家庭訪問 *2
程無くして、まるで振動を感じさせず滑るようにして車は停まった。
ボクのイメージでは降りる時に手を差し出してくる執事でも居るのかと思っていたのだけど、それは物語だけの話なのか別の事情があるのか存在しなかった。
ボクたちは、そのまま友里音ちゃんの先導で歩き続けた。
突き当たりを右に曲がると、子ども部屋というには広すぎるスペースが現れた。
「ここがあたしのお部屋なの」
ある意味予想通りの言葉だったけど、ボクは本当に来て良かったのか少し不安になった。
……一応、父上の許可も取ってあるし大丈夫だとは思うんだけどね。というか、物凄く喜ばれたし。
ボクは父上から何だと思われているんだろうね……。流石に、遊びに行く仲の友人くらい居るからね?
取り敢えず、この部屋は友里音ちゃん専用のスペースらしく、中は女の子らしい小物が置かれていた。
何時ぞや言っていた「すぐに友里音ちゃんのものを壊すお兄ちゃん」は、この部屋に立ち入るのだろうか。
申し訳ないけど、男の子がこの部屋にいるのは客観的に違和感が物凄いと思うんだけど。
「……さて、ボクは何をすれば良いのかな? 触って良いものと駄目なものの区別すらつかないんだけど」
「癒織になら触られて困るものは無いの。……だって、壊さないでしょ?」
そう言ってもらえるのは嬉しいけど、物の価値が分からないから依然として腰が引けたままだ。
そんな様子のボクを見かねたのか、友里音ちゃんは部屋の隅から木製の大きな箱を引きずってきた。
「それは?」
「……積み木でもしようかと思ったの。いつも邪魔が入るから」
「成程。良いね」
ボクがそう答えると、友里音ちゃんはほっとした様に息を吐き出した。どうやら、緊張していたようだ。
そんな友里音ちゃんを見ていたら、ボクも肩から余計な力が抜けたのか自然に笑みが浮かんだ。
「……早速遊ぼうか」
「そうするの」
ボクたちは、特に目的も無く積み木を使って遊び始めた。
「あたしの方が高く積めたの」
「……え、勝負だったの?」
「うん」
「……だったら、一緒に積まない?」
「うーん……。賛成なの」
何時の間にか競争に発展していたらしい積み木遊びは、ボクたちが協定を組んだことで別のゲームに変わった。
二人でバランスを見ながら交互に積み木を追加していると、友里音ちゃんがぽつりと呟いた。
「最初に癒織を見た時ね、あまりに笑わないから人形かと思ったの」
「……それは、随分と失礼な話だね」
無性に苛立ちを感じて、ボクは考えるより先に口にしていた。
それに気付いたのか、友里音ちゃんは少し焦った調子で弁明するように続けた。
「別に悪口じゃないの。……もし、お人形さんだったら、一緒にいられるかなって」
「……? どういうことかな?」
「あたしのお友達は、あたしの事に巻き込まれていなくなっちゃうから」
そう答えた友里音ちゃんの表情が寂しげでどういうことか聞こうとした時に、扉が物凄い音を立てて開いた。
「おーいっ! お兄様のお帰りだぞー!!」
そこに居たのは、友里音ちゃんには似ても似つかない小太りな男の子だった。




