哀れなるモノのようですよ!?
3月30日(水)の投稿になります。
魔物と化したハゾンは、天へとその両手を掲げる。すると、あのラーの瞳から放たれたのと同じく黒い光の腕が生まれ、街中に手を伸ばした。
それは、それぞれの獲物、そう皆が倒した同種食い達の魔核を掴みハゾンの身体の中へと潜りこんだ。
「む?2つほど足りんが…まあいい。ぐっ!ぐぐぐっ!」
ハゾンは呻き声を上げながらその身を丸める。
『これは…先ほどよりも強力な邪域が形成されていきます!』
さらに変化するということですか!
私は慌てて雷を放ったが、ハゾンの身体中に浮かび上がっていた禍津文字が不気味な光を放つと雷を掻き消した。
これは…
『対神術術式・禍津龍呪を元にした呪法で間違いなさそうです。』
禍津龍呪とは、かつて神への階梯を登りかけた一体の龍、禍津龍と呼ばれたモノがそれを阻止した一柱の神への呪いを術式にしたものという。
つまり神の術法は効果が薄いということですか。
『ただの人間が使用しているならともかく、曲がりなりにも進化を果たしたモノが使えば現在のマスターではほぼ防がれるかと…』
私が手をこまねいている内にハゾンの変化が終わったようでゆっくりとその丸まっていた身体を伸ばした。
それは、さっきよりもさらにおぞましい雰囲気を漂わせ、頭からでたらめに生え伸びた角、その数を増やした同種食いの苦悶の表情を浮かべた顔、そして歪に歪んだどす黒い身体。
「「「見ろ!この神々しい我の身体を!この人を超えた姿!魔物を超えた姿こそ真の神の姿だっ!!」」」ハゾンの身体中にある同種食いの口から同時に放たれる声に、邪悪なる波動を伴った声に周りの景色が歪む。
その姿はまさしく…
「失敗のようですね。なんて哀れな姿…」
私の呟くような声に得意気に笑っていたハゾンが怒りの声を上げる。
「失敗だと!?何を言っているっ!この圧倒的な力が理解できんのかっ!?」
私は、ゆっくりと顔を横に振り否定の意思を示し口を開く。ハゾンの間違いを正すために。
「あなたは神に対して全く理解していないようですね。だからそんな人の姿とかけ離れた姿を得て喜んでいる。そもそも神とは、ヒトより出るモノ。ヒトとしての姿を保てないあなたは決して神ではない、ただの化け物よ!」
「「「ふ、ふざけるなぁ小娘ぇ!!貴様に神のなにが解ると言うのだ!我がっ!我こそがアメン・ラーが求めていた神そのものなのだっ!!!」」」
激昂によるものか力を得た傲慢さからか、アメン・ラーに対して敬称を付ける事すらせずまくしたてる。
「「「ぐふふっまあいい、どんなにふざけたことを言おうがこの状況をどうするつもりだ?貴様の力は使えんはずだ。」」」
確かにこのままでは…
「ほいっと!」と気の抜けたような声が聞こえたかと思うと、ハゾンの身体に向かって刀を振り下ろすニーニャさんの姿が!
しかし…
パキンッという音を立ててその刃は折れ飛んでしまった。
「ありゃここ来るまでに無理な使い方しちまったからねぇ。」私のそばに着地したニーニャさんは、折れた刀身を見やりながらぼやいた。よく見たら、ニーニャさんは二刀流だったのに今は一本しか武器を持っていない。ここに着くまで本当に無理をしたのだろう。
「ニーニャさん!」
「来てそうそう戦力外とは笑えないねぇ。」とニーニャさんは苦笑するが、来てくれただけでも十分です!
「「「雑魚が!」」」ハゾンが黒い光の腕を伸ばしニーニャさんを襲う…が!
「させんっ!」その攻撃はヤツバさんによって防がれた。
「ハル様、遅れました!すいません。」
「ヤツバさん!」ヤツバさんは難なくハゾンの攻撃を捌く。
修行の成果だろう。その剣捌きは前より堂々としたものになっている。
「ニーニャ!受けとりなさい!」
その声とともに、ニーニャさんに向けてニ振りの剣が放られる。
ニーニャさんは危なげなく受け止めると投げられた方を見やる。私もそちらの方を見ると、そこにはアレーナさん達がいた。
「アルセムさんからですよ。やっと満足のいく物が出来た、だそうです!」
「アルセムが?」ニーニャさんはその剣を抜いてみる。それは美しい刃をもつショートソードだった。
右手側からは炎の力を感じ、左手側からは氷の力を感じるが、これは魔法剣?
「ふむ、刀身はイカルガの刀打ちの技が使われているようですね。切ることに特化した見事な業物です。」とヤツバさんが感心しながらその出来を誉める。
アレーナさんはもしかしてこれを届けるために?
「とりあえず積もる話は後にして手伝ってくれないかなぁ。」ハゾンを抑えこんでくれていたアミーナさんがぼやく。
「「「雑魚が増えた所で!」」」
「だれが雑魚だこら!」マサキさんがハゾンに攻撃を加えながら文句を言うが、その攻撃は思うように当たらないようだ。
「ちょこまかと逃げおって!…だが特に硬くはないようだな。」
ショウコさんの攻撃はハゾンの羽の一枚を切り裂いた。
「「「がぁ!おのれ!神に刃向かうか!愚かな人間かっ!!」」」
お返しとばかりに放たれた黒い光の腕をなんとか避け一旦離れ体制を整える一同。
「神か…哀れなものだな。」
マサキさんではない決して大きくはないがハッキリと聞こえる男性の声が戦場に響く
。
「兄様?」
そこに現れたのは、ザック兄様だった。
あれ?終わらないぞ?