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魔術師の異世界召喚  作者: かっぱまき
海上にて①
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クレくんの絵


「そういえば、今日も曇りなんだね……」


 ボクは、空を見上げて呟いた。

 その時、向こうから軽快な足音が聞こえてきた。


「あ、フワくん。お早う」

「おはよっ! ……昨日のやつはだいじょうぶだったんだな!」

「あ、うん。ユノくんのほうが大変そうだったよ……」

「なさけないなぁ。おれなら、簡単にいちばん下までいけるぞ!」


 少しどや顔で言うフワ君に、ボクは内心で笑みを浮かべた。


「そうかい。では、今度一緒に行こうよ? ……ボクが全力で仕掛けを用意しておくからさ」

「うえ!? ……い、いや、いいよ。じゅ、じゅんびも大変だろうからな!」

「……ふーん、残念」


 本当に残念に思っているような声音で言うと、フワ君は分かりやすくぎょっとした表情になった。


 実は、短時間ならだけど、ボクは演技をするのが好きだったりするんだよね。大抵の場合、ボクが演技をすると冗談だと取ってもらえないから、反応が面白くてね。


「……冗談だよ。ところで、今日もクレくんは絵を描いているのかな?」

「たぶんね」

「見学に行きたいのだけど、邪魔だって追い出されたりするのかな……?」

「んー、いや。気付いてもらえないかもしれないけど、怒られることは無いと思う。……今から行くのか?」

「うん、暇だからね。フワ君も行くかい?」

「いや、やめとく。べつに、面白いこともないし」


 ボクは、フワ君に別れを告げて、自室の方向に歩いていった。



「一応、ノックはするべきかな」


 ボクは一度自室に寄ってから、クレくんの部屋に来ていた。

向かいの部屋だから、迷うことはなかった。


「お邪魔しまーす」


 ボクは扉を軽く二回叩いた。


「……やっぱり、反応はないか」


 でも、中から物音がしているから、不在という心配はなさそうだね。皆が言うように、絵を描いていると見て間違いないかな。

 

 小さく苦笑して、ボクは部屋の中に入った。

 部屋は、以前来た時には感じなかった絵の具の匂いが充満していた。

 中央には大きいキャンバスと、椅子に腰掛けたクレくんの後姿があった。


「……」


 もう少し部屋の中央に近づいてみると、眉間に皺の寄った難しそうな表情のクレくんが確認できた。

 そこまで悩みながら描く絵に興味を持ったボクは、キャンバスの方に視線をずらした。


「あ、これは、リーダーさんたちかな」


 そこに描かれていたのは、今では少し懐かしさを感じる水色生物たちだった。


 多分、ケーキを食べていた時の様子かな? どの子も笑顔で見ている人が幸せになれるような絵だね。


「……いや、違うな。こんなものが描きたかったわけじゃない」


 突然小さく呟いたクレくんは、あろうことか折角描いた絵に白の絵の具をつけようとしていた。

 明らかに絵に描き足すことを目的としていないだろう量に、ボクは以前見たキャンバスの様子を思い出した。


 何度も塗り潰されたかのように、でこぼことしていて……。


 そこまで考えたところで、ボクは慌てて声を上げた。


「ちょっと、待って。クレくん」

「ん、ああ。来ていたのか。まったく気付かないとはな。……作業を終えてしまうから、少し待ってくれないか?」

「いやいや、だから、それを待ってと言っているのだけど?」


 僕の言葉に、クレくんはきょとんとした表情になった。


「何故?」

「折角上手く描けているのに……。ボクは、勿体無いと思うのだけど」

「だったら、あげようか? 俺が持っていても仕方がないからな」


 捨てられる位なら、とボクはほぼ反射的に手渡された絵を受け取っていた。


 うーん、部屋に飾る場所あったかな?


「あ、ええと。他にはどんな絵を描いているのかな? ……もしかして、全て潰してしまっていたりする?」

「いや、何か引っかかるものがあるやつは残してあるな。最近のだったら、ヨイを描いたやつがあるはずだ」


 そう言いながら、クレくんは引き出しの中をあさり始めた。


「あー、あった。これだ」


 クレくんがボクに見せてくれたのは、誰かの頭の上で幸せそうな笑みを浮かべているヨイくんの絵だった。


 あれ? これ、ボクの頭ではないかな? ……というか、昨日の肝試しの時の絵である気がして仕方がないのですけど?


「……クレくん、これを描いたのは?」

「ああ、昨日だな」


 やっぱり……。


「もしかして、ついて来ていたのかい?」

「いや、ちょっと『アーツ』でな」

「あ、そういうことね。……そういえば、さっき描きたい絵がどうとか言っていたけど、どういうことなのか聞いても良いかな? ついでに、どうして曇りの日に絵を描くのかも」

「別に構わないが、何一つ面白いことなんてないぞ?」


 苦笑のような表情で念を押してから、クレくんは口を開いた。

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