彼女との出会い
その日は見事な晴天で、ボクは外で遊びたい気分だった。しかし、生憎父上は仕事が立て込んでいたため、ボクは一人で出掛けることにした。
子供が一人で出歩ける範囲というと存外狭いもので、僕が思い付いたのは最寄の公園だけだった。
何をしようというわけでもなく出掛けたので何も持って来ていなかったボクは、取り敢えず砂場に行ってみることにした。
そこには、砂で作られた小さな山と置き去りにされたバケツがあった。
……さっきまで誰かが遊んでいた感じかな?
ボクが、そのバケツを眺めて首を傾げていると、砂場の向こう側から軽い足音が聞こえてきた。
「あー! それ、あたしのヤツ。壊さないでほしいの!」
「へ? ……壊したりしないよ。そもそも、見ていただけだし」
突然の濡れ衣に少し顔を顰めながら答えると、その子は安心したような表情になった。
「そうなのー。ごめんね、お兄ちゃんがすぐにあたしのものを壊すからつい……」
「それは……。何というか、災難だね」
「でしょー? ……でも、そっちも悪いのよ、全く表情が変わらないんだもの。あたしのお城に何するか分からないからすごく慌てたの」
「……別に、面白いことがあれば笑うけど。寧ろ、砂場の山を見ただけで笑う人とか、ボクは嫌だよ」
まあ、あれを「お城」と言い張るところには少し笑ったけど。どう見てもただの山だし。
……とは言うものの、ボクもそのあたりに関しては不器用だからあまり人のことを笑えないんだけどね。
ブーメランになりかねない。
「それもそうなの。……ところで、お名前は?」
「……突然だね。でも、名前は自分が名乗ってから聞くのが礼儀だと思うよ?」
「そう? あたしは、岸原 友里音。よろしくなの」
「ボクは、星砂 癒織。よろしくね、岸原さん」
ボクが右手を差し出しながら言うと、その子はあからさまに嫌そうな表情になって頬を膨らませた。
「……あたし、自分の苗字が嫌いなの。名前で呼んで」
「ええと、ボクは名前で呼ぶのは苦手なんだけど……」
「呼んでくれないと許さないっ!」
……ええー。どうしよう。物凄く面倒なんだけど。
父上とかには、極力他人を名前で呼ばないようにって言われているんだよね。信頼出来る人以外は呼んだら駄目って。
でも、この子を言いくるめるのは大変そうだし……。
一人くらい呼んだところで、問題ないよね。うん。
「……分かったよ。改めて宜しくね、友里音ちゃん」
もし、この時に戻れるなら、ボクは何としてでもこの言葉を口に出させないように尽力するだろう。
そして、父上たちの言っていたことの意味を良く考えなおしたことだろう。
それをしなかったボクは、救いようの無いくらいに馬鹿だったと今なら言える。




