父上の誕生日 *2
「何か、庵さんのことをで、気になることはないか? ……例えば、健康面とか」
「うーん、隈?」
ボクが、父上の顔を思い浮かべて、最初に閃いたのは、目の下にある隈だった。
前は、そんなことはなかったのに、最近寝不足ぎみのような気がする。
「それだ! 良いものがあるじゃないか」
「えー? ……睡眠の魔術とか?」
ボクが思いついたことをそのまま口に出すと、隊長は苦笑して首を振った。
「流石に、魔術で解決してしまうのは良くないと思うな。……本当に自分の力でどうにも出来ないならまだしも、折角のプレゼントなんだし、癒織が一生懸命作ってあげた方が庵さんも喜んでくれるんじゃないか?」
「成る程。……で、隊長が思い付いたものって何? 魔術ではないんでしょう?」
ボクは、隊長の言葉を心のメモ帳に書き込むと、彼を見上げて首を傾げた。
「それはな……」
「無駄に勿体ぶらなくて良いからね?」
「……抱き枕だ」
少しいじけた様子の隊長は、ぶっきらぼうに言った。
「抱き枕? ボクに、そんな物が作れると思う?」
ボクは、不安になって尋ねた。
自慢ではないけど、ボクは少し不器用だ。
料理は大抵駄目だし、植物だってワイルドストローベリーを枯らした実績がある。
「いや、抱き枕というよりは、ぬいぐるみをイメージしてもらった方が良いかもしれない」
「ぬいぐるみで、安眠出来るの?」
「正直なところはなんとも言えないが、癒織がそこまで自分の事を見ていて気遣ってくれたという事実があれば充分だろう。精々、リラックス効果のある香りでもつけておけばいいだろう」
「ふーん、そういうものか。何か、父上も似たようなことを言っていたよ」
「なら、決まりだな。少し、ここで待っていてくれ」
そう言い残して、隊長は駆け足で何処かへ行ってしまった。
「待て」を言い渡されたボクは、取り敢えず、ぬいぐるみのデザインを考えてみることにした。
「確か、父上は、人外の生き物の伝承とかが好きだったような気がするし……」
どうせなら、可愛らしくて癒されるようなデザインが良いから……。
ボクは、暫しの間、思考の世界の住人になった。
「……待たせたなっ!」
「あれ? 隊長、早かったね」
「いや、十五分くらいは経っているが?」
「……ん?」
ボクは、隊長を疑って腕時計を確認してみた。
「ほらな。もう少し、信頼してくれても良いと思うんだが」
「……信用されるような行いをしてから言おうか、そういうことはさ?」
隊長は、しばしばボクをからかって遊ぶから、そういう系統の信頼はもう既にマイナスに突入している。
勿論、本当に大切なことは嘘を吐かないから、最低限の信頼はあるけど。
「……何も言い返せない。お主、なかなかやるな」
「キャラクター崩壊しているけど? ……じゃなくて、何をしてきたのさ?」
「そうだった。……最近ぬいぐるみの型紙を買ったから、あげようかと思ってな」
「それを使えば、ボクでも作れるの?」
「多分な。もし、難し過ぎたら協力してやるから」
また、隊長は頭を撫でてくれた。
こういうところが、隊長がモテる理由なんだろうね。うん、組織でも隊長は人気なんだ。
何か女の人たちが、「ゆうりょうぶっけん」だって言っていたから。
因みに、漢字と意味を聞いたら、「知らなくていいことだよ」と流されて教えてもらえなかった。取り敢えず、多分、褒め言葉ではあると思う。
「それで、何をモチーフにするか決めたか?」
「うん、ばっちり。さっき考えたんだ。……河童にしようと思う!」
「ん? 理由を聞いても良いか?」
隊長は、きっと、兎や猫を考えていたのだろう。不思議そうな表情で尋ねてきた様子が、隊長の困惑を何よりも明確に表していた。




