癒織さんの悲劇
「……さてと、ユノくんはどうしたい?」
「え? 一緒に観光に行くんじゃないんスか?」
「……え?」
当然そうだと思っていたという表情で言うユノくんに、ボクは驚いて返した。
……だって、こんなに天気が良いんだよ? さっきは、タイミングが悪くてお昼寝出来なかったけど、それを逃す手はないでしょう。
以上の事を熱意を込めて語りきると、ユノくんは呆れた表情でボクを見返してきた。
「……はーい、オイラたちも観光で決定ッス!」
「え? ちょ、待ってよ。……どうしてさ?」
「勿体ないからッスよ! こんなに天気が良いからこそ、活動するべきッス!!」
「……キミとは、理解し合うことが出来ないみたいだね。お休み」
ボクは、少しだけ寂しい気持ちでユノくんを一瞥すると、魔力をクッション代わりに敷いた地面で丸くなった。
うむ。やっぱり、お昼寝日和。
……。…………。
――ガタンッ
「……敵襲!?」
「……寝るの早すぎないッスか? というか、その「敵襲」って言いながら起きるの何とかならないんスか?」
どうやら、ユノくんがボクの枕に魔力で何かしらの妨害をしたらしい。
……何と小癪な。
「歩きたいなら歩いても良いッスけど、魔術の方が楽だと思うッスよ。……さあ、早く観念するッス!」
「……んー、ユノくん。キミは悪魔の子なの?」
ボクは暴言を吐きながらも、先ほどと同様に魔術の詠唱を行った。
【……転移】
【転移】は無事成功したようで、ボクたちは人通りの多い通りから少し離れた道に立っていた。
【転移】が発動しないことを期待していたボクは、お昼寝に対する未練たらたらで少しだけ面白くない気持ちだった。
「……っぷ」
そんなボクを見ていたユノくんが、突然噴出した。
「……どうしたのさ?」
ボクは怪訝に思いながら尋ねた。
「……最初は鉄面皮だと思っていたんスけど、まったくそんなこと無かったッスね。ユオリって、意外と気持ちが顔に出ているッス」
「……?」
ボクは、思わず手で自分の顔にぺたぺたと触れた。
やっぱりというかなんというか、自分ではそんなことは全くと言って良いほど分からない。
「んー、自覚無いんだけど……。まあ、今までそんなことを言われたこと無いし、少し嬉しいかも。有り難う」
「……どういたしましてッス。さて、稼ぎに行くッスよ!」
「……あ、そういえば」
ボクは、ユノくんの言葉を聞いて、島に着いたらしようと話していた事を思い出した。
「『アーツ』の御伽噺の本を買うのだったね。……すっかり忘れていたよ」
「しっかりして欲しいッス」
「……ことこれに関しては、返す言葉も御座いません」
ボクたちは、ユノくんの先導で人が多く集まる場所に来ていた。
ボクの視界の正面に大きな噴水があり、今もそこで数人の若者がダンスらしきものを披露している。
自分ならここで魔術を使って演出をするのに、などと現実逃避をしながらボクはユノくんの方を恐る恐る見た。
「……察しているとは思うッスけど、ステージはここッスよ。そして、芸の出来にあわせて観客からチップがもらえるんス」
そうだよね。簡単にお金を稼げる筈なんか無いし。……もう少し考えてから受けるべきだったかな? 少し、早まった選択をしたかも。
……そして何より心配なのが、ボクの見た目がコスプレに見えないかということだね。
今まで、全く気にしていないように見えていたかもしれないけど、好きでこの状態な訳ではないからね。
そもそも、人前に出るのもあまり得意ではないのに、誰かに囃し立てられでもしたら立ち直れない自信がある。
「次、行くッスよ」
「……え、リハーサルは?」
「そんなのあるわけないッス。ぶっつけ本番ッスよ!!」
前のグループが居なくなると同時に、ユノくんは問答無用でボクを噴水の前に引きずって行った。




