送還
【我が身に宿りし魔力、彼の者たちを包みて護れ。……守護結界】
唱えると同時に、身体から魔力が無くなっていくのが感覚的に分かった。
……んー、想定していたより消耗が激しいね。最後までもつかな?
ボクはこの場に居る全員がもれなく結界で包まれていることを確認した後、自分の意識から必要最低限のもの以外の情報を切り離した。
そして、自分の魔力を練り上げていく。充分な魔力が用意出来たところで、純粋な魔力の塊を目の前に向かって投げつける。
硝子に罅が入ったような音と共に、目の前の映像が剥がれ落ちていく。その罅の向こう側から、強い風が吹いてくるのを感じた。
因みに、これは無理やり次元に穴を空けたことによって出来たブラックホールのようなものだ。ブラックホールに喩えられるだけあって、その引力もかなりのもの。
道案内無しに入れば、まず帰ってくることは不可能だろうね。
【召喚。……一ノ助、二ノ宮】
唱え終わると、両肩に微かな重みを感じた。
「ご主人~、やっと呼んでくれた」
「……あれ、お仕事中だ」
現れた二匹の河童のぬいぐるみは、素早く状況を理解するとボクの肩から飛び降りて二人の被召喚者の元に歩いていった。
……この二匹は、擬似生命体のようなものだ。実は、まだ何匹か仲間が居る。
これは、父上に誕生日プレゼントと称して毎年あげていたものだ。当時は、勿論ただのぬいぐるみだった。
でも、何故か、ボクの元に返ってきた時には、このように会話できるようになっていた。
しかも、ボクと河童仲間全員で魔力が繋がっているらしく、言葉を使わなくても勝手にして欲しいことを理解してくれるという無駄な高機能さも備えている。
……父上は、何を目指していたのだろうね。謎だよ、本当に。
「は?」
「……え?」
その時、伊波くんと東雲くんの間抜けな声が響いた。
伊波くんの胸には一ノ助が、東雲くんには二ノ宮が、それぞれ納まっていた。
「しっかり掴まっていて」
「離れたら最後、さようならだから」
二匹は、しっかりと注意事項を言うと黙り込んだ。
明らかに掴まるのはサイズ的に逆だけど、突っ込んだら負けだ。
二人は、ボクの方をちらりと見ると本当だと思ったのか、二匹をぎゅっと抱き込んだ。
……男子高校生とぬいぐるみというかなりシュールな映像だけど、それも突っ込んだら負けだ。うん。
【彼の者を媒介に在るべき場所に帰せ。……送還】
僕が唱える様子を確認すると、二匹は迷わず二人を次元の狭間に導いた。そして、そのまま飛び込むと、すぐにその姿を消した。
……あ、不味いかも。眩暈がしてきたよ。
魔力の減りから二人の居場所を追っていたボクは、限界が近いことを理解した。
何せ、彼らが安全に帰るためにかかる魔力は、全てボクが肩代わりしているのだから。
んー、やっぱり二人を一度に送るのは厳しかったかもしれない。
ボクは、とてつもなく長く感じられる時間意識を保ちきった。
魔力の流出が収まって二人が無事に着いたことを理解した瞬間、ボクは身体に物凄い負荷を感じた。
隊長、あまり怒らないと良いけど……。
ボクが、沈む意識の隅で思ったのはそんなことだった。
数日前に一話は投稿する予定だったのに、暑さを前に最近連敗していました。……すみません。




