彼の国と魅了
なかなか上手く纏まらず遅くなりました。
説明が多めです。
声が聞こえた方向を見ると、そこには氷が溶けたあとと思われる少し暗い色の地面と、その真上に立ち尽くした東雲くんの姿があった。いつの間にか、人の姿に戻っているようだ。
「辰巳、無事か!? どっか、変なとことかねーか?」
「あ? 別に何ともないが。……って、司!? どうしてここに?」
まだ何処かぼーっとした表情を浮かべた東雲くんは、伊波くんを見て目を見開いた。
「……はあ?」
伊波くんは、心底理解出来ないという様子で返した。
ボクも、伊波くんから聞いていた話とは噛み合わない東雲くんに嫌な予感を感じずにはいられなかった。
「というか、ここどこ?」
「……」
「あ? ……いや、調査に来たのだったか」
……んー、混乱しているのかな?
「ファンデル王国の姫さんに頼まれたとか言ってなかったか? 俺は詳しく知らねぇが」
国名が出た時、ユノくんはあからさまに顔を顰めた。
……やっぱり、因縁があるのはその国で間違いないみたいだね。
親の敵を見るような表情でサンドイッチを食べるのは、少々いただけないけど。
「……そう、そうだよ。確かに、司とは別行動をしていたと」
「……どうなってんだ? まるで、昔のお前みたいじゃねぇ?」
……そういえば、「最近のあいつは、良く分からない」みたいなことを言っていたよね。つまり、今の東雲くんは、伊波くんが良く知っていた頃の東雲くんということになるのかな?
……ふむ。調べてみるかな。
【光転。清き光、彼の者を探りて悪しきものを祓え。……浄化】
「……成程、ね」
ボクは、魔術の結果を見て呟いた。
「どうしたんスか?」
漸く食べ終わったのか、ユノくんが会話に参加してきた。
……口の周りに赤いものが飛び散っているのだけど、ケチャップ……だよね? 一体どんな食べ方を?
さっきの様子を視認してから、さり気無く視線を逸らし続けていて正解だったみたいだね。恐ろしい宴(推定)を見る事にならなくて、本当に良かった。
……ではなくて。どうも、ユノくんと話していると、話が進まなくて困るね。
「東雲くんの様子がおかしい……、というか、正常に戻った訳が分かったのさ」
「どういうことだよ?」
伊波くんが、ボクの語尾にかぶる勢いで尋ねてきた。
「ええとね、さっきまでの東雲くんには、一つのバッドステータスが付与されていたんだよね。……魅了っていうのだけど、何か覚えは無いかな?」
僕が尋ねると、伊波くんは考えをまとめるために数秒間視線を虚空に向け、弾かれたようにボクの方を見た。
「めぼしいやつらが皆、向こうに行っちまったつうのは言っただろ? その時の皆の様子がおかしかったんだ。……なんつーか、突然言うことを聞き出した、みたいな」
「うん、絶対にその時だよ」
成程。敵は、予想以上に屑らしいね。
魅了というのは、基本的に先天的な力だ。それ故に、強力でもある。長い期間使うわけだから、当然とも言えるけど。
ボクの周りでは、母上が魅了持ちだったらしい。ボクにも、微かにではあるけど、受け継がれている可能性があるみたいで、父上からはその関連の話をいくつも聞いている。
曰く、他人を狂わせることも出来る。
強い魅了を持っているものが本気で力を行使すれば、命令に絶対の死すら厭わない最強の兵士だって作れてしまうから。
曰く、他人を信用出来なくなる。
精度が上がるほど自然に使えてしまうので、魅了による感情なのか否かを判断するのが非常に厄介であるから。
……母上は、父上との大恋愛の末に結婚しているので、これには当てはまらないけどね。
そして最後に、力の本質を理解していない者は決して行使してはならない。と。
制御出来ない力は、行使する者すら振り回して狂わせる諸刃の剣だから。
要するに、さっきあげられた様な無茶な使い方をしている時点で、力を理解していないのは勿論の事、資格も無く能力を使う違反者ということになる。……少なくとも、ボクにとっては。




