父上と約束
「今日は、楽しかったかな?」
「うん、とっても。……それにしても、父上はいつからこんなことを企画していたの?」
ボクは、隊長たちが帰って静かになった部屋の後片付けをしながら尋ねた。
「一ヶ月以上前から、準備はしていたよ。……もっとも、こんなに盛大にやる予定ではなかったがな」
父上は、小さく苦笑した。
隊長たちは、父上が酷いみたいなことをしょっちゅう言っているけど、そんなことは無いと思う。……なんだかんだ言っても、父上は皆のことを大事に思っていることは伝わってくるし。
「……さて、お前にプレゼントをやらなければな。お前に先を越されてしまったが、一応準備はしていたのだよ」
言いながら、父上はポケットから小さな箱を取り出した。
小さいとはいっても、明らかにポケットに入る大きさじゃないことなんて、突っ込まないからね!
「誕生日おめでとう、癒織。……お前に出会えたことに感謝を」
変な対抗意識を燃やしているボクをよそに、父上はプレゼントを手渡した。
「開けても良い?」
「勿論だよ」
父上の笑顔に促されるように、ボクはリボンに手をかけた。
「これは?」
中から出てきたのは、不思議な色合いの桜だった。
大きな桜があって、その下の方には二本の細いガラスのような物がくっついている。
「……これは、髪飾りだ。桜の方は魔石だがな」
「もしかして……」
「そうだ。以前欲しがっていただろう?」
ボクは、父上が魔石を加工するのを見る度に、何かボクのために作って欲しいと言っていた事を思い出した。
「覚えていてくれたんだ! ……有り難う、父上」
ボクは、早速貰った髪飾りを頭の左側につけた。
少し頭を動かすと、ガラスらしき部分同士がぶつかって軽やかな音を奏でた。
「ああ、それは音が鳴るように魔術をかけてあるだけだから、激しく動いても壊れることは無い。……組織で本格的に活動していくならその方が良いと思ってな」
思い出したように付け加えた父上は、優しげな表情を浮かべた。
「……さてと、ここからが大切な話だ」
「……何?」
突然表情を真剣なものにした父上に、ボクも気持ちを切り換えて尋ねた。
「お前が来る前に聞いたんだが、仕事中に翼が出てしまったそうだな」
「あ、うん。……少し、しくじっちゃって」
ボクは、ばつが悪い表情で言った。
……数日前に、へまをしてしまって、隊長たちを危険な目にあわせてしまったからさ。
「別に、責めている訳ではないが、気をつけて欲しい」
「分かっているし、次は失敗しない」
「……ところで、アレは使っていないな?」
父上は、何もかもを見通すような表情でボクを見た。
きっとどんな人でも、今の父上に嘘を吐いて欺き通す事は出来ないだろうと思わせるに充分な迫力だった。
「当たり前だよ! ……約束、だからさ」
「なら、良いんだが……」
「良くは分からないけど、アレを使ったらもう二度と皆と会えなくなるんでしょう? ……ボクは、そんなのはご免だもんね」
「その通りだ。……アレは強力な代わりに、お前の存在を世界に証明してしまうことになる。そうなれば、やつらは放っておかないだろう」
遠くを見るような父上の眼差しには、他の者を無条件に緊張させる力があるらしい。
ボクは、背筋が伸びるような思いで黙って父上を見詰めた。
「……例え別の世界に居ても使ってはならない、絶対にだ。……儂には、何が起こるかも分からないし、助けてやることも出来んだろうからな」
「うん、分かっているって。絶対に使わない。……約束する」
この話をする時、父上は何を恐れているのか、約束をするまで絶対に引こうとしない。
今までも、何度も約束させられたし、使うわけ無いんだけどなぁ。……そんなに、信用が無いのかな。
ボクは、密かに落ち込みながら、父上を安心させるために目を見てしっかりと頷いた。




