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魔術師の異世界召喚  作者: かっぱまき
海上にて①
18/109

癒織さん、間違われる

 あまりにも短すぎたので、次の話をつなげました。

 途中で、sideが切り替わるのでご注意下さい。



「さてと、どうするかな。……久遠くんには、何とかすると言ったものの選択肢はあまり無いんだよね」


 自分以外誰も居なくなった空間で、ボクは呟いた。


 ……考えをまとめるために声に出してみたのだけど、良く考えなくても、ただの独り言を言っている残念な人でしかないね。


 地面に座り込んだまま、ボクは意識を集中させた。


【魔転。我の体を巡りし息吹、魔なる力に姿を変えよ。……魔力変換】


 唱え終えると、今まで以上の気だるさが体を襲った。

 まるで、赤子を数人背負った様な質量を感じる。


 ……まあ、変換していた分の魔力は殆ど失ってしまったから、生命力を犠牲にして新しく魔力を用意したわけで、結構無茶をしているし、仕方がないとは思うけど。


「……もう一つ魔術を使わないとだけど、もつかな?」


 声に出したところで何の問題が解決するわけでもないけど、なんとなくやってみた。


【我に宿りし魔力、解き放たれて駆け廻れ。……魔力解放】


 途端に、必要最低限を残した全ての魔力がボクの支配下を離れた。

 空間に亀裂が入ったのを見届けたところで、急速に意識が遠のき始めた。


「……あー、流石に無謀だったか」


 小さく苦笑したのを最後に、ボクの意識は途切れた。


 *Side:???


 海の上に、飾り気はないが、かなりの大きさの船が一つ浮かんでいた。

 船はどこに向かっているのか、覚束ない足取りでのろのろと進んでいた。


「しけた面してんじゃねえ!」


 突然響いた怒声に、船員達は億劫そうに顔を上げた。


「……船長」


 塩の影響が色濃く伺える、目元が赤い壮年の男が口を開いた。

 目尻に刻まれた皺は笑えば柔和な印象を与えるのだろうが、今は彼をただ疲れた老人の様に見せていた。


「皆、明日は我が身かと思っているのであろう」


 彼の言葉に極端な反応を見せた少年が一人いた。


「姉ちゃんは……、大丈夫ッスよね?」


 快活そうな短い髪とつり上がった目を持つ少年は、不安気に瞳を揺らしながら尋ねた。


「リューノ……。ロゼの様子はどうだ?」


 船長と呼ばれた男は、質問には答えずに逆に質問を重ねた。


「今は寝てるけど、痣は増えているみたいッス」


 それを聞いて船員達は、リューノから視線を逸らした。

 昔から姉弟のことを知っている人達は、この先に起こるであろう、それも遠くない未来の出来事に対して憐れみの感情を抱くだけでは足りなかった。


「……ハイトの兄ちゃんみたいにならないッスよね?」


 尚も言い募るリューノに、今度こそ皆は黙り込んでしまった。


「船長ーっ!」


 その時、場の空気を打ち破る程の大きな声が響いた。

 その声は、見張りを担当している目が一番良い少女のものだった。


「なんだ?」


 もしかしたら、何らかの問題が発生している可能性もあると、船員たちは少女の言葉に耳を傾けた。

 だが、続いて少女の口から飛び出た言葉は、誰も予想していないものだった。


「船の針路に白い鳥が居るんです。……溺れているのか死んでいるのか分かりませんが、動く様子が全くないんです」

「……鳥など捨て置けば良い」


 船長の言葉は普通の判断だったが、それを聞いた少女は悲痛そうな表情を顔に浮かべた。


「あのままでは、船に巻き込まれて粉々になってしまいます。それでは、あまりに不憫ではないですか!」

「……ならば、お前の好きにすれば良い」

「ありがとうございます!」


 「勝手にしろ」と言わんばかりの投げやりな言葉に、少女は満面の笑みで返した。



 見張りの少女は、短いながらも後ろで一纏めにした髪を風に煽られながら一心に双眼鏡を覗いていた。

勿論、船長から言質、もとい許可を取ったので、鳥を救出するべく状況に変化がないか注意深く確認しているのだ。


「少し針路をずらしてもらえば、簡単に回収できそうね」


 小さく呟くと、少女は船が鳥に近づくのを待った。



 先ほどより、鳥が一回り大きく見えるほど近づいた頃、少女は違和感を抱き始めていた。


「本当に鳥、かしら? ……鳥にしては大き過ぎるような気がするわ」


 海の波間からちらりと覗く白いものは翼に間違いないのだろうが、それの大きさが可笑しかった。遠近感を狂わせるほど大きな翼に、少女は首を傾げた。



 その数分後、甲板に少女の声が響きわたった。


「鳥じゃないわ! ……あれは、人間よ!!」



 まもなく海から救出されたのは、中性的な顔立ちの人間だった。年の頃は、十五、六位だろうか。

 背中から生えた大きな翼のおかげで溺れてこそいなかったが、波間をたゆたう間に体力を使い果たしてしまったようで、生気が全く感じられなかった。

 海水に体温を奪われたのか、その人の顔色は生きているのか疑いたくなるほどに悪い。


「これは……、生きているのであろうか?」


 壮年の男が、誰にともなく呟いた。

 助け出した見張りの少女も不安そうな表情で見守っている。


「……ん」


 その時、微かな声が聞こえた。

 船員達は、発生源と思われる人物を見た。

 その人は、目蓋を震わせると、ゆっくりと辺りを見回した。

 そして、高くもなく低くもない声を響かせた。


「キミたち、誰?」


 これが、この世界での、癒織と異世界住民のファーストコンタクトであった。

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