父上の誕生日 *6
今日は、ぬいぐるみが完成してから五日――つまり、隊長にお薦めされた日。
ボクは、掌に乗るサイズのラッピングされた箱を持って、我が家の扉の前に立ち尽くしていた。
時間があったから河童の方は綺麗に箱詰めすることが出来たのは良かったのだけど、それと同時に時間が経てば経つほど本当にこんな出来で良いのかという思いが湧き上がってきてしまったんだ。
今日は、一度組織の方に行って隊長にも最終チェックをしてもらっているから、後は渡すだけなんだけどさ……。
「……ここで燻っていても仕方がないし。行くか……」
ボクは締まりの無い口調で呟くと、漸くその扉に手をかけた。
明らかにボクの気持ちが原因だとは思うけど、家の中はいつもより広くて閑散としている印象を受けた。
だけど、静か過ぎることを嫌うボクのために、柔らかい日差しを彷彿とさせるような音楽が流れているのを確認して、漸くここが住みなれた家だという認識に至った。
因みに、ボクが考え事をする時に独り言を言うのも同じ理由で、無音の空間に居たくないという思いがあるからだ。
……さっき、いつもより広く感じたのは、大抵の場合ボクは父上の部屋に真っ直ぐに向かうから、周りの様子を今まであまり良く見ていなかったからかもしれない。
そんなどうでも良いことを黙々と考えながら歩いていると、父上の部屋までは直ぐに着いてしまった。
「……ここで、さっきと同じように時間をかけるのは馬鹿だ。……良し、短期決着!」
半ば叫ぶようにして扉を開けたのだけど、予想に反して部屋の中に父上の姿は無かった。
ボクは肩透かしを食らったような気持ちになりながら、他に父上が居る可能性があるところを頭の中で考えてみた。
「……居間とか?」
取り合えず、思いついた場所を確認してみようと、ボクは階段を駆け下りた。
因みに、この家は二階建ての一軒家で、外から見ると少し豪華なお屋敷と言う感じ。
父上の書斎は階段を上がって直ぐの所にあって、更に奥に進とボクの部屋がある。普通の生活スペースは一階に設けてあり、無駄に広い造りになっているから、人を呼ぼうと思えば可能ではある。
……現在向かっている居間は、大きな丸いテーブルが置いてある部屋で、父上がのんびりとしたい時に訪れることが多い所。
書斎は、仕事の時にしか使わないようにしているんだってさ。……気持ちの切り替えがどうとか、以前言っていた気がする。
居間に着くと、何やら騒がしい事に気が付いた。
耳を澄ませば、父上以外にも聞き覚えのある声がちらほらと聞こえてくる。
「……父上?」
ボクの声を聞いた父上は、慌てた様子で姿を現した。
「お、おお。もう、帰って来ていたのか。……直ぐに不届き者どもを追い出すからな、少し待て」
「……不届き者とはどういう了見だ、じいさん?」
父上のジョークに、隊長たちは、まるで本気の様な声色で言い返した。
隊長って、その時の気分によって父上の呼び方が変わるみたいなんだ。
「ところで、隊長たちは、どうして居るのさ?」
「……誕生日は、周りに居る皆で祝うもの、なんだろう?」
「じゃあ、父上のお祝いに来てくれたんだね!」
漸く合点がいったと、ボクは弾んだ声で言った。
だけど、それに対する隊長の反応は、予想とはかけ離れたものだった。
「は? どうして、俺がじいさんの誕生日を祝わなければならないんだ?」
姿こそ壁に阻まれて見えないけど、隊長が今どんな表情をしているのかは容易に想像がついた。
「じゃあ、どうしてなの?」
「少しだけ待ってくれ、直ぐに分かるから。……ったく、使えないな、じいさん。自分の役割くらい果たせよ」
最後の方は何を言っているのか聞き取れなかったけど、何やら愚痴を言っているらしいということは伝わってきた。
何やら慌しい足音が響いていたけど、暫くするとそれは収まった。
「……入って来て良いぞ」
声に誘われて、ボクは部屋に一歩踏み出した。




