お仕事、終了
「では、早速。……久遠くんは、どうしてボクを保健室に運んでくれたのかな?」
「? 何故と言われましても。……倒れたら、運びませんか。普通」
「久遠くんは、さっきまでボクと会話していたから忘れているかもしれないけど、最初にボクに接触しようとした時に嫌な感じがしたと思うんだよね」
「……? 特には」
「本当に? ボクは大量の魔力のせいで、魔力が少ない人からは避けられる体質なんだ。第六感というやつだろうね。関わってはいけないと本能的に思うんじゃない?」
ボクの場合一般人よりかなり魔力が多いから、「魔力が少ない人」イコール「ほとんどの人」になるわけだけど。
「……で、もう一度聞くけど、本当に何も感じなかった?」
別に聞いておかなくても良いのだけど、気になるからね。ボクの自己満足みたいなものだ。
久遠くんは眉間に皺をよせて、思い出そうとしているようだ。
「……ええと、ですね。恐らく、多少不気味だと感じたと思います。ですが、やはり運んだ理由は先ほどの通りです。無敵がうろうろするだけで、役に立たなかったので。……あれ、無敵はどうなんですか? 彼も普通に話し掛けていたような気がしますが」
「あ、うん。無敵くんは、無防備で自己管理がなってないから、ボクのことも気にならないんだと思うよ」
かなり酷いことを言っている自覚はあるが、どうも無敵くんのことを好きになれない。
何だか、昔のボクを見ているみたいで気分が良くないんだよね。
……ボクは、彼のように騒がしいタイプだったわけではないけど、自己管理が出来ていなかったという面では同じようなものだからね。
……ある意味、同族嫌悪みたいなところもあるのかもしれない。
「……だからこそ、ボクは彼が近いうちに何かをやらかすと思ったわけなんだけど」
久遠くんが納得したような表情で頷いている。うん、彼とは仲良く出来そうだ。
「ええと、星砂と会話をした人の印象が変わるのでしたら、もっと積極的に行動しても良さそうな気もしますが……?」
うーん、やっぱり鋭いな。
「……ええとね、会話をしたからといって皆の印象が変わるわけではないんだ。他のものに流されない確固たる自我を持つ人は普通に接してくれるんだけど、逆の人は印象が悪化するからね。挙句にボクに脅されたとか被害妄想に走るから、面倒になっちゃって」
まあ、それでも昔は、普通に会話が出来る友達が欲しくてクラスの全員と話すなどの努力はしていたのだけど、仕事が忙しくなっていつの間にか止めてしまった。
微妙な表情になった久遠くん。
「……すみません。無神経な質問でした。……星砂が努力していない筈がないですよね」
久遠くんは、しょぼーんと形容出来そうな表情になってしまった。
「いやいや、気にしなくて良いよ。……本当に、ボクが面倒になっただけだしね」
「……そうですか。……ええと、先ほどの質問に戻りますが、僕には中一の妹がいるんです。その妹は体が弱いので、無意識に星砂と重ねていたのかもしれません。無敵は使えないですし、大事になってはいけないと……」
「……なるほどね。うん、納得。あ、因みに妹さんの体が弱いというのは、どんな感じ? ……もしかしたら、多少力になれるかもしれないからさ」
「……そうですね。ここ数年は、ほとんど家から出ていないです」
久遠くんは、少し考えてから口を開いた。
「たまに倒れるのですが、そのまま数日目を覚まさないこともあります。しかも、最近は倒れる頻度が増えていて、起きるまでの時間が長くなっているような気がします」
……これは、もしかして。
「うーん、気のせいだと良いんだけど……。その症状、心当たりがあるかも」
久遠くんは驚きつつも、少しだけ期待を覗かせた表情になった。
「……本当ですか!?」
もしそれなら、解決するのは簡単だけど、ボクの仕事が増えそうだな……。
「ええとね。妹さんの体のどこかに変な色の痣があったら確定だね。もしあったら、ボクに教えて。妹さんを助けてあげられるから」
「分かりました」
神妙そうな表情で、久遠くんは頷いた。
「さてと。では、そろそろ帰ろうか。送るよ」
「いえ、そこまでしてもらわなくても……」
遠慮する久遠くん。
彼の性格的に断るとは思ったけどね。ここまで関わらせたら、最後まで責任を持たないとね。
「ボクは、この仕事に誇りを持っているから、邪魔されるのも責任持たない人も嫌いなんだ。……ボクをボクが嫌いな人種にしないためだと思って、ね? まあ、魔術で一瞬だからさ」
「……では、お言葉に甘えさせていただきます」
少しずるい言い方だったかな?
久遠くんは、渋々という様子で了承してくれた。
【風転。吹き抜ける風、彼の者を包みて運べ。……転移】
久遠くんが、薄緑の球体に包まれて消えたのを確認してボクは帰路についた。
……何だか、面倒なことになりそうだと思いながら。
家に着いた後、組織の中でも事務処理を担当している人に異常はなかったか聞いてみたところ、体育館からバスケットボールが一つ無くなっていることが分かった。
翌日、登校するといつもとは違い、久遠くんが近付いてきた。
「おはようございます。……星砂、話したい事があるのですが、放課後に時間はありますか?」
久遠くんが、前半は普通に、後半はボクにだけ聞こえる声で尋ねてきた。
「了解だよ」
周りの生徒達が驚いたようにこちらを見ているのを感じながら、ボクは軽く返答した。
まだ突き刺さる視線を無視して、ボクはひらひらと手を振って席についた。
運が良いことに、無敵くんはまだ学校に来ていなかったらしい。
もし居たら、久遠くんのことを色々と聞かれたに違いない。
次から数話は、久遠くん目線の話の予定です。