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魔術師の異世界召喚  作者: かっぱまき
海上にて①
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癒織さんの出張、魔術教室(久遠 氷雨)


「時雨。星砂から預かり物があるので確認しますが、一緒に来ますか?」

「はいなのです。……そういえば、誰も星砂さんのことを言わなかったですね、どうしてなのです?」

「……そうですね。状況把握が出来ていなくて、他人を気にする余裕が無かったのでは?」


 自分で言ってから、あの状況で他人(無敵ですが)を気にすることが出来た星砂の凄さを実感しました。……多少知識があったとしても、あれだけ早く状況を理解し被害を最低限に抑えるなど普通では不可能ですよね。……星砂は、どのような生活を送っていたのでしょうか?


「ひさ兄。眼鏡、どうしたですか?」

「え? ああ、不愉快なものを見ないためと、見られないためにしまいました」


 考え事をしていたので、反応が遅れた上に毒を吐いてしまいました。


「そうなのです? でも、私は、眼鏡がないひさ兄も好きですよ?」

「……ありがとうございます?」


 そういえば、時雨は僕が眼鏡を外していると喜ぶんですよね。

 以前、姉妹みたいで楽しいと言っていました。……時雨が喜ぶのは嬉しいのですが、兄としては少し複雑ですよね。


「ね、君。久遠君、的な?」

「はい?」


 突然の呼びかけに顔を上げると、そこには隈の目立つ男子生徒が一人で立っていました。


「そうですが。……何か用ですか、藍澤?」

「眼鏡が無いから、本人か確認、的な感じ」

「……そうですか」

「……」


 何だか、会話が続かない喋り方ですね。


「……そういえば、相棒はどうしたの?」

「相棒? ……ああ、星砂のことですか?」

「そう」


 相棒と呼ばれるほど、共に行動した覚えは無いのですが。

 ……いえ、藍澤が僕達を認識したのが新入生歓迎会なら、相棒と取られても仕方がないような気がしてきました。


「無敵のせいで、ここには来る事が出来ていませんね」

「無敵、誰的な?」

「召喚前に、星砂の名前を呼んだ人です」


 無駄に目立つので、無敵でぴんと来ない人というのは珍しいですね。


「ああ、あの愚か者な感じ?」

「え、ええ」


 どうやら、認識はされていたみたいですね。嫌われているようですが。

 ……いきなり、声色が冷たくなったので、少しどきりとしましたよ。


「こちらは、妹さん、的な?」

「ええ」

「久遠 時雨です。……藍澤さんは、ひさ兄のお友達です?」

「話したのは、今回が初めて、的な感じ。……藍澤 恵、よろしく」

「そうですね。藍澤、貴方は一人で行動しているのですか?」

「いや。君と話すって、待ってもらってる、的な感じ」

「おーい、メグ! そろそろ部屋に行こうぜ。二人もやりたいことがあるだろうしさ」


 噂をすれば……、というやつですね。

 短めの髪の快活そうな印象を受ける少年が、藍澤の肩を叩きました。猫背で分かりにくいとはいえ長身の藍澤の肩を軽々と叩ける彼も同じように、いえ、それ以上の長身です。

 二人が並ぶと、威圧感が物凄いですね。


「ごめんな。俺は、こいつのダチの長谷部はせべ 霧真きりまな。よろしく」

「キリ君。彼、久遠君、的な」

「えっ! マジで? ……久遠って、こんなだったっけ?」

「僕、そんなに有名でした?」


 仰け反る様にして大げさに驚く長谷部に、僕は思わず尋ねました。


「いや、別に無敵ほどは有名じゃないんだが、俺は弓道部のダチがいて。そいつ伝にな。俺とも、何度か直接会ったこともあると思うぜ」

「そうでしたか……」

「ああ、邪魔して悪かったな。行くぞ、メグ」

「……またね、的な」

「ええ、また」

「また、お話ししましょうです!」


 僕達は、手を振りながら去っていく二人を見送ると、時雨と部屋に向かいました。

 部屋は個室で与えられているので、取りあえず、僕の部屋にしました。しかし、一クラス四十人ほどと考えても八クラス。……つまり、三百人くらい居るのですが、全員分部屋が用意出来るということに驚きを隠せません。

 僕の記憶が正しければですが、別学年の人は居ませんが、一学年は殆ど居るように感じます。

 正確には、召喚されるより前に、家に帰った人も居るでしょうし、もう少し少ないかもしれませんが二百は下らないと思います。


 この船は、何の為にこれほど大きく造られているのでしょうか?


「ひさ兄、ひさ兄? ……着いたですよ?」

「え? ああ、すみません」

「今日は、ひさ兄、ぼーっとしてる事が多いです?」

「……そうかもしれないですね」


 僕達は部屋に入り、ダイニングの椅子に腰掛けると、ポケットから巾着と眼鏡を出しました。

 眼鏡をかけて最初に見えたのは、少し残念そうな表情の時雨でした。


「……部屋に居る時以外は、外しますから」

「ありがとうなのです。……流石、ひさ兄なのです!」

「さて、開けますよ?」


 巾着から出てきたものは、


「種とピン留め?」


 植物の種と、同じ形のピン留めが五つ。

 そういえば、星砂は何時もピン留めを大量に持っていましたね。髪と、服の袖とパーカーのポケットと……。


「ひさ兄、お手紙が入っているですよ」


 時雨に手渡された紙には、少し丸みを帯びた几帳面な字が並んでいました。



 久遠くんと妹ちゃんへ。


 手紙を書く必要は無いかなと思ったんだけど、サプライズのプレゼントにしようと思いついたから、軽く説明用に準備したよ。


 植物の種は、妹ちゃんに。まだ用意していないかと思って、知り合いから貰った魔法植物の種だよ。魔力伝導率が高いから、少ない魔力量で使えるよ。

 埋めたら強力な結界になるし、一日で種が出来る。

 キミにぴったりかなと思ったんだ。


 ピン留めは、久遠くんに。これも魔力伝導率が高いのは同じなんだけど、更に魔術との相性も良いんだ。

 慣れない魔術の練習時に、媒体にすると良いと思うよ。


 一応、今日教えた魔術の復習ね。


【氷転。凍てつく氷、鋭く尖りて武器となれ。……氷剣】

【光転。清き光、彼の者を包みて隠せ。……光の衣】


 氷剣は結構アレンジが効くから習得したら、試してみると良いかもね。護身用に近いし、相手を凍らせるくらいの力しかないけど、使う時は気を付けてね。


【暗転。忍び寄る闇、彼の者を囲みて拘束せよ。……影踏み】


 これは、反動があるから使い所を間違えないようにね。


 ……これからも付き合いは続きそうだし、宜しくね。


                         星砂 癒織


「……」


 これは、本来なら今日の約束の後に渡す予定だったのでしょう。

 「これからも」以下の分に少し暖かい気持ちになりながら、僕は星砂の信頼に応えられる様に努力しようと決意しました。

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