神話の絵本 *2
旅に出た風の子は、植物の子の不調の原因を探して飛び続けました。
時には、自分より何倍も大きな木に阻まれたりもしました。途中で、涙の池の様子が可笑しいという話を聞きました。
道すがら、何度も危険な目にあいました。それも、池に近付く程に、そのようなことに遭遇する頻度が増していくのです。
それでも諦めなかった風の子は、とうとう涙の池にたどり着きました。
湖の大きさこそ変わりありませんでしたが、そこは以前見た時とは遠くかけ離れた状態でした。
張り巡らされた樹の根が、地面から姿を現していたのです。
風の子は、その根から沢山の感情が溢れ出してくるのを感じました。……哀しみ、嘆き、怒り。
風の子は、悟りました。これが、植物の子の不調の原因であると。
風の子は、樹の根に鋭い風の刃を放ちました。
いくつかの根を断ち切ることは出来ましたが、如何せん数が多過ぎます。空いた隙間はものの数秒で埋められてしまいました。
それでも、風の子は諦めませんでした。しかし、何度やっても結果は変わりません。
とうとう風の子は膝をつきました。力を使い果たしてしまったのか、体は随分と小さくなっています。
最期の力を振り絞ろうとした風の子の小さな体が傾きました。
風の子は自分の状態を悟り、衝撃に備えて目を閉じました。もうそれくらいしか、出来ることはありませんでした。
しかし、いくら待てどもその時は訪れませんでした。恐る恐る目を開いた風の子は、視界に映るものに無性に泣きたくなりました。
風の子が植物の子を連れ出すまでに出会った沢山の子たちが、心配そうな視線を向けていたのです。
そして何より風の子を驚かせたのは、自分の体を支えているのが不調で寝込んでいる筈の植物の子だったことです。
植物の子は体調こそ良くなさそうではあったものの、風の子の視線が絡むと大丈夫だと言うように笑顔で頷きました。
それを確認したのを最後に、風の子は限界を迎え深い眠りに落ちていきました。
植物の子は、目を閉じた風の子を優しく地面に降ろしました。
それから、植物の根に向き直りました。
植物の子は他の子たちに視線で合図をして一斉に攻撃を仕掛けました。
数の力もあり、根は急速に減っていきました。しかし、それと同時に植物の子の体にも傷が増えていくのです。
その様子を不安気な表情で見守りながらも、攻撃の手を弛めることはありませんでした。
ついに、池の周りの樹と根を切り離すことに成功しました。
その頃には、手伝ってくれた子たちも植物の子も満身創痍でした。
その時、根から切り離された樹部分が音も無く消えていきました。そして、根が離れ樹が無くなった地面は静かに上昇を始めました。
その様子を見ていた植物の子は、風の子を抱えなおして力無く移動すると池の畔で眠りに付きました。
それから長い年月が流れました。
空を旅する島は時たま噂に上る程度になり、地上に残った根から哀しみの生物が生まれ続け、そして、根を切り離すときに使われた力の欠片は――。
……『アーツ』と呼ばれ、悪しきものを祓う力として人々の世に残ったのです。
随分と更新が遅くなってしまいました。
漸く時間に余裕が出てきたので、徐々に更新ペースを戻して行きたいと思います。
次話から、主人公側に戻ります。




