絵の設置
……タイトル、酷いですね。
今回は、魔術の説明が多いです。
あの後、クレくんは新しい絵を描くと言っていたので、ボクは自分の部屋に戻っていた。
「さて、何処に飾ろうかな……?」
ボクは、部屋の中を見回しながら呟いた。壁は、どの方向も殆ど空いていて、スペースだけなら申し分ない。
唯一物があるのは扉の少し上で、ドリームキャッチャーのような飾りだけだった。蜘蛛の巣のように張り巡らされた糸と、何かの生物の羽根。……と糸の中央に目玉。
あれ? ドリームキャッチャーって、悪夢を防ぐための御守りの様な物ではなかったっけ?
確か、悪い夢は糸に引っ掛かって、良い夢は粗い編み目をすり抜ける……みたいな感じで。
……これ、寧ろ悪夢を招きそうではないかな!?
まあ、本物ではないのだろうけどさ。ボクの知っている物は、目玉なんて付いていなかった筈だし。
「とりあえず、この方向だけは止めよう」
……何だか、呪われそうだよね。
ボクは、こっちを見つめる光の無い目玉から、無理やり目を逸らした。
「……良し、ここにしよう」
ボクは、壁のあちこちに絵をあててみて、一番しっくりきた入り口から向かって左の壁に飾ることにした。
そっちの方向には机もあるから、作業する時に良い具合に視界に入ると思うんだよね。
「……と、飾る前に、しなければいけない事があったね」
自分の視界に絵の全貌が見えるように持ち直してから、ボクは深呼吸をした。
【炎転。燃え盛る炎、この絵に宿りて害となるものより護れ。……炎の契り】
唱えると、一瞬だけ絵全体が薄っすらと赤に染まった。
これは、本来は反撃機能のある防御系の魔術で、危険な場所に乗り込む時などに利用されるべきものだったりするんだよね。
術者にとって害があるかどうかで判断するから、敵は勿論、害意を持った者であれば味方でも攻撃してくれるし、例えばアレルギーとかその人限定の弱点でも護ってくれて凄く高性能なんだ。
……まあ、その辺りは術者の技量によるから、本当にシンプルな使い方しか出来ない人も居るけどね。因みに今回は、湿気も「敵」として認識されるように設定しておいたから、ふやけて絵が駄目になる心配もない。
【魔転。我が魔力とこの絵を同調せよ。……魔力合成】
途端に、意識を向ければではあるけど、ボクには絵の状態が体の一部の様に分かるようになった。
これも、勿論と言うべきか、本来の使い方とは少し違う。
今回の魔術は、物を持ち込めないような場所などで必要になるものをあらかじめ取り込んでおくというものだ。
……予想が出来たかもしれないけど、これは「禁術」一歩手前みたいなグレーな魔術なんだよね。違法ではないけど、合法ではない。言うならば、「ノット・ギルティ」な感じ。
まあ、これを使えば暗殺とか結構簡単にできてしまうからね。
完全に習得している人なら、自分の魔力と同一の存在と言えるところまで同調できてしまい、下手な結界では防ぐことが出来ない。
以前、この魔術を使った事件が起こったことがあって、それ以降は「師」となる人物が見極めて大丈夫だと判断した人にのみ継承している。
だけど、肝心の事件の主犯格は行方知れずなので、そこから資格のない者たちにも情報や技術が広まってしまっていると考えられているのだとか。
とは言うものの、ボクが今回使ったのはそういう系統の危険な目的ではなくて、ただ単に不測の事態があった時に絵とお別れする心配がないようにするためなのだけど。
貰った絵を無くしてしまったりしたら、申し訳が立たないからね。
潰そうとしていたくらいだから、クレくんは気にしないような気もするけど。……まあ、そのあたりは個人の気持ちの問題だよね。
「……今度こそ、問題無い筈」
ボクは、もう一度絵をじっくりと視て不備が無い事を確認してから、壁に貼り付けた。
「……うーん、額縁が欲しいかな」
ボクは、今更ながらに、キャンパスがそのままだったことに気付いた。