忍者も登場のようですよ!?
3月6日(日)の投稿になります。
宿屋の前で私を待っていたザックさんの案内で近くの酒場へ。どうやらここには個室があり、密談などにもってこいらしい。
さて…部屋に入って数分が立ちましたが。ザックさんは何も喋らないままです。
普通なら沈黙に耐えられないとか思うんでしょうが、不思議と落ち着くというか、昔から変わらないなという思いが過ぎる。
私の記憶にあるザック兄様は何時も無口で、だけど常に私のことを気にかけてくれていた。そんな記憶が私の中にある。
そして、そんな記憶があることに困惑しているオレがいる。
この記憶はなんだと叫ぶモノと受け入れているモノとがせめぎあい、混じり合ってきている。
目の前にいる男はザック・ラー、ランクAの冒険者で凄腕らしい。オレの知っているこの男の情報はこれぐらいだ。
目の前にいる男性の名はザック・ラー、かつてイカルガの王宮で食客として召し抱えられたこともあるお方で、幼い頃出会ってから心許せるほどに仲の良くなった兄とも慕った人だ。私の知っているこの男性の情報はまだまだ語り切れないほどありますが。
オレと私二つの記憶。私とオレ二人の意思。廻り流され混ざり離れぶつかり、私が私でなくなりオレがオレを取り戻し、オレが私に戻りそして…
「ここ暫くの間、お前の情報を仕入れていた。」
考え込んでいた私の意識を、ザックさんの声が引き戻した。
「情報、ですか?」
ザックさんは一つ頷き話を続ける。
「そうだ、イカルガでのこと、これはほとんど情報が入ってこなかった。半年ほど前に内乱があったということぐらいか。だが…その内乱のときにハルが、お前が殺されたという情報があった。」
私が殺された?
こちらを見つめた後、再び話し出す。
「イカルガの情報統制は完璧だ。相変わらずな…俺も伝手がなければこの地で情報は仕入れられなかっただろう。彼女の情報に間違いはありえない。しかしお前はここにいる。最初は偽物とも疑ったが俺にはそうは思えなかった。」
それは…
「それは私も同じ意見ですよ。」
私達の他に誰もいなかった部屋に女性の声が!?
慌てて声の方に振り向くと、そこにいたのは…
「カザリ?」着物、というか忍者装束に似た衣装を身にまとった20代後半ほどの黒髪をボブカットにした和風美人の女性が、お庭番衆の一人、カザリがそこにいた。
「お久しぶりでございます。姫様。」
目に涙を浮かべながら跪く。
「なぜここに?」
私の問にカザリは顔を上げると質問に答えた。
「それは、神託があったためです。”遠き地にて我が血を継ぐ者が黄泉帰るであろう”と。ゆえに陛下は我らを放ち、姫様の行方を追っておりました。」
神託…
「姫様、イカルガへ帰りましょう。私が御送りいたします。」
とカザリが言うが、私はゆっくりと首を横に振った。
「なぜでございます?」カザリは私が断ることを知っていたのか慌てることなく尋ねてきた。
「わかっているのでしょう?私が記憶が曖昧であるということが。」
頷くカザリ。
「だから今、国に帰ることはできません。」
「その為に王都に行かれるということですか。」
カザリは心得てるとばかりに言った。
「ならば私もその旅に同行することをお許しください。」
「それは…嬉しいけれど、私一人で決めれないわ。」
私が困ったように言うとカザリは。
「もちろん姫様のお手を煩わせる真似は致しません。同行者への許可はすでに取り付けております。」
えっ!?いつの間に?
カザリは一本取ってやったとばかりに微笑んでいた。相変わらずですねカザリは…
「わかりました。ではよろしくお願いしますね。」
ザックさんはカザリと合わせるために時間を取ってくれたのでしょうか?
つとザックさんの方に目を向けると、彼は静かに私達を見守っていた。
「話は纏まったようだな。」
そういって部屋から出ようとする。
「ザック殿、色々ありがとうございました。」
カザリのお辞儀に軽く手を振って答えると私の方を一度見てから部屋を出て行った。
サムライがいるならニンジャもいますよね?