絡が無ければ撤退するよう訓練されていると思われるので、恐らく仲間の居場所を吐かせた所で、そこに向かったとしても無駄足に終わる可能性が高い。

 悪い芽は先に摘んでおきたいが難しいだろう。業腹だがひとまず森から脱出するのが先決である。


「―――!!!! ―――!!」


 ゴーレムが襲撃者達をひたすら殴り続けるのを見守る事数分。

 いい加減に学習したのか、襲撃者達はようやく大人しくなった。

 顔がパンパンに膨れ上がっている彼らに一応の情けとして《マイナー・ヒールポーション》をちょろちょろと掛け回していく。

 緩やかに顔の腫れが引いていくのを見つつ耳栓を外し、私は本題に入った。

 隊長と呼ばれていた、レンジャーの格好をした男の前に座り問いかける。


「力量の差は十分理解して頂けたと存じますので、必要な事だけを言います。一度しか言いませんのでよく聞いてください。

 ……あなた達の正体。目的。そして私の魔法を封じた方法とクロスボウの攻撃を封じた方法、全てを余す事無く吐いて下さい。聞こえましたか?」


 これで素直に答えてくれるのなら話が早いのだが、そうは問屋が卸さないだろう。


「プッ!」


 実際、隊長とやらからの返答は血交じりの唾だった。


「…………」


 これはまた随分と嫌われたものだ。

 私は努めて冷静にアイテム・バッグからボロ布を取り出して、そこに魔法で水を含ませて頬に付着した唾を拭う。

 そして、そうする必要は無いがあえて指を鳴らし、周りの者にも良く聞こえるように大きな声で命令した。


「両膝を砕いて。粉々になるまで」


 命令を受けた三体のゴーレムが隊長に歩み寄る。

 一体が体を固定し、残りの二体が足を一本ずつ押さえて膝の上にその拳を振り上げた。

 鉄槌が下り。上がり、下り、上がり、下って、また上がり、またしても下る。

 その間上がった絶叫は何処までも遠くに響くほど大きく、そしてこれ以上無い程に自らが受けた仕打ちがどれだけ凄惨な物かを皆に教える役目を果たしてくれた。


「残念です。もう二度と歩けなくなりましたね」

「ひぃぃぃぃぃぃぃ……!」


 アトルガム航空職員がその惨状を目にして悲鳴を上げる。

 都合八回もの鉄槌を受けた隊長の両膝はぺしゃんこになってしまった。それは文字通りの事だ。

 泡を吹いて失神した隊長を捨て置き、隣の男に問いかける。


「あなた達の正体と目的は―――」

「話す! 全て話す! だから止めてくれ! お願いだ、俺はあんな目に遭いたくない!」

「それは結構。では話して頂けますか?」


 静止の声はあがらなかった。


 ―――うむ。話が早い。やはり暴力はいいぞ!


 ……いかん。どこぞのポン刀大好き血まみれ女の生霊が降りかけている。

 くわばらくわばら。と邪念を振り祓い男から情報を搾り出す。

 聞き出せた内容は簡単に纏めると以下の通りとなった。


 彼らは『教団』の秘密部隊である『粛清隊』らしく、『教団』にとって害となる人物をその方法を問わず消し去る事を得意としているらしい。

 今回その標的となったのは勿論、私こと山吹緋色こと首狩り(ヴォーパル)頭領である。

 曰く、教団でも貢献著しい同士ゾリバスが異教徒共に囚われている原因の最たるものの一つが私なので、可及的速やかにこれを殺害する為に『粛清隊』は派遣されたそうだ。


 ……まあそれはいいとしても、つーかゾリバスって誰なんですかね。聞いた事ないんですが。ともあれ分からない事はスルーだ、今度会長にでも聞けば分かるだろう。


 そして次。私の魔法を封じた魔封闘陣円(まふうとうじんえん)とやらは、多人数で陣を組む事でその内部に捕らえた対象の魔法を封じるという、名づけるなら《連携スキル》とでも言うべきスキルだった。

 他のプレイヤーと協力してスキルを発動する事で、スキル同士のシナジーを活性化させる連携技はゲーム時代でも今でもあるが、そもそも前提からして複数人居ないと発動すら出来ないスキルが存在するとは思いも寄らなかった。

 これは円卓会議行き決定である。早急に調査をする必要があると思われる。


 そして私のクロスボウを封じた飛翔迎撃晶(ひしょうげいげきしょう)なる物はアイテムだった。

 使い捨てタイプのアイテムらしく、その見た目は通常の水晶となんら変わりないらしい。

 しかし一度活性化すると使用者の周囲を浮遊し始め、飛翔体を感知するとそれを自動的に迎撃、破壊する防衛機能を有している。

 その性能だけ聞くとエピック等級を越えてレジェンド等級並の能力があるが、残念な事に効果時間は非常に短く十数秒程度しか持たないのだと言う。

 生成方法は秘匿されており実働部隊の彼らですらそれを知っておらず、加えて一個作るに当たってのコストが甚大な為、彼らが所持していた飛翔迎撃晶は二、三個しか無かったようだ。

 手に入れられれば良かったのだが、それらは戦闘中に全て使用されてしまい跡形も無くこの世から消え去ってしまっている。無念。


 ……というかたったの二、三個で遠距離攻撃は全て無効化するだなんて大言を吐いてみせるとは、案外こやつらバカにできぬ。

 私はそのハッタリに騙されて得意なクロスボウを封じられてしまったのだから、これは要反省だな。


 再びゴーレムを三体呼び出して、レッドアイゼンが突き刺さったままの大樹を切り倒させる。

 腕をのこぎりのように変形させて切らせているが、元が土くれなので切り倒すまでには少し時間がかかるだろう。


「なるほど、なるほど……」


 膝がつぶれているのかちぎれかけているのか判別に困る隊長に《ミドル・ヒールポーション》をぶっ掛けつつ、非常に協力的になってくれた襲撃者の皆さんの情報提供を元に森の脱出ルートを決定する。

 理論的にはコンパス一個さえあれば、後は東西南北の示すままに進めば宜しいのだがそうも行かない。

 何せ今回は十四人を引き連れた脱出行である。もし仮に高い崖にぶち当たった場合、私一人ならなんとかなるが、十四人も一緒に崖を上らせるのは無理だ。

 なので襲撃者達が渡ってきたルートをこちらが利用させてもらう形となった。


「樹の表皮を切りつけて目印としています、そこを辿っていけば街道まではたどり着けるでしょう……」

「大変結構です、ありがとうございます」


 口汚かったのもナリをひそめて今ではすっかり丁寧語だ。好感が持てて良い。まあ持てるとは言っても、私を殺しに来た相手なんか好きにはなれないが。


「ヤマブキさん、そろそろ樹が倒れそうです!」

「わかりました。職員さんも下がってください、危険ですから!」


 ゴーレムの作業を一旦中止させて皆を下がらせる。大樹の幹には半分近く切込みが入れられて、今にも自重で倒れそうになっていた。


「ごー!」


 切り込みの入った方向をゴーレムに思い切り殴らせる。


「OOOOHHHHH!」


 全力の打撃を受けた大樹はみしみしと悲鳴を上げ、不気味にすら思えるゆっくりとした速度で倒れていく。

 そして大樹はドミノのように小さな木々をも巻き込みつつ、派手な騒音を立てながら地に倒れ伏した。

 倒れた時の震動で軽く足が浮いた。一時周囲は鳥や獣の鳴き声で騒々しくなる。


「先ほどから只者じゃないと思っていましたが、まさか本当に魔法一つでこんな大きな樹を切り倒してみせるなんて……。ヤマブキさんは凄い御方ですね……」

「……べ、別に? それほどではありませんが?」


 思わず語尾が上擦り気味になってしまう。

 こんな不意打ち気味に褒められた程度でこの舞い上がりよう。なんとかならんのだろうか。

 そこまで嬉しい話でもないだろうに、全く!

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