彼女とボク *2
最近予定が立て込んでいまして、長らく放置してしまい申し訳ありませんでした。どうでもいい話なのですが、今年になってからAとBの両方のインフルエンザになりました。
ボクは小さくため息をつくと、目線だけで辺りを見回した。友里音ちゃんから完全に意識をそらしてしまうのはただの自殺行為だ。
とりあえず、友里音ちゃんの父親は放置でいいかな。友里音ちゃんの行動にさして驚いた様子がないところは不気味だけど、さすがに魔術に対抗する手段はないだろうし。
目下の問題はここからどうやって脱出するかかな?
こんな強硬手段に出たからには、ただで帰らせてもらえるとは思えない。
考えをまとめると、いくらか気持ちが落ち着いた。幸いにも、考えている間に友里音ちゃんが攻撃を仕掛けてくることはなかった。こちらの出方をうかがってから行動するつもりなのだろうか。
ならば、好都合。ボクから仕掛けるまでだ。
一瞬友里音ちゃんと遊んだ時の光景が頭を過ったけど、それを振り払って息を吸い込み唱えた。
【羽ばたく翼、我に宿りて運べ。……飛翼】
【風転。吹き抜ける風、我を包みて護れ。……風球】
続けて唱えると、肩甲骨のあたりから翼が生え、薄緑色の魔力がボクの体の周りを包み込んだ。まずは身の安全を確保することが最優先だ。
ボクの準備が整ったところで、友里音ちゃんの方から魔力のゆがみを感じた。建物の中なのであまり意味はないけど、咄嗟に上の方に退避した。
ボクの動きが終わると同時に、屋敷全体から地響きのような音が聞こえてきた。
「うわ、危ない」
屋根や柱の一部が目の前を飛んでいき、思わず呟いた。最初は建物ごと壊してしまうつもりなのかと思ったけど、彼女の父親の存在を思い出してその可能性を否定した。
暫く屋敷の破片を避け続けていると、嫌でも彼女の意図が分かってくる。……どうやら、空間を作り変えているらしい。これをすれば本人しか空間の把握が出来なくなるので、確かに有効な作戦だと終えるだろう。
自分良く知る場所だというアドバンテージがあるとしても、そう簡単にはできない高難度な魔術の筈なんだけどね……。
因みに、作り変えの途中に駄目元で上からの脱出を図ったが、当然の如く結界が張られていてこの短時間で無効化は出来なさそうだったので断念した。
最後に、ガタンという音を立てて組み換えは終了した。
友里音ちゃんはボクの方を一瞥してから、新しくできた壁に右手をついた。壁は主を招き入れるように左右に割れると、彼女を飲み込んで再び道を硬く閉ざした。
無駄だとは思いつつも彼女の真似をしてみたが、案の定壁は何の反応もしなかった。
同じ道から行くことは諦めて、目の前の光景に目を向ける。後ろはただの壁で、正面には左右に分かれた廊下があった。どちらかの道を選べということなのだろう。
考えたところで分かる筈もないので、適当に右の方を選んだ。右の道に一歩踏み出すと、背後から先ほどと似たような音が聞こえてきた。嫌な予感を抱きながら振り返ると、もう片方の道は跡形もなく消えていた。
……やっぱり、本人に魔術を解除してもらわないとどうにもならない感じかな?