謎の迷子くん
*Side:星砂 癒織
「さて、モコくん。これ、どこから入るのかな?」
「しらない。でも、一度しめたらすぐにはひらかない、みたいなことを言っていた気がする。……ってか、その「モコ」ってなに?!」
「え? キミのあだ名だよ」
「いや、それはよそうできたけど。どっからきたの?」
「あー、なんだか、あだ名のパターンが一定化してきたから、新しい風を吹かせようと思ってね」
「それ、おれの名前でやるひつようなくない?」
因みに、ファリ→ファー(マダムとかが、よく首に巻いているあれね)→もこもこ&ふわふわ、みたいな図式がボクの中で出来上がっている。
「嫌なら、変えるけど……」
「ぜひっ!」
「では、フワくん」
「……」
唖然とした表情で、閉口してしまったフワくん。
「うん、本来の名前にも似ているし、こっちの方が良いかもね」
「まって! ……え、どっちがいいの? ってか、どっちがまし? 考えるんだ、おれ!!」
「フワくん、一応、ここ外だからね? 中に入る方法を見つけてからにしようよ」
「えー、誰のせいだよ!? ……って、このまま、「フワ」でけっていしちゃうパターンじゃん!」
不満そうなフワ君の言葉を聞いているうちに、ボクは良いことを思いついた。
「なら、彼にも変わったあだ名をつけようかな。……自分だけだと、気になるものだからね」
ボクは、【風球】に包まれた人物に目線をやりながら言った。
「……そうだね。クレくん、とかどうかな?」
「ぎゃー! にーちゃにもひがいがっ! ……でも、おれのやつよりだいぶいい気がする!!」
因みに、今回は、ハイト→ハイド→隠れる→クレ、という流れだったりする。
「って、こんなことやってるばあいじゃなくて! どうすんだよ、おれら完全にしめだされてるぞ!?」
「でもさ、ひーちゃんはボクたちが居ないことを知っていたわけだから、何かしらの方法があると思うんだよね」
さっきから、その「何かしらの方法」を探しているのだけれど、一向に効果がない。
阿呆みたいな会話を、ただ無駄にしていただけではないからね。
こういうのは、忙しくしていたり騒いでいるうちは良いのだけど、一度落ち着いてしまうと、不安が一気に襲い掛かってきたりするものだから。
しかし、流石に結界なだけあって魔術や魔法では開けられない造りになっているみたいだ。
……この世界特有の方法とかかもしれないよね。一度、辺りを確認してみるべきかな?
「フワくん、この船に今までは見た覚えの無い物とかはないかな?」
やっぱり、結界を破る鍵となれば、いつでも置いてある物ではないと思うんだよね。
まあ、ひーちゃんが「何か」を残してくれていること前提なのだけど。
「えっとねー……、あ! これは、見たことないとおもう」
辺りをきょろきょろと見回したフワくんは、透明に薄い黄緑色を封じ込めた不思議な球体を指差した。
手に取ってみると、親指と人差し指で輪を作った位の大きさで、この暴風雨のなかで吹き飛ばされなかったのが、不思議なくらいの軽さだった。
「いかにも、という感じだね。……うーん、黄緑だし、とりあえず風属性を試してみようかな」
呟きながら、【風球】を使って風属性になったままの魔力をぶつけてみた。
途端に、その球体は光を放ちながら震え始めた。
「……当り、かな?」
光が収まると、そこには、
「……あなたは、だあれ? だあれ? しってるヒト?」
先ほどの球体と同じ大きさで、黄緑色の衣装に身を包んだ人型の何かが浮かんでいた。
「ボクは癒織。キミは誰かな? それから、「しってる」というのは、何を?」
「ぼくは、ぼく。ユオリは、ぼくをしってる? ぼくらをしってる?」
何だか話し難い相手だね……。ゲシュタルト崩壊を起こしそうだよ。
「知らないよ。……もしかして、仲間とはぐれちゃったとかかな?」
「なかま……? なあに、なあに? なかまは、なあに?」
「……一緒に行動する人、とかかな?」
ボク自身、仲間だと思っている人があまり居ないから、参考にならないね。……一応、隊長とかは、仲間だと認識しているけど。
「いっしょにいるヒト? いたよ、いたよ、さっきまで。でもね、いなくなっちゃった、なっちゃた……」
少し寂しそうに見える表情と語尾から察するに、やっぱり迷子か何かかな?
「ええと、キミは何処から来たのかな?」
「ぼく? どこから、きた? きたの?」
「分からないか。……なら、どこで、なかまが居なくなってしまったのかな?」
「んー? ここ、ここだよ」
ますます、よく分からなくなってきたよ……。結局、この子は何なのだろう?
「なあ、ユオリ。こいつとどうこうするより、はやく中に入ろうようよ!」
「あ。そうだったね。……ねえ、キミ。この中に入る方法を知らないかな?」
フワ君の言葉を聞いて、駄目もとではあるけど、ボクは迷子くんに目線を合わせた状態で船底を指差して尋ねてみた。
「ユオリは、このなかにはいりたい? はいりたいの?」
「そうだね。ボクとこの二人もね」
「はこぶ。はこぶ! きゃはは!!」
ボクが答えると、迷子くんは突然笑い出してボクたちの背中を軽く小突いた。
「……え?」
一瞬の浮遊感の後、ボクの視界は切り替わり、目の前には驚いた表情のひーちゃんが立っていた。




