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円卓の少女達  作者: 山梨明石
第一章・No.01
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 拷問の結果、襲撃者は己の正体がカルロス=ゾーランである事を認めいくつかの情報を吐いた。


 第一に、彼はイルドロンとかいう人物を大宗主として崇める『教団』に属している尖兵の一人らしい。

 『教団』には名前など無く単に『教団』と呼ぶらしいが、いかにもカルト教団らしい雰囲気がびんびん伝わってきてげんなりする。

 大陸一大宗教の『聖教』以外にも、少数派の宗教がいくつかあるらしいというのは知っていたが、だからといって何も初めに接触するのがカルト教団じゃなくてもいいだろうに……。


 第二に、彼らの目的は異教徒が蔓延る不倶戴天の国家である法国の粉砕。

 文字通り法国を何もかも粉砕(・・)する為に、何十年と前から法国の水面下で密かに活動を続けてきたのだという。

 高官の買収、強力な伝染病を散布するバイオテロ、食料庫の破壊や田畑を焼き払うといった内部工作。法国を悩ませていた事態の大半が彼らの仕業だったようだ。

 そして大体半年前、とうとう法国の最重要人物である彼らに言わせる所の悪魔の血を引くエミル一家の根絶に成功した彼らだったが、突然現われた『聖女』を前に計画の大幅な変更を余儀なくされたらしい。

 じわじわと真綿で首を絞めるようにやってきた活動の末にようやく法国を粉砕できると思ったら、それがたった数ヶ月で水の泡と化したのだから、それはもうイルドロン様とやらは相当なおかんむりだったと言う。

 高い報酬を支払ったにも関わらず暗殺を依頼した『ヴォーパル』は仕事に失敗するしで、『教団』内部の空気は設立以来最悪のものとなっていた。

 しかるに、焦った『教団』の急進派の提言を受けて実行に移された計画というのが、此度の騒動との事。


 計画を要約すると、洗脳し傀儡化したエミルを用いて聖女を殺させた後に自決させ法国内部の崩壊を狙う、という内容だった。

 成功はしなかったものの、もしそれが成っていたのなら間違いなく法国は未曾有の大打撃を受けていたに違いない。

 こぞって人道的支援(・・・・・)というお題目で法国に寄付金を配ってきた外国諸王らの目的は、結局のところ『聖女』が持つ死者蘇生能力をアテにしての事だからだ。

 それが無くなってしまえば、法国はまたも半年前のような地獄を再び味わう破目になっていただろう。

 ともあれ、エミルが自らの意思で会長を襲ったわけではないらしい。

 その点は会長にとって救いだ。エミルとの関係に致命的な溝が生まれずにすんでよかったと思う。


 そして第三に、これが一番重要かもしれないのだが。

 『教団』からの指示を受け、現場で指揮する最前線の幹部が法国内部に潜んでおり、その人物はかなり高位の立場にあるという。

 その人物とは、現場では異教徒から『教皇』と呼ばれ畏敬の念を集めているらしい。

 あのミハエルと会話をしていた、痩せぎすの柔和な印象の、言葉を選ばないならバーコードハゲの男の事だ。


 …………会長が来てなかったらこの国普通に詰んでたじゃないか。

 そこまで根深い所に食い込まれていては、一個人では最早どうにもなるまい。

 それを今までどうにかしていたのだから、会長ってやっぱり凄いと再認識する。


 ―――俺は普通の一般ピーポーだ! なんてとんでもない。

 やっぱり会長は名実共に聖女ですよ。私にはとてもマネできない。


「私が必死になって守れるのは、せいぜい我が家と、ラミーちゃんと、円卓の皆くらいですから」


 庭園の火消しを済ませた私はゴーレムと共に大聖堂の入り口へと進む。

 流石にその時は一体何事かと通りすがる人達に誰何されたが、大聖堂に侵入した賊を捕らえミハエルに引渡す最中だと話すと簡単に道を開けた。

 ちょっとザルすぎやしないかと思わないでもないが、ミハエルの名が相当な信頼を帯びているのだという事にしておこう。



「来たか。そして、やはりか」


 大聖堂の入り口には、浴びた返り血を手ぬぐいで拭く御剣の姿があった。

 他にも参拝客らの山のような人だかりがあるが、彼らはかなりの距離を御剣から開けており、不自然に広い空間が出来上がっていた。

 遠巻きに御剣の様子を見ながらひそひそと話し合っているが、皆一様に顔面に恐怖の相が張り付いている。

 そして御剣の足元には四肢の関節がぐにゃぐにゃになった、出来の悪い人形のような虫の息の黒尽くめの長髪の男が一人。二人を取り囲むように、目の前の光景が信じられないといった様子の困惑した聖堂騎士団員らが数名いた。

 察するに、ある程度の事情説明は済んでいるのだろう。


「ああ、御剣のとこにも来たんだね。じゃあその人がボリスさん?」

「うむ。まぁ割と骨のある奴だった」


 御剣にそういわせるとなると、少なくともレベル50程度の実力はあったのだろう。

 ともあれ、これで昨夜の夜警の二人がここに揃った事になる。

 ゴーレムに担がせていた簀巻きのカルロスを放り投げると、彼は地面にぶつかった衝撃でうめき声を発しながら、同僚の哀れな姿を見てその身を戦慄させる。

 そんな彼を見て、聖堂騎士団たちは更に驚愕を重ねる。


「カルロス! まさか、お前まで……!」

「エミル神に捧げた信仰心を何処に捨ててきた! 貴様のような不心得者は私が神に代わり断罪してくれる!」

「まあまあ落ち着いて落ち着いて」


 悲哀、驚愕、憤怒。色とりどりの感情を見せる彼らの中から剣を抜き放つ者まで出てきたので、流石に止めに入る。

 少なくとも今殺してもらっては困る。後に法国に裁かれた末に殺されるというのであれば、それは一向に構わないが今はだめだ。


「……あらら、うちだけ空振りでしたか」


 聖堂騎士団員をなだめすかしていると、気軽な調子のえちごやさんが現われた。

 他にも『教団』とやらの手の者が居ると思われたのだが、居なかったのか。はたまたえちごやさんの幸運ステータスの高さが影響して相手と遭遇しなかったのかはわからない。

 ともあれ大事無さそうなので、手を振って返事とする。


「山吹。情報のすりあわせをしたい、えちごやも来い」

「うん」

「はーい」


 ミハエルの名を出しつつ、捕まえた彼らは此度の事態の重要参考人であるからして、絶対に一時の感情に任せて殺してしまったりしないようにと厳命して、彼らの世話を聖堂騎士団員に押し付ける。

 四肢の関節が酷い事になっているボリスに情けをかけて、一応ポーションもついでに渡す。

 聖堂騎士団員から感謝の言葉と共に見事な敬礼を受けつつも、人目から隠れるようにして移動した私達は得られた情報を交換し確認しあう。


「……どうかな」

「ボリスもカルロスも嘘は吐いていなかった。しかし所詮尖兵だからか、肝心のエミルの場所は知らなかったようだな」


 どうにも彼ら二人は洗脳状態にあるエミルが暗殺に失敗した所までは把握していたようだが、『聖女』が忽然と姿を消したのは彼らにとって想定外だったらしく、困った二人は計画を修正する為エミルの身柄を他の工作員に引き渡していた。

 その後のエミルの動向がどうなっているかは、彼らは知らされていない。


「うーん……エミルさんですが、もしかしたら既に死んでいるのでは? 彼ら的には、ベストが無理ならベターな結果を求める可能性もあると思うんです」

「二人が無理なら、せめてもう一人はって事だね、えちごやさん」


 彼らの目的はエミルと会長の暗殺。二つの目的のうち片方を完了するだけでも、法国にとってはかなりの痛手になる。

 しかし御剣は首を振って私達の考えを否定した。


「二人ともそれはない。セラフの能力を忘れてはいないか?」

「あっ……そうか、そうだった。会長が生きてたら、結局エミルを殺害した所で無意味なんだ」

「……言われてみればそうですね。ちょっと抜けてました」


 一番重要なことを忘れていた。

 確かにいくらエミルを殺したところで、会長が存命なら最終的にはまた蘇らせられてしまう。

 それでは法国の崩壊は望めない。という事はつまり、彼らがエミルを回収したのは、彼にまだ使い道があると判断しての事なのだ。


「……恐らく、洗脳状態にあるエミルを再び何らかの方法を用いてセラフにけしかけるつもりなのかもしれん。あるいは囮か何かにでも使うのだろうな」

「という事はこのまま待っていても、遠からず『教団』のほうから動きがあると?」

「きっとそうだろうね」

「うむ。しかしだ、待つのは性に合わん」


 御剣が鷹のような鋭い視線を飛ばす。その目線の先を追うと、苦々しげな表情で早歩きに歩み去る教皇の姿があった。


「……ナイスタイミング」

「全くな。騒ぎを聞きつけて鼠が様子を見に来たと見える」

「あちゃあ……隠れていればいいものを。なんまんだぶ」


 私達は自然な風を装って彼の後を追う。

 楽しい楽しいマンハント(人狩り)の始まりだ。



明日は更新をお休みします。多分。

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