癒織さん、マジックショーをする
……そういえば、魔術の存在は認められていないとかティーくんが言っていたよね。つまり、魔術だと分かるように使ってはいけないと。……激しく面倒だね。まあ、今更やりたくないと言ってもどうにもならないのだろうけど。
(【風転。吹き抜ける風、我と彼の者を繋ぎて声を届けろ。……伝心】)
ボクは、誰にも聞かれないように小声で唱えて魔術を発動させた。
因みに、この魔術は予想通りとは思うけど、普通に声に出さなくても会話が出来るようになるというものだ。
ボクは、噴水の方向に歩いて行っているユノくんの服の裾を掴んで引き止めた。
「なんスか? 往生際が悪いッスよ?」
ユノくん……。そのセリフ、完全に悪役だよ。
《ユノくん、聞こえているかな?》
「……!」
ボクは、何とか逸れかけた思考を正すと、ユノくんに声を掛けた。
ユノくんからの返事を待つまでもなく、跳ねた肩が何よりも雄弁に彼の驚きを表していた。ボクは、それには構わず更に続ける。
《声に出して反応しないでね。キミからしたら普通に会話している感じだろうけど、端から見たら変人だからね。君が気にしないというなら止めないけどさ。……で、ボクは、これから喋らない設定で魔術を披露するからユノくんが適当に間をつないでね》
「!?」
まあ、本当は喋らないことにあまり意味は無いのだけど。その方が不思議な雰囲気に呑まれてくれるかな、という浅はかな考えしかないし。
「……さあさあ、皆さんお立会い。これから、マジックショウを始めるッスよ! こちらの少女に注目ッス!!」
吹っ切れたのか、ユノくんは意外にノリノリで司会を始めた。
ユノくんの手がボクを示すタイミングに合わせて、ゆっくり過ぎるくらいの速度で丁寧にお辞儀をした。
「先ずは、火の玉を使ったジャグリングを披露するッスよ! 熱いから、近くにいる人は少し下がってご覧下さいッス!」
ボクは、詠唱破棄で【炎球】を発動させる。それと同時に魔力の量と質を調節して、様々な色になるようにしておく。
これは、花火と同じ原理で炎色反応を利用しているだけなんだけど、この世界の人から見ればきっと物珍しく映ることだろう。
ボクは一呼吸すると、宙に浮いた【炎球】に魔力で干渉して自分の方に引き寄せた。そして、迷うことなくそれを掴んで見せた。観客たちが息を呑む様子をはっきりと見ることが出来た。
因みに、手には、予め薄く魔力避けの結界を張っているので火傷の心配は無い。
……勿論、極薄だから観客には素手で炎に触れているように見えるのだけどね。
自分の魔力を用いているので簡単に操ることが出来る球をさも難しいことをやっているかのように見せる為、ボクは時々手を滑らせた振りをしたりと工夫して披露した。
《ユノくん、その辺の子供に何か好きなものを聞いて》
流石に慣れたのかユノくんは目線だけで「了解」を示すと、ボクを食い入る様に見詰め居ている純粋な少年に近付いた。
その間も、ボクはジャグリングを続けている。
「君の好きなものを教えて欲しいッス!」
「……ええとね、どうぶつがすき!」
「了解したッス! じゃあ、どうぶつを頭の中に思い浮かべるッスよ!」
「うん!!」
「3,2,1」
ボクは、魔力を全速力で操作していく。
「……0!」
ユノくんの声に合わせて、魔力を開放した。
途端に、空中をキャンバスとしてカラフルな動物たちの姿が描き出された。
リアリティを求めて動くように作ったせいか、無駄に魔力の減りが早い。
……まだ、全然余裕だけどね。
その後も、観客を巻き込んだ芸は続き、大盛り上がりの内に幕を閉じた。
……最後の方は、つい本気でやってしまった気がする。
まあ、楽しかったし、良しとしようかな。




