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魔術師の異世界召喚  作者: かっぱまき
海上にて①
21/109

ユノくんの誤解


『ないしょ、だよ?』

『うん、やくそくね』


 ボクたちは、顔を見合わせて笑いあった。



 ……夢を見た気がする。


 寝起きのぼんやりとした頭は、突然響いた足音によってはっきりとした。


「……ユオリ、おはようッス!」


 実は、音を立てないように部屋の扉を開けて、人が滑り込んで来たのには気付いていたんだよね。

 ……起こさないようにしたいのなら、足音にも注意を払わないとだよ?


「うん、お早う。ユノくん」


 ゆっくりと目を開くと、ボクを覗き込んでいたつり目の少年が驚いた表情になった。


「……ちぇっ、起きてたッスか」

「まあ、偶然ね」


 少し悔しそうな表情のユノくんに言った。


「それで、どうかしたの?」

「そうッス。姉ちゃんが起きたんス」


 その言葉に、ボクは少しだけ表情を緩めた。


「それは良かった」

「……全然良かったと思っているように見えないッス」

「そうかな?」


 ボクの反応では満足いただけなかったようで、苦言を呈された。


「それはそうと、ここはキミの部屋とはいえ貸し出しているのだから、一応ノックするのがマナーだと思うよ?」

「……そうッスね。悪かったッス」


 少しばつが悪そうな表情になったユノくん。


「いや、ボクはあまり気にしていないけどね」

「あ、そういえば、ユオリを呼んでくるように言われていたんス」

「……それを先に言おうよ」



 昨日、目を覚ました場所に移動すると、きーさんと見張りの少女が居た。


「来たであるか」

「うん、お早う。きーさんと……」

「おはよう。私は、ヒナヤよ。よろしくね。……貴女、変わったあだ名をつけるって聞いているけど、私はどうなるのかしら?」

「おや、変な期待をされても困るのだけど。……一応、ボクは癒織だよ。よろしくね、ひーちゃん」

「ひーちゃん……。可愛らしい響きね。気に入ったわ」


 ひーちゃんは、にこりと笑んで言った。


「ところで、見張りの仕事は大丈夫なの?」

「ええ、今は、休憩時間なの。他の子が代わりに見張ってくれているはずよ」


 良かった。……ボクのせいで、仕事を全う出来ないのでは申し訳ないからね。


「ええと、それで、ボクはどうして呼ばれたのかな?」

「キリーが、ユオリに話を聞きたいと言っていたんス」

「……まずは、体調に異変はないであるか?」

「概ね良好だよ。……強いて言うなら、お風呂に入りたいけど」


 魔術で海水を取り除いてはいるけど、やっぱりお風呂で流したいよね。……気持ちの問題だけどさ。


「あとで、ヒナヤに案内してもらうと良いのである」

「そうするよ」

「私もまだだから、一緒に入っちゃおうかしら。……あ、服は私のを貸してあげるわね」

「ちょ、ちょっと待つッス」


 この和やかな会話に終止符を打ったのは、ユノくんだった。


「どうしたの?」

「どうしたの? じゃないッス! ユオリって男ッスよね?」


 ピシッ


 空気が凍りつく音が、聞こえた気がした。


「ええと、ボクは男ではないです……」


 ……うぐぐ。何故に間違われるのか。

 そういえば、前にも同じように言われたことがあったよ。


「うむ、どう見ても男には見えないのである」

「馬鹿ね。……ユオリに謝りなさい」


 射殺す様なひーちゃんの視線に、ユノくんは顔を青ざめさせた。


「……ごめんなさいッス」

「……うん。まあ、良いよ」


 これ以上ひーちゃんに責められても可哀想だし、赦してあげよう。


「……そういえば、きーさん。「まず」ということは、他にも聞きたいことがあったんだよね?」


 質問に頷きで答えたきーさんは、ボクをじっと見つめた。


「お主は、どうして《天使の祝福》の対処法を知っていたであるか?」

「……ボクの住んでいた地域では、解明されていたんだよね。というか、そんな名前は付いていなかったけど」

「そういえば、ユオリは何処から来たのかしら?」

「んー、分からないや。……気付いたら、海の中だったんだよね」


 嘘ではないけど、正確でもない。なんとか、誤魔化せないかな?

 申し訳ないけど、まだ信用しきるには、時間も何もかも足りないからね。


「……そうであったか。確かに、どことも交流のない地域の噂なら聞いたことがあるのである」

「そうね。エレメンティア・フロート……は、ちょっと特殊だけど、似たような場所くらいいくらでもあるでしょうしね」

「……エレメンティア・フロート?」


 もしかしたら、この世界では常識的なことかもしれないけど、良い具合に勘違いしてくれているみたいだし、それだけ辺境から来たと思ってもらえれば良いかな。


「あら、知らない? この世界を支える治安維持とか諸々を請け負っている組織よ。大陸を越えて活動をしているわ。一般人には殆ど情報が伝わってこないけど、信憑性はあるみたいよ」

「大陸を越えて? ……拠点とかはどうなっているのかな?」

「噂では、飛行艇を利用しているとのことである」

「他にも、神出鬼没で何かの研究をしてるという話ッス」


 お、ユノくんが復活した。さっきまで、ひーちゃんに頭を叩かれて蹲っていたのに。


「へぇ、じゃあ、一般人は簡単には会えないのかな?」

「そうね。事件現場とかに居合わせれば、話は別だけど」


 ……残念。飛行艇なら、被召喚者たちを捜すのが楽になるかと思ったのだけど。

 因みに、何故魔術使わないかというと、被召喚者たちを魔術で捜してみたところ、距離があり過ぎるのか、ボクの知らない場所だからなのか、反応がなかったためだ。


 飛行艇なら、色んな場所に行くから、どちらが原因だったとしても解決出来て、一石二鳥だと思ったのだけど。

 ボクの……というか異世界の知識があれば、何の研究だろうと多少は力になれるだろうし、興味を引ける可能性は充分にありそうだからね。


「……で、きーさん。呼んだ理由は、これで終わりかな?」

「ああ。長く引き留めて悪かったのである」

「いや、別に気にしていないから。……他に聞きたいことがあったらまた呼んでよ」

「助かるのである」


 そこで、ひーちゃんは手を叩いて話を打ち切ると、口を開いた。


「じゃあ、お風呂に案内するわ。ついてきて」


 ボクは、ユノくんときーさんに手を振ると、ひーちゃんのあとを追った。


 そろそろ、ストックが切れそうです……。

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