父上の誕生日 *3
ボクは、河童をモチーフにするに至った経緯を軽く説明した。
最初は、人外全般から条件に合うものを考えた。
その結果、伝承といえば、妖怪が良いのではないかという考えに至り、最終的に家に緑系統の色の布が在ったことを思い出してフィニッシュ。
「……はあ、変わっているな。まあ、止めはしないが」
若干呆れたような口調ではあったけど、お許しが出た。
ボクは、隊長にお礼を言ってから、作業部屋に向かった。
作業部屋というのは、新しい魔術の開発・研究を行うための場所で、個人個人に用意されている。
当然、防音機能もあるから、他人に迷惑をかける心配も無ければ、その逆も無い。
……つまり、何か秘密にしておきたい事がある時に、利用する人が多い。
そして、暗黙の了解として、何処で誰に会ったかなどは話してはいけない事になっているから、今回のようなケースには都合が良いんだ。
「取り敢えずは、作り方でも読むべきか」
ボクは、隊長に貰ったセットを目線に合わせて掲げてみた。
隊長は、型紙を買ったと言っていたのに、他の材料に加えテキストも何故だか用意してくれたんだ。
その辺りに居た組織の人から貰ったとか言っていたけど、真実は分からない。
……まあ、折角だから有り難く使わせてもらうけどさ。
「ふー、読み終わった。……本当に、こんな物をボクに作れるのだろうか?」
縫い方から、結構危うい気がするし……。
まあ、やるって決めたからには、頑張るしか無いんだけど。
「……んー」
先ずは、軽くデザインのイラストを描いてみようと思ったのだけど、これがなかなかに難しい。
ゴミ箱の中には、既に丸めた紙が大量に入っている。
言うまでもなく、デザインの失敗作。
……どう描いても、残念な落書き感が拭えないというのは、一体どういうことなのさ?
「癒織、少し良いか?」
ボクが紙を前に唸っていると、扉を叩く音と共に声が聞こえてきた。
因みに、外からの音は、魔術で部屋の設定を変えれば、必要な物だけを拾うことも出来る。ボクは、部屋の扉をノックした者の声を伝えるようにしている。
「隊長、何ー?」
ボクは扉を開けて、部屋に隊長を招き入れた。
既に、隊長は事情を知っているから、ボクの中では共犯者の様な認識になっている。
「調子はどうかと思って来たんだが……。やはり、まだ、デザインも終わっていないか」
ボクは、隊長が絵を覗き込んでいることに気付いて急いで隠そうとした。
しかし、急ぎ過ぎたあまり、絵を描いた紙はくしゃくしゃになってしまった。
「あー、ええと、これは……。そう、落書きなんだ! だから……」
ボクがしどろもどろに言い訳をする様子を眺めた隊長は、くすりと笑うと頭を撫でてくれた。
「そうかそうか、なら、完成品は何処にあるんだ? 確認してあげよう」
言葉とは裏腹に隊長の表情はにやにやとしていて、明らかにこの状況を楽しんでいる事が伝わってくる。
「デザインで躓いていると思って河童の資料を持ってきてやったんだが、これは要らないな? ……予想より、癒織が優秀だったみたいだしな」
隊長は追い打ちを掛けると、楽しそうな表情を隠しもしないで、ボクをじっと見つめた。
「……うー、ボクの負け。資料ちょうだい」
ボクは、早々に勝負を下りることにした。
長引けば長引くだけ、隊長を楽しませるだけだし。……うん、考えただけで癪に障る。
「もう少し、粘ってくれても良かったんだけどな。……とにかく、嘘は止めておいた方が良い。今回は小さなことだったが、そういう癖が付いてしまうと信頼が無くなるからな」
「……はーい。信頼を失うのは一瞬、だったっけ? 肝に命じておきますー」
「よろしい。……全く、何処でそんな言葉を覚えてくるのか」
隊長はボクの子供らしさに欠ける部分にぼやきながら、今度は優しい笑顔で頭を撫でてくれた。




