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魔術師の異世界召喚  作者: かっぱまき
日本にて
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お仕事

 こんな風に、休み時間毎に連れまわされて数日経った頃。事件が起きた。

 その日は、連日の無敵くんの暴走のフォローでくたくただった。

 仕事もあるのに、昼休みの休息の時間が奪われたのだから当然だけど。

 因みに、こんなに馬鹿をやっても、イケメンパワーの方が上回るらしく、女子は目をハートにしている。


 ……ある意味、尊敬に値するよ。

 

 彼女らは、フォローするのが当然だし、それどころかボクのやり方が悪いとか言い出しやがったよ。要するに、そのポジションを譲れと。

 だが、空気を読まない無敵くんは、ボクの擁護をするので更に女子から睨まれるという悪循環。


 数日前の平穏を返して下さい。


 しかも、何だか具合が悪い気がする。頭がぐらぐらするよ。



 昼休みになって、何時ものごとく無敵くんが突撃してきた時にはボクはもう限界だった。

 ぐらつく視界に、クラスメイトの驚いた表情が映ったのを最後に意識は暗転した。



 実は、ボクは少し体が弱い。原因は分かっているけど、仕事の都合上止めるわけにはいかない。

 弱味を見られても平然としていられるほど器用な性格をしていないから、クラスメイトに知られないように、昼休みの睡眠でカバーしていたのに。


 無敵くんめ。何て迷惑なやつだ。手首も痛いし……。


「目は覚めたかしら?」


 考え事をしていると、保健室の先生に声を掛けられた。


「おかげさまで」


 彼女は満足そうに頷いたあと、ボクをじっと見てきた。


「何時から、寝てないのかしら?」

「……やっぱり、分かります? 寝ていないわけではないのですが。最近、休める時間が減ったもので」


 彼女は、少し考える素振りを見せて言った。


「噂の転入生君かしら?」

「……!」

「やっぱりね。貴方達が走りまわっているのを偶然見たのよ。あまり無茶しちゃダメよ?」


 彼女は、魅力たっぷりなウインクを披露しながら言った。


「そうしたいのですが……」


 ボクは苦笑しながら答えて、昼休みいっぱい休んでから保健室をあとにした。

 因みに、ボクを運んでくれたのは久遠くおん 氷雨ひさめくんという生徒らしい。右往左往する無敵くんを尻目にてきぱきと動いてくれたそうだ。彼も、平凡くんの敵であるイケメンくん。眼鏡が似合う爽やか系男子だ。

 午後の授業は好奇の視線にさらされながらのものだったが、特筆するべきことはなかった。



 その日の放課後。家で訓練をしていると、仕事の連絡がはいった。

 今回の指令は、ボクが数日前に報告した体育館の調査だった。

 ボクは人との遭遇の確率を下げるため、暗くなるまで待って学校へ行った。



 学校に着いたのは、部活生も帰っただろうと思われるほど暗くなってからだった。

 ボクは、気配を消して学校に潜入した。因みに、セキュリティなどの問題がありそうなものだが、ボクの所属する組織の能力を持ってすればあってないようなものだ。



「……」


 ものの数分で目的地にたどり着いたボクは、見たくないものを見てしまった。


 ……どうして、体育館に人がいるんだよ?


 体育館の真ん中辺り、嫌な感じがする場所の直ぐ近くにどことなく見覚えのある男子生徒がいた。


 ……今日、少し縁があった久遠くんだね。うん、眼鏡。


 出来れば気付かれたくないけど、位置的に無理だろうな。

 背に腹は代えられない。覚悟を決めるか。


 ボクは体育館の中に駆け込みながら、彼に声をかけた。


「久遠くん。そこから離れて」

「星砂? 何故ここにいるのですか?」


 彼は、驚き混じりに尋ねてきた。


「話は後で。とりあえず、久遠くんは離脱して」


 言いながら、ボクは久遠くんの前に出た。


【吹きぬける風、壁となりて護れ。……風壁ふうへき


 ボクと久遠くんの前に、薄緑色の大きな壁が形成された。因みに、半透明だから向こう側もばっちり見える。それを呆然と見る久遠くん。

 そこまで準備したところで、足元の床が変形した。

 どうやら、下の方にいたらしい。

 ボクはまだ固まっている久遠くんを突き飛ばして、何とかそこから逃れた。


【羽ばたく翼、我に宿りて運べ。……飛翼ひよく


 すぐに肩甲骨の辺りから、真っ白な翼が出現した。ボクは、久遠くんを抱えて上に逃げた。

 風の足場を作って移動する方法もあるんだけど、初めて魔術を見る人は視認できないものだと恐怖を感じるだろうから、気を使ってみた。

 久遠くんを体育館の二階部分にあたる、カーテンなどがある所に下ろした。


 少し埃っぽいけど、我慢してね。

 

 そこで、漸く久遠くんが復活した。


「……あの、僕は何をすれば良いのでしょうか?」

「流石、久遠くん。理解が早くて助かるよ。……とりあえず、ここでじっとしていてくれれば良いよ。危険を感じたら、ボクを呼んで。急いで片付けるから、万が一だけど」


【吹き抜ける風、彼の者を優しく包みて護れ。……風球ふうきゅう


 球体の結界が、久遠くんを包んだのを見届けて下へ降りた。因みに、移動に便利だから翼は出しっぱなしだ。

 先ほど変形した床からブラックホールの様な淀んだ黒っぽい球体が姿を現していた。

 そこから、次々と現れる異形のもの達。

 一番多いのは、様々な形なのっぺらぼう達だ。確認出来ただけでも、猫、犬、兎、人などの形を模したものがいる。

 様々な色だが、どれも原色に近い。


「……この色なら、いけるかな。門自体も澄んでいないし」


 呟きながら、考えをまとめていく。


「さてと、やりますか」


 無敵くんのせいで体力も回復しきっていないし……。

 目指せ、短期決着だね。


闇転あんてん


 小さく呟くと、体の中の魔力の質が切り替わった。


【忍び寄る闇、彼の者達を囲みて拘束せよ。……影踏み】


 唱えると同時に現れた薄紫色のドームの端の部分を足で踏みつけた。

 これで、ボクが足をよけるまで中に居るものは全く行動が出来ない。

 ブラックホールモドキごとドームで覆ったので、敵の増援の心配もない。

 でも、この魔術は強力な代わりにリスクも大きい。この術を解いた時に、拘束していた分と同等の時間、ボクも行動不能になるというもの。使いどころを間違えると、笑えない事態になるのだ。


氷転ひょうてん。凍てつく氷、鋭く尖りて剣となれ。……氷柱つらら


 剣のようにも槍のようにも見える氷の武器を手に取り、のっぺらぼう達に突き刺していく。因みに、この魔術は氷柱を沢山作ることで遠距離攻撃にも使える。

 のっぺらぼうは予想より硬く攻撃の通りが悪かったが、触れた所から凍っていくので問題なく倒すことが出来た。

 残るは、ブラックホールモドキのみだ。

 ボクは、込める魔力を増やして切れ味と強度が増した氷柱を黒く淀んだ空間に突き刺した。


光転こうてん。清き光、彼の門を閉じて封じよ。……封結ふうけつ


 ブラックホールモドキが姿を消したのを確認して、ボクは影踏みを解除した。

 一応、警戒を怠らないように気配を確認したが、何の反応もないので今日の仕事はこれで終了だろう。

 それにしても、最近はこういう仕事が多い。はっきり言って、異常だ。


 毎回出てくる異形の気配も似ているし、同じ世界だと思う。何も起こらなければ良いけど……。


 考えているうちに行動不能も終わったようだ。久遠くんを迎えに行かないと。


 ……嗚呼、面倒だ。どうやって説明しよう?

 魔術の名前に深い意味はありません。

 誤字脱字、分かりにくい表現などがありましたら、ご指摘いただけるとありがたいです。


 ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

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