束の間の安息 *2
取り敢えずと湯飲みを傾けると、紫色の液体が口の中に流れ込んできた。微かな酸味と爽やかな後味に、これは甘いお菓子に合うなと思った。
ひーちゃんの言葉から薬草を使っているのもかと思っていたのに、この美味しさは何なのかと呟きかけて止めた。
そういえば、青汁だって昔より飲みやすい味になっているという話も聞くからね。必ずしも、「良薬は口に苦し」という訳では無いということかな。
脈絡の無いことをぼんやりと考えていると、視線を感じたので顔を上向ける。
「ユノくん、どうかしたのかい?」
「あ、なんでもないッス。ただユオリの考えていることを当ててみようかと思っただけッス」
「ボクを使って勝手な遊びを始めないで欲しいのだけど? ……それで、何か分かったのかな?」
思ったことをそのまま口にするとユノくんの表情が拗ねたものに変わったので、仕方なく付き合ってあげることにした。
途端に機嫌良さ気に細められる彼の目を見て、ボクの頭の中で小さな犬が元気に尻尾を振る様子が再生されたのは言うまでもない。
「いやー、全くッス!」
「それは、自信満々に言うことではないと思うわ」
輝かんばかりの笑顔でのたまったユノくんに、ひーちゃんから鋭い突込みがとんだ。
「……」
「ちょっと、ユオリも笑っていないで何か言いなさいよ」
「あれ、ばれた?」
「ええ、貴方が笑いを耐えていることは良く分かったわ」
「ふむ、今までボクのポーカーフェイスを見破った者は居なかったのだけど」
少し芝居がかった調子で言うと、二人は揃って吹き出した。
「いや、貴女結構分かりやすいわよ? ……今までユオリの近くに居た人は、鈍感な人たちばかりだったのかしら」
真顔で言うひーちゃんと頷いてみせるユノくんに思わず笑みがこぼれた。
「あ、でも、初めて会ったころより笑うようになったわね」
確かに、笑っても驚かれなくなるくらいには笑ってきたかもしれない。
初期は、表情が崩れただけで皆固まっていたし。
……本当に失礼な話だよね。
まあ、「あまりに笑わないから人形かと思った」とか言われなかっただけましだけども。あ、思い出しただけで腹が立ってきた。
あの子の姿が脳裏をチラついてボクは小さく溜息を吐いた。
いい加減に吹っ切れるべきだとは分かっているんだけどね。
色んな人に背中を押してもらった。
後はボクが動くだけだ。
「あの、さ」
ボクは、一歩踏み出すために口を開いた。
ボクの纏う空気が変わったことに気付いたからか、途端に真剣な表情になる二人をやっぱり好きだなと思った。
そんな大切な人たちだからこそ、話したいと思えたのだろう。いつもは大人数で騒ぐのに、今日この部屋に二人しかい来なかったのも運命なのかもしれない。
あまり大人数だと、きっとボクは竦んでしまっただろうから。
「二人にさ、ちょっと聞いて欲しい話があるんだ。……良いかな?」
「ええ」
「勿論ッスよ」
「ちょっとした昔話なんだけどね。……リューノくん、ヒナヤちゃん。キミたちに聞いて欲しい」
滅多に使わない渾名ではない名前に口の中がからからに乾いていくのを感じる。
だけど、不思議と不快感はなかった。
次話から過去編になります。
まったりした話の予定だったのですが、キャラクター達が勝手に動き出しました。




