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魔術師の異世界召喚  作者: かっぱまき
日本にて
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朝の出来事



 登校後、無敵くんがまだ来ていないことを確認して机とお友達になっていると、珍しい人が話し掛けてきた。


「おはよー」


 大量のアクセサリーを着けている、明らかに校則違反の人物がこちらを覗き込んでいた。


 一応、私服の学校とはいえ、流石にアクセサリー類は禁止だからね。


 髪は色素が薄く金色だが、脱色しているにしては傷付いている様子がない。因みに、少し日本人離れしてはいるが顔も整っている。


「……お早う。空閑くん」


 彼の名前は空閑くが 緋波あけはくん。

 何故、ボクに態々話し掛けてきたのかと教室を見回すと、ボクたち以外には誰も居なかった。


 最近無敵くんから逃れようと、登校時間が早くなっていたからね……。


 そして、空閑くんはとにかくお喋りなのだ。つまり、話す人が居なくて、偶然居たボクに白羽の矢がたったということ。


 さみしがりやなら、もっと遅い時間に来なよ。


「星砂と話すのは初めてやなぁ。緋羽で構わんよ?」

「……いや、名前は呼ばない主義だから」


 空閑くんは、勝手にボクの近くの席に座った。

 ボクは方言に詳しくないので、空閑くんがどの地方の出身か分からないけど、その髪も含めて彼にとても似合っていた。


「ふーん。まあ、ええけど。……あー、暇やなぁ。何か面白いことあらへんの?」

「……知らないよ」


 人に話し掛けておきながら暇って、失礼な奴だね。


 うーんうーんと唸った空閑くんは、突然ピコーンと口で言うという古典的な閃き方をした。


「しりとり、せえへん?」

「うわっ、考え抜いた結果がそれなの?」

「……何か文句でもあるんか?」


 少し不機嫌そうになった空閑くん。


「まあ、ええわ。オレからな。……「しりとり」の「り」やから、りす」

「しりとりは強制かい……。スイス」

「すいか」

「カス」

「す、すみれ。……何かグサッときたんけやど」

「他意はないよ。レース」

「うぐぐ……。スカイ」

「イス」

「……すー、す、スミス」

「誰? スライス」

「すり。……ふふん、りすはあかんよ?」

「リース」

「……うーん、スキー」

「鱚」

「……スロー」

「ロス」

「す、スロット」

「トス」

「……何か恨みでもあるん?」

「別に」


 すらすらと答えていたら、空閑くんが恨めしげに見てきた。


「だって、さっきから「す」ばっかりやん」

「……「す」で終わる言葉は多いからね。それで返せない言葉を言わないと」

「うー、止めや止めっ。全然おもろないわ」


 自分が勝てないから、面白くないって……。餓鬼か。というか、それくらいの実力しかないのに挑んでこないで欲しいな。


「それよか、星砂はどうして笑わんの?」


 ボクのじと目に気付いたのか、空閑くんは慌てて話題を変えた。

 ……変な表情を浮かべながら。


「……笑うに値するだけのことがあれば笑うよ」


 とりあえず、今の変顔で笑わせようというのは、おこがましいと思うよ?


「うーん、笑わへんか」


 そもそも、最近浮かべた笑みは、相手を挑発するものと絶望を植え付けるもの(仕事で相手を無力化させるためであって、断じてボクの趣味ではない)だけからね。


 楽しくて笑みを浮かべたのは、もう十年以上前になる。


 おかげで、中学生時代は、「能面」とか呼ばれていたからなぁ。

 ……こっそり言っているつもりだったのだろうけど、気付いていたからね?


「……キミはボクを馬鹿にしているのかな?」

「そんなことないけどなぁ? ……話は変わるけど、星砂のことどっかで見たことある気がすんのや。何か覚えてたりせえへん?」

「……ボクは心当たりがないんだけど。……で、話は終わりかな? ボクは無敵くんが来る前に寝てしまいたいんだよね」

「……そら、邪魔したらあかんな」


 一応引き下がってくれた空閑くんに感謝しつつ、ボクは睡眠モードに移行した。



 ボクは、小さな女の子と一緒に遊んでいた。ボク自身も彼女と同じくらいの年齢だった。

 公園で遊んだり、内緒で魔術を使って見せたり……。

 とにかく、とても楽しくてボクは終始笑っていた。

 でも、そんな幸せな時は長くは続かなかった。


 ……何が原因だったんだっけ?

 ボクが悪かった? それとも、あの子が?


 そういえば、上手く笑みを作れなくなったのはあの頃からだったかもしれない。


 だって、あの子は……。



 机から顔をあげると、嫌な汗が首筋から背中へつつーっと流れ落ちた。


 ……懐かしい夢をみた。最近は、見なくなっていたのに。


 あの夢はいつもバッドエンド。実際の結末と同じ。


 まあ、それはボクの主観ではの話。他の人から見たらどうなのかは分からないけど。


 頭を小さく振って夢の内容を追い出すと、ボクは時計を確認した。


 八時二十分。


 朝学習まで、あと五分。特に理由もなく辺りを見回してみた。


「おはようございます」

「……お早う。久遠くん」


 丁度目があった久遠くんと挨拶をしていると、青柳先生が教室に来た。



 ボクは朝の連絡で驚くべきことを知った。青柳先生が気だるげに言った内容だった。


 曰く、大分遅いが、今日新入生歓迎会をやるのだとか。他のクラスメイトたちは驚いている様子がなかったから、無敵くんに連行されていた昼休みあたりに連絡があったのだろう。


 久遠くんも、教えてくれれば良かったのに。……まあ、知っていると思っていたのだろうけど。


 というわけで、今日の授業は二時間目までしかないらしい。


 ……確かに、荷物が軽いなとは思っていたけど。良く気が付かなかったな、ボク。



 只今、二時間目と三時間目の間。歓迎会は二時間を予定しているらしい。


「そういえば、久遠くん。歓迎会の内容って知らされているのかい?」

「いえ、体育館で発表されるそうですよ」


 うーん、運動系じゃないと良いな。因みに、ボクの寝不足は未だに続いている。

 土日で解消する予定だったのだけど、仕事が立て込んだからね……。



 そんなボクの期待を裏切って発表された内容は、「スタンプラリー兼鬼ごっこ」という何だか濃さそうなゲームだった。

 二時間かけて学校の各所に置かれたスタンプを集めつつ上級生に捕まらないように逃げるというシンプルなルール。


 ……ボクと無敵くんやばくない? 上級生に狙い打ちにされない?


 因みに、捕まると失格で、生き残った人のなかでスタンプの数が最も多い人が優勝。優勝者は、常識の範囲内で学校にお願いが出来るそうな。

 一人で逃げるも良し、誰かとチームを作るも良し。ゲームが終わったら、昼食をはさんで結果発表という流れ。

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