いざ、出陣
「……んー、夜明けだね」
ボクは、顔に光が当る感覚で目を覚ました。
辺りを見回すと、うつ伏せで死んだように眠っている伊波くんと同じく丸まっているユノくんの姿があった。
昨日は、そのまま寝てしまったみたいだね。その証拠に、ここはユノくんの部屋みたいだし。
……というか、ユノくんの寝方が小動物っぽいんだけど。
ボクは思わず、小さく笑ってしまった。
「っと、起こさないとだね」
ボクは、幸せそうな表情のユノくんの耳元に口を寄せると、迷わずに「幽霊……」と囁いた。
「……っぎゃあぁぁ!!」
「……なんだ! 何があった!?」
……絶対に起きるだろうという確信はあったけど、まさかこれ程とは。
取り敢えずユノくんを起こしてから、伊波くんを起こしてもらおうと思っていたのに、一度で片付いたね。……一石二鳥とは正にこのことだね。
「二人とも、起きたかい?」
「って、ユオリッスか。ひどいッスよ~! 脅かさないで欲しいッス……」
「もう夜明けだし、あまりのんびりする時間は無さそうだよ?」
「えっ!? マジかよ……。つーか、もう間に合わなくないか?」
慌てて外に飛び出そうとする伊波くんを押し留める。
「……今、慌てて飛び出したところで東雲くんのところまで行く策はあるのかい? 場所位なら、キミの『アーツ』で特定出来るのかもしれないけどさ」
「……わりぃ」
突然、萎らしくなられても反応に困るのだけど……。
というか、誰もボクがあまり早く起きなかったことについては指摘しないんだね。……早く出発しようと言っていたのに起きられなかったと負い目を感じているのかな?
「……今から出れば間に合うから、別に謝る必要は無いのだけど」
「そんなこと……」
「……あ! 魔術ッスね?」
二人の反応は、見事に分かれた。
「うん。ユノくん、正解。……ただ、場所を特定してもらわないと使い難いんだよね」
ボクは、伊波くんに意味有り気な視線を送りながら言った。
……少し、わざとらしかったかな? 正直ボクが魔術で探った方が簡単で早いのだけど、伊波くんは自分の能力に劣等感の様なものを抱いているみたいだったからね。
まあ、完全にお節介だし本人のやる気がないなら諦めるけどね。
「それぐらいなら、俺にも出来る! やらせてくれ」
「頼んだッス!」
伊波くんはボクたちに向かって頷くと、左手の指輪に触れた。
途端に、そこには半透明の板らしき物体が出現していた。
こちら側からは内容を伺う事は出来ないけど、伊波くんは悩む様子もなく流れるように操作をしていく。
その動作しか見たことがなければ何も思わないのかもしれないけど、ユノくんが『アーツ』を使う様子を見たことがあるボクは思わずにはいられなかった。
……あまりに非効率的ではないか、と。
隣のユノくんも同じような感想を抱いたようで、少し複雑そうな表情で伊波くんを見ていた。
「……教えてあげたい気持ちは山々なんスけどね。あれは、一朝一夕で覚えられるようなものではないんスよ」
「……」
それもそうか。ボクだって、久遠兄妹に教える時に何だかんだ言って結構時間を費やしたしね。……そんな簡単に扱える代物だったら、内容もその程度だろうしね。
「ここから、南西の方角に四キロ弱行った辺りにいる」
ボクの思考は、唐突に結果を告げた伊波くんの言葉で強制ストップをかけられた。
……しかし、時間がかかるだけあって、結構精密に分かるんだね。ボクは、てっきり「こっちの方でちょっと遠いくらい」みたいな大雑把な結果になると思っていたよ。
「さて、直ぐに行けるけど、忘れ物はない?」
「じゃあ、今のうちに『アーツ』を待機状態にしておくッス」
以前と同じように右耳に触れたユノくんは、迷うことなく魔石を飲み込んだ。
それを見ていたボクは、とあることを思い出して声を上げた。
「どうしたんスか?」
「……あのさ、ヨイくんが何処にいるか知らない?」
そう、あの夜ずっとボクの頭の上を陣取っていた存在を思い出したのだ。
「あー、ヨイなら、ヒナヤの頭の上でぐっすりッス」
……うん、ヨイくんらしいね。心配する必要は、無かったかもしれないね。
その光景は、容易に思い浮かべる事が出来た。
何ともいえない気持ちになったボクは、二人の顔を見て気持ちを切り換えた。
【風転。吹きぬける風、彼の者を包みて運べ】
ボクは二人に視線で合図を送ってから、最後の言葉を口にした。
【……転移】




